8歳の老婆・バネーラ_02
赤ん坊との生活は、バネーラのそれまでの生活を、一変させました。
どんな風にかと言うと、「慌ただしく」なりました。
赤ん坊はミルクを飲むもの。
8歳の老婆のバネーラにも、それは分かっていました。
ミルクは母が出すというのも、バネーラは知っていました。
バネーラは自分の乳房に赤ん坊の口をつけましたが、どうやらミルクが出ていません。
「どうしてだろう……?」
何が悪いのか、何が問題なのか、分かりません。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
赤ん坊は泣くばかりで、なにも教えてはくれません。
「なんで泣き止まないの!」
バネーラは怒りました。
だけど、赤ん坊はさらに激しく泣くばかりです。
悲しくなって、思わず一緒に泣きたくなるのを、バネーラは我慢します。
「そうだ! 私にはできないけど、あのヒト達になら……」
バネーラはそう考えて、森の仲間に頼ることにしました。
50年も住んでいた森です。
森の仲間は、バネーラには沢山いました。
「ヤギさんヤギさん、ミルクをくださいな」
ミルクは母が出すもの。
つい先日出産を終えた母ヤギに、バネーラはそう、お願いをしました。
母ヤギは、「メエー」と鳴いてから、ゆったりと地面に座り、バネーラと捨てられた赤ん坊にミルクを分けてくれました。
赤ん坊はヤギの乳に貪りついて、最後にゲップをしてから、穏やかな顔で眠りにつきました。
それからの1年は、色々なヤギにミルクを分けてもらいながら、捨てられた赤ん坊はスクスクと育っていきました。
バネーラの生活は、自然と赤ん坊を中心に、まわっていったのです。