表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/37

05.学校の怪奇現象【5】

自分で決めたルールを無視して投稿してみる。

いや、だいぶ書き溜めてあるから、第2章くらいまでなら一気に行けるんじゃね? と思ったんです。













 翌日も試験だった。試験最終日。千草は眠い目をこすりつつ、試験を受けていた。うとうとしてしまったが、最後まで寝なかったのはほめてもらいたい。


「ちーちゃん、眠そうだったねぇ」


 試験がすべて終了し、加代子が声をかけてきた。千草も帰り支度をしながら「ちょっと夜更かししちゃって」と苦笑を浮かべた。


「勉強してたの? 偉いね~」


 加代子はのほほん、とした調子で言った。ややおっとりしているのが加代子なのだ。


「ねえねえ! 今日、ちょっと鏡を見て帰ろうよ!」

「鏡?」


 興奮した様子の加代子に、千草は首をかしげて聞きかえした。鞄を閉めて、手に持つ。加代子はそんな千草の腕をつかんだ。


「ほら! 前に話した、二階にある大きな鏡! 幽霊が見えるっていう!」

「あー……」


 その話を聞いて、昨日調べに来たのだった。おそらく、もうその鏡で怪奇現象は起きないだろう。瑠依が言っていたことが確かなら、その出口は完全に閉じられているはずだ。


「うん。行こうか」

「やった! さすがはちーちゃん」


 加代子は楽しそうに言った。おそらく、一人で行くのが怖かったのだと思う。千草も本当に出口が閉じているか確認したかったので、利害の一致というやつだ。


 二階までやってくると、オカルト好きの加代子は迷わずに鏡を覗き込んだ。彼女は、千草が陰陽師だと知ったらどんな反応をするのだろうか。興味があったが、言う気はない。


「うーん。何も映らないね」

「普通、心霊現象は夜に起きるものでしょ」


 実際はそんな事もない。心霊現象は昼間にも起きることはある。たいてい、みんなが気づかないだけだ。


 千草は加代子にツッコミを入れつつ、注意深く鏡を観察する。


 ……うん。ちゃんと閉じてる。


 『出口』が閉じていることを確認し、千草はほっと息をつく。瑠依曰く冥府の役人が閉じて行ってくれたようだったが、半信半疑だったのだ。


「あーん。やっぱりダメかぁ」


 加代子が残念そうな声を上げる。千草はふと思って尋ねた。


「加代子って霊感あるの?」


 ちなみに、現代では霊感がある人間はほとんどいない。そのため、『霊感がある』と言えば変な目で見られることが多いのだ。そのため、千草も友人たちには霊感があることを隠している。たまに生きた人間と霊の区別がつかない人もいるが、幸い千草は区別のつく人間だ。区別がつかないと奇行に走り、危ない人という認定を受けるのだ。


「ないわ!」


 でしょうね。元気よく答えるのもどうかと思うけど。視えない人間ほど、オカルト好きになる傾向がある。

 あきらめた加代子と連れ立って、千草は帰路につく。その道すがら、加代子は尋ねてきた。


「そう言えば、土御門って安倍晴明のゆかりの家系なんじゃないの?」

「……そう言われてるけどね」


 言われているどころか、千草は直系である。力自体は兄の方が強いが、千草も相当霊力の強い陰陽師である。千草の場合は破魔の力に特化しているため、その他の霊力が低いのであると思う。


「何しろ、千年も前の話だから」


 知り合いには、その千年も前から生きている女性がいるが。


「ま、それはそうよね。あ、夏休み、ちーちゃんちに遊びに行っていい?」

「……別にいいけど」


 コロコロと話の変わる少女だ。家に来るくらいは問題ないだろう。千草の家は言えというより屋敷であるが、家は家だ。もしかしたら、大学から帰ってきた兄がいるかもしれないが、兄はいてもいなくてもあまり変わらないのでいいだろう。たまに、千草も帰ってきたことに気付かないし。

 さらに、土御門邸には十二天将がいるが、姿を見せるのは今のところ数名。最近は貴人と天后のふたり。人間より神に近い存在である彼らは、顔立ちが整っているが、そばに瑠依という神がかった美貌の人物がいるので、さほど気にならない。


「やったぁ。約束よ。あと、数学教えてね」

「私も教えられるほどできないんだけど」


 瑠依によると、教えることで知識として定着するので、人に教えるのは自分の勉強にもいいらしい。なので、加代子の申し出はむしろ喜ぶべきなのかもしれない。自信はないが。


「じゃあちーちゃん。また明日」

「うん。また明日。気を付けてね」

「うん」


 駅の前で加代子と手をふってわかれた。駅構内に消えていく加代子の背中を見送り、千草は再び歩き出した。


 夏休みまで、もう少し。
















「ただいまぁ」

「やあ。お帰り」


 千草は朗らかにあいさつをした人物を見て沈黙した。貴人と差し向かいで座って茶を飲んでいるのは、言わずもがな、瑠依である。今日も神々しい間での美貌……ではなく。


「誰も出てこないから変だと思えば……」


 いつもなら、貴人が出迎えてくれる。この時間、天后は昼食を作っているからだ。

 なのに貴人が出てこなかったのは、瑠依が来ていたからなのだろう。


「瑠依、人の家でなにしてるのよ」

「そう言うところ、木綿子ゆうこにそっくりだよね」


 やはり朗らかに笑い、瑠依は言った。木綿子というのは千草の祖母で、現在の土御門家当主である。全国を飛び回っているパワフルな老婦人で、めったに家に帰ってこない。千草は心の中で祖母を『妖怪人間』と呼んでいる。


「貴人に用があったんだよ。もう済んだから、帰るよ」


 そう言って立ち上がった瑠依はまだ学生服を着たままだった。二十歳前後に見える瑠依に少々子供っぽいデザインであるが、着こなしているところにセンスの高さを感じる。


「学校から直接来たの?」

「私は試験が二つだったからね。君が帰ってくる前にお邪魔させてもらっていたんだ」

「私に聞かせられない話ってこと?」


 立ち上がった瑠依は、同じく立っている千草の頭をなでた。


「君には関係ないことだよ」

「爽やかな笑顔で言うセリフじゃないわね」


 むっとして千草は言った。突き放された気がした。友達だと思っていたのに。


「人間が関わることではないということだよ」


 時々忘れるが、瑠依は神なのだ。半神半人であるが、神に近い存在。何をつかさどり、親の神は誰なのかも知らないが、彼女が神なのはわかる。感じる。彼女が持っているのは霊力ではなく、神通力だ。


「じゃあ、お邪魔したね、千草。貴人も、参考になったよ」


 言った通りに帰ろうとする瑠依の背中を、千草は思わず呼び止める。


「……たとえ、たかが人間でも」


 瑠依が振り返る。


「力を貸すことはできる。助けたいと思う。神だって、全能ではないわ」

「……わかってるよ。人間は、時に神よりも強い」


 神でありながら、瑠依は多くの人間と関わっている。人間の強さは理解しているだろう。


「それでも、やはり人間が手を出すことではないよ。これは私の問題でもあるしね」


 じゃあ、また今度ね、と瑠依は手を振って土御門邸を出て行った。それを見送った後、貴人に尋ねる。


「瑠依、何の用だったの?」

「……現在の京都の守りについて聞かれたね」


 貴人は微笑みながら言った。はぐらかしている様子もない。

 京都、平安京は桓武天皇がこの地が四神相応の地であるから都を移したことで有名である。そのことは瑠依も知っているだろうし、むしろ、彼女は平安京遷都に関わった疑惑のある人物だ。知らないはずがない。

 なのに、貴人にわざわざ何を尋ねているのだろうか。


「もし現在、あの方がこの世界から消えたら、京都がどうなるかを知りたいのが本音だったみたいだけど」

「……はあ?」


 千年以上を生きている瑠依がいなくなる? 確かに、日本神話の神々は不死身ではないが、瑠依は強い再生能力を有している。そのため、簡単に死ぬとは思えないのだが。


「良くはわからないけど、いざという時はよろしくって言われている気がしたんだ」


 貴人がやや顔を曇らせながら言った。千草も顔をしかめる。それは、貴人に行ってどうにかなる問題なのだろうか。というか、実は瑠依は京都を守護していたのか?


「……そう言えば、瑠依って何の神なんだろう。『瑠依』だって、本名じゃないよね」

「まあ、それはそうだろうね。僕も詳しいことはわからないけど……」


 駄目だ。貴人、微妙に役に立たない。

 わからないことは瑠依に直接聞いてみることにして、千草は話を変えた。


「それと、学校の鏡、大丈夫だった。出口も閉じてたし、もう怪奇現象は起こらないわね」


 七不思議が一つ減る! と騒がれるかもしれないが、言わなければ誰も気づかないだろう。


「ああ。それはよかった。僕たちも千草が行く学校が、怪奇現象の起こる所だったら心配だからね」

「それ、陰陽師の娘に言うセリフじゃないわ」


 それに、いざという時は瑠依もいるし。千草が苦笑したところに、天后がやってきて、言った。


「千草。昼食ができたわよ」

「はーい」


 千草は元気にうなずいて、昼食を取りに台所へ向かった。















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


変なタイミングで投稿してしまいました……。すみません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ