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体育祭

「はぁぁぁぁぁぁぁ」


 夕ごはんが終わり、明子が深いため息をついた。

理由は聞かなくてもわかっている。

来週に控えている行事のせいだ。


「愛は種目何にした?」


「障害物競走だよ」


 そう、体育祭である。

うちの高校は五月にするらしい。

私が障害物競走を選んだのは、内容についてちらっと聞いて、これならいけると思ったから。


「あー、愛がキスしてくれたらあたし速く走れるかもしれない」


「あんたどうせ大縄でしょ」


「ばれたか」


 運動苦手な明子が選びそうな種目なんてすぐわかる。

あと、私たちはクラスが違うから明子にはむしろ弱体化してほしい。


「どうか体育祭から一ヶ月くらい雨が降り続けますように」


 この地域大迷惑。


「もし実際順延続けたらどうするんだろ」


「さあ」


 明子は寝そべりながら生返事をした。



 日に日に読む本がネガティブになっていく明子をおかまいなしに、体育祭はきてしまった。

今日は雲も無く、延期になる気配は微塵も無い。


「愛、あたしは陽に当たると灰になってしまうんだ」


「ハイになるならいいじゃん。ほら学校行くよ」


「大縄だし1人くらい居なくてもばれないのに……」


 嫌がる明子を引きずり出して学校まで連れて行った。

無事開会式も終わり、種目が始まる。

明子の大縄はもうすぐで、私の障害物競走は午後からだ。



 あ、明子が入場してきた。

まずは一年生からだ。

大縄のルールは、連続で何回飛べたかを競うものらしい。

明子は引っかからずに飛べるかなあ。


「それでは、始め!!」


 みんな一斉に跳び始める。

たまたま私の前に明子のクラスがいたから、明子を探す。

背が低めなので端のほうにいた。

なんだ、しっかり跳んでるじゃん。


「「「いーち! にーい! さーん!」」」


 それにしても、揺れてる。

結構揺れてる。

あれ痛くないのかな。

そうだ、あんなに動く明子は珍しいから写真撮っておこう。


 明子(の胸)を見てたら、いつの間にか終わっていた。

順位は聞きそびれてしまったけど、明子のクラスはなかなか続いてたと思う。


「もうだめ」


「おつかれ。結構跳べてたね」


 わざとらしくふらつきながら、明子が私のところへ来た。

明子はそばにくると、私の膝に寝転んだ。


「ちょっと明子」


「もう動けないー」


「せめて汗拭いてよ」


 明子はのそのそと起き上がり、私のタオルで顔を拭き始めた。


「あー、明子の匂い」


「あんたなんか変態になってきてない?」


「……ほ、ほら、これもアピールだよ。ドキドキした?」


 明子からタオルを奪い取る。 

いろいろ心配でドキドキしたわ。


「というか自分のクラスに戻らないの?」


「たどり着けなくて」


「あんたのクラス思いっきり通り過ぎてたけど」


「明子の隣に居たくて」


 これはドキドキしたかもしれない。



 明子が自分のクラスに戻らないから、一緒に座って競技を見る。

やっぱり中学の体育祭より派手だなぁ。

種目も多彩で面白い。

午前の最後の種目、借り物競走が始まった。

各々紙を取りに行き、開いている。


「あたしも借り物競走が良かったなあ」


「あんた他人にこれ貸してください! なんて言えないでしょ」


「愛に借りるよ」


 メガネくらいしか貸せないなあ。



 午前の種目が終わり、明子とお昼を食べた。

当番の明子は消化に良いものを入れてくれてたし、美味しかった。

よし、頑張ろう。


「頑張れー愛ー」


 明子がすぐ近くで応援している。

それにしても、堂々と敵クラスを応援してていいのか。

手を振る明子に振り返し、スタートラインにつく。

よし、そろそろだ。


「位置について、よーい」


 ピストルの音が響く。

まずは網くぐり。

先頭じゃないほうが良いってどこかで聞いたから、ゆっくり走り出す。

よし、割とすんなり抜けられたかな。

私は背が大きめだから、つまづくとしたらここだと思う。


 次はバットか。

バットを地面に立て、頭をつけて10回回る。

う……10回でも結構目が回る……。


 若干ふらつきながら、平均台に向かう。

先に着いた人たちは続々と渡り始めていた。

よし、私も……おっと。

おっとっと。

おっとっとっと……。


 列の後ろに並びなおすことになった。

平均台は二台しかなく、みんなバットのせいで落ちるからもう列になっている。

そのうち、治った人から渡り終えていく。

私も早く行かなきゃ。


 次は、ピンポン球をスプーンに乗せ、落とさないように走る。

ところで、人には意外な特技があったりするよね。

私は、まさにこれである。

ちらっと聞いた内容にこれがあったから、障害物競走を選んだ。

一度も落とさず走りぬけ、二位に浮上した。


 最後は麻袋に入り、ジャンプでゴール。

……結構きつい。

私も運動不足だったかなあ……。

10クラスあるし、5、6位くらいでも十分だよね……


「愛ー!」


 ……もうちょっとだけ頑張らなきゃ。

何度も転びそうになりながら、なんとか二位でゴールした。



「あたし絶対筋肉痛になる」


「大縄ってそこまでおおげさじゃないでしょ」


 体育祭は無事終わり、二人でダイニングに寝そべっている。

クラス順位は二人とも真ん中あたりだった。


「ほら、今日暑かったし」


「確かに。これからもっと暑くなるよね」


 今ここには扇風機しかない。

冷房どうしようかなあ。


 今日は明子も私も料理する気が起きなかったから、スーパーでお惣菜を買ってきた。

食べながら二人でテレビを見る。

『結婚したけど、こんなはずじゃなかった』スペシャルをやっていた。


『ほんとにもうね、結婚前は気がきく男の人だと思っていたのに、いざ一緒に住むとひどいんですよ』


『知らない趣味とかありますよねー』


 私は明子のことを結構なんでも知っていると思う。

さすがに私を愛してるなんていうのは知らなかったけど。

明子も私のことをほとんど知っていると思う。


「明子はさ、私がどんなんでも愛せる?」


「それは結婚してくれるってこと?」


「そうはならないでしょ」


 明子はたまに話が吹っ飛ぶ。


「たとえば……私が実は宇宙人とか」


「あはは、なにそれ」


「あとは……実はロリコンだったとか」


「あたしはどんな愛でも好きだよ」


 最近明子が照れない。

つまらないから、慌てさせてやろう。


「じゃあもし私が明子を嫌いだったら?」


「それは……でも、『もし』だから何も心配してないよ」


 ……明子のくせに。

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