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私の愛と貴女の愛

「私、県外の高校に通いたい」


 中学三年になってすぐ、貴女は言った。

このままだと、離れ離れになってしまう。

それは絶対に嫌だった。


「じゃあ、あたしもそこに行く」


 小学校六年間、中学校三年間、ずっと一緒にいたように、高校三年間も一緒にいたい。

いや、大学も、その先も、ずっと一緒にいたい。

一緒にいて、同じ未来を見ていたい。

その未来に、二人で行きたい。


これが『愛』かな、なんて思った。




 文化祭からだいぶ日が経った。

あれから私は変わった。

まず、まともに明子の顔を見れない。

かといって、二人で暮らしてるからどうがんばってもずっと顔を合わせなきゃいけない。

われながら、こんなに恥ずかしくなるなんて思わなかった。

告白されるのとはわけが違うなあ。


 

 でもこのままじゃいけないと思い、明子とクリスマスイブに遊ぶ約束をした。

もちろん、ただ明子と遊ぶだけではない。

半年前の返事をするつもりだ。


「愛、夕飯できたよ」


「は、はーい」


 もう何回読んだかわからない、『愛の名言』を閉じる。

結局、ためになったのかわからない。

でも、私が明子に抱いているものは『愛』に違いない。


「「いただきます」」


「あ、そういえば明日だね、デート」


「そっ、そうだね」


 明日、いよいよ最も有名な『前日』である。

ちゃんとプランも練ったし、大丈夫。

たぶん。



 頭の中でプランを復唱してたら、朝になってた。

お出かけはお昼からにしておいてよかった。



「あ、髪しばるんだ」


「せっかくヘアゴムもらったしね」


「使ってくれるのは嬉しいなあ。よし、じゃあ行こうか。今日は全部愛にまかせたからね」


「う、うん」


 プランといっても、実際は普段明子と出かけるような場所だ。

まずは図書館に行こう。



「ここでいいの? あたしはいいけど」


「ほら、明子本好きだし」


「じゃあお言葉に甘えて」


 明子は本を数冊持ってくると、座って読み始めた。

私はその明子の顔を見る。

今まであまり意識してこなかったけど、本を読んでいる明子はとてもかわいい。

読んでいる場面によって、微妙に表情が変わるのだ。

明子はもともとかわいいと思っていた。

でも、文化祭以降、どんどんかわいくて困る。

いや、困らないけど。


 図書館を出た後は、ショッピングモールでお互いのクリスマスプレゼントを買った。

出発がお昼だったのと、図書館で結構時間を使ったから、もう空が暗くなり始めている。


「どうする? クリスマスだしチキンでも買って帰る?」


 さて。

覚悟を決めろ、私。


「えっとさ、ちょっと遠回りだけど、向こうの大通りにイルミネーションがあるんだって、それを見たいなって」


「いいね、行こうか」


 せっかくこんな日だし、それっぽい場所で返事をしたかった。

なんて言おうか。

いきなり『はい、私もです』じゃあなんのことだかわからないよね。

いっそ私から告白してしまうとか。

うーん……。


 いろいろ考えてたら、大通りについてしまった。


「綺麗だなあ」


「そ、そうだね……」


 しばらくイルミネーションを見る。

ど、どうしよう……。

しばらく黙っていると、明子がこっちを見た。


「今日なにかあたしに言いたいことがあるんじゃない?」


「う……」


 鋭い。

いや、ずっと挙動不審だったし、バレバレかな。

さあ、告白の返事をしなきゃ。

でもなかなか言い出せない。

とりあえずなにか言わなきゃ。


「明子は、私のこと愛してる?」


「もちろん。今更だね」


「で、でもさ、もし明子が私のことどうでもよくなっちゃったりしちゃったら」


 告白とは関係ない、不安ばかりでてくる。


「そんなことはないよ。あたしを信じて?」


「でも…………」


明子の顔が少し不機嫌になった。


「あたしを信じてくれないなんて……もう怒った」


「え……どうしたら許してくれる?」


「ゆ、許してほしければ……」


 私たちも人間だから、それなりに喧嘩もしてきた。

相手が何に怒ってるかとか、どうしたらおさまるかとか、わかる。

でも、今回はわからない。

さて、なにを言われるのか……。


「キスして」


「なっ…………」


 私だってしてみたい。

でも、これは幼少期にやったようなお遊びとは違うと思う。

でも、これが告白の返事になるのなら。


 私は、未来が不安。

 もし、明子が私から離れていってしまったら。

 もう私には両親はいないようなものだ。

 もはや恋人なんかでは足りない。

 一緒にいて、同じ未来を見ていたい。

 その未来に、二人で行きたい。


 明子とキスをすれば、そんな不安が消えるような気がした。

私は、明子の肩に手を置いた。

明子が目を閉じる。

私は息を止め、顔を近づけた。


「……………………」


「……………………ん」


 このまま時間が止まれば良いのに。


 肩から手を離し、明子の身体を抱きしめる。


 明子も抱き返してくる。


 暖かい。



 永いキスを終え、唇を離す。

明子の瞳に私がいる。

お互いの息を吸い、呼吸を整える。

明子を見つめていると、優しく囁かれた。


「愛があたしのことを愛してるのは知ってるよ」


「なんでそう思うの?」


「『愛』の力かな」


 明子が微笑む。


「でも……私は……」


 言いかけたところで、私の口が軽く塞がれる。


「大丈夫。あたしはずっと貴女のことを愛してるよ」


「でも、私は……こんなにも隣にいたい、これからもずっと隣にいたい、って思う人は初めてで……もし明子がどこかに行ってしまったらと考えると……」


「そっか……でもね、あたしも心配だったんだ。愛がいつかあたし以外のところに行ってしまうんじゃないかって」


「う……わ、私は……私は行かないよ」


「うん。あたしは『愛』を信じてる。だから、愛もあたしを信じて?」


「……明子は、死ぬまで愛してくれる?」


「ううん」


 明子の顔が近づく。


「死んでも」


 再びキスをした。




 この後われに返って、二人でもだえた。

飛ぶように家に帰り、その勢いのままお風呂に入り、寝た。

チキンは食べた。


 翌日、すでに日は高く上っていた。

冬休みでよかった。

明子はまだ寝ているみたいだ。

部屋にこっそり忍び込む。

ベッドの上の明子に顔を近づける。


 あ、そういえば、私から明子に『愛してる』ってまだ言ってないなあ。

ちょっとずるいかもしれないけど、寝てる今のうちに言ってしまおう。


「愛してるよ、明子」


 そっと唇を重ねる。

私の顔が赤くなっていくのがわかる。

明子の顔も赤くなっていく。


ん?


「お、おはよう……」


「あ、ああ、明子、いつから……」


「入ってきたときからかな……ねえ、もう一回言ってよ」


「わ、私朝ごはん作らなきゃ!」


「あ、待ってよ!」


 

私たちの未来はどんなものだろうか。

でも、明子がいればどんなものでも大丈夫。


終わり

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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