*将来のユメを聞いてみた。
「なぁ、みんなは将来の夢ってあるのか?」
午後のぽかぽかした陽気の中、俺は子供たちに質問してみた。
居間ではそれぞれが好きな場所で座ったり寝転がったりしてくつろいでいた。俺の声に反応して、全員が一斉にこちらを見る。そして、俺のまわりに寄ってきた。
「ユメ~?」
絵本を見ていたウィルが、意味がわからなかったのかこてんと首を傾げる。
……まぁ、そうだよな。将来の夢とか言われてもわからないよな。
なんて言えばわかるかな……。
アゴに手を当てて、うーんと考える。
「……そうだなぁ。なりたいものとかはあるか?」
そう聞いた途端、カルマがパッと顔を明るくした。
「カルマねぇ、ちちうえと、ははうえみたいになりたいの!」
「あー、カルマの両親な……」
“両親みたいになりたい”言葉だけなら普通だ。いや、むしろ素晴らしいと言える。普通なら。
何度か会ったことのあるカルマの両親を思い出す。
『おやぁ、君がベビーシッターのレン君ですか? ……ふむ。美味しそうな魂ですねぇ! ちょっと味見してもいいですか?』
『──えっ!?』
『あら本当ね。うふふ、私もちょこっとかじってもいいかしら?』
『ダメですからっ!?』
……優しげなカルマ父の顔とカルマ母のゴージャス美人な悪女顔を思い浮かべる。
あの、人を振り回すのが得意そうで曲者な雰囲気のご両親を手本にするの? 俺の手に負えない気がするよ?
目をキラキラさせているカルマに「そうかぁ」と返事をしつつ、頭を撫でる。
……どうか、どうか俺の手の及ぶ範囲に育ってくれ!
気を取り直して。
他の子たちにも聞いてみた。
「シエルはなりたいものとかあるのか?」
「……いろいろなところを旅をする人になってみたいでしゅ」
シエルはうーんと考えてから真面目な顔で教えてくれた。
そういえば、竜の中でも虹竜は知識欲が旺盛だって聞いたことがあるな。
今でも子供たちの中で、一番絵本とか勉強が大好きだ。
……旅かぁ。そうだな、もう少し子供たちが育ったら旅行するのもいいなぁ。
心の片隅にメモをしておく。
「ベルはなりたいものとかあるか?」
ベルがなんて言うのか興味あるなぁ。
内心でわくわくしながら返事を待つ。
「ねる人」とベルがあくび混じりに答え、俺の膝に頭を置いた。寝る体勢だ。
おぉい、ベルさんや、一秒も考えずに答えたね?
仕方ないなぁとサラサラの髪を撫でてやる。ぴくぴく動く耳が可愛い。
次にジークとエアを見ると、ソファーで今まさに寝ている。お昼寝中だ。傍にあるタオルケットをそっとかけておいた。
俺は、将来この子たちがなんになるにしても応援してあげたい。
……しかし、ベルは不安だな。ニートになりそうだ。
「ウィルはどうだ? なりたいものとかしたいものとかあるか?」
「ぼくね~、食べるひとになりたい!」
おおっと、ウィルさんよ、食べる人ってなに。
同じく疑問に思ったのか、シエルがコテンと首を傾げる。
「食べるひとってなんでしゅか?」
「おいしいものいっぱい食べるの~!」
「それはいいなぁ」
食べる人……なんておいしい職業なんだ!
子供が考えることって面白いなぁなんて考えていたら、ウィルから爆弾発言が。
「だからねー、レン。ぼくのおよめさんになって?」
「は?」
一瞬話の展開がわからず、フリーズしてしまった。
「ぼくのおよめさんになって、おいしいものいっぱいつくって~」
「「ずるい!」」
いやいやいや! ずるい以前の問題だよ!? なんでお嫁さん? あ、この前読んであげた絵本が恋愛ものだったな。……それで?!
シエルとカルマが「ずるいずるい」言っている。
どうしたもんかなと思っていると、目を開けたベルがさらりと言った。
「じゃあ僕ともけっこんして」
エッ!? なに言っちゃってるのよベルさんや。
これどうすんの。無理だって言うべき? それとも小さい時にある「先生結婚して?」とか「○○ちゃん、将来お嫁さんになってー」みたいな軽い感じだから、「そうだね」って言って流しておくべき?
大きくなったら自然と無理だってわかるだろうし……。ど、どっちが正解なんだ。
俺が悩んでる間にさらにおかしいことになっていた。
「じゃあみんなでけっこんすればいいんじゃない?」
おいぃぃぃい!!! なんでさらにおかしいことになるかな!?
ちょ、待て「そうしよっか」じゃないから!
俺がもたもたしているうちに、将来みんなと結婚することになっていた。
……いや、しないからな?
大きくなるころには忘れているだろうと思うが……今後の教育には特に力を入れようと俺は誓った。