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 4.~冬将軍がやって来た~


 朝起きたら、世界は一面雪に埋もれていた。

 そろそろ来る頃だろうと思っていたが、ついにやって来たようだ──冬将軍が。




 冬将軍。

 この世界に転生して、俺がびっくりしたことの一つだ。

 前世では、冬将軍と言えば寒くて厳しい冬のことだったが、この世界で冬将軍と言えば、自然界の冬軍の将。ガチで将軍様だ。


 この世界にも季節がある。そして、この春夏秋冬を司る四季精霊がいる。

 精霊にも色んな種類があるのだが、大きく分ければ二種類になる。


 まずは自然に宿る精霊。火や水や風や土、木や鉱石などから生まれる精霊だな。

 まぁ、ファンタジーでよく出てくる精霊だ。

 そしてもう一種類が四季精霊。四季に宿る精霊で、世界中をぐるぐる回って覇権争いをしているそうだ。力の出やすい時期、場所などもあるらしいが、常夏(とこなつ)の地、厳冬(げんとう)の地などは夏軍や冬軍が勝利し常駐している場所だ。


 冬将軍率いる冬軍が駆け抜けると、一気に世界は銀色に染められる。俺はこの現象を初めて見たとき凄くびっくりした。

 だって、朝起きて窓の外を見たら、一面雪景色だったんだぞ?

 小さな俺が、両親に「そとがオカシイ!」って言ったら、爆笑された。

 ……ヒドくね? 俺、幼児だったんだよ? ほほえましい出来事だろ。なのに何で両親爆笑なんだよちくしょー!

 いたいけな俺は心に傷を負った。(嘘だけど)




 おっとそろそろ朝食の準備をしなければ。あの子達が起きてしまう。

 台所に行き、鼻歌混じりに野菜を用意する。トントンとリズムよく切っていく。種族ごとに食事に入れるものを少しずつ変えていくので、家の食料庫にはたくさんの肉と野菜がある。


 この食料は全国ベビーシッター協会と、それぞれの親御さんが用意してくれたものだ。そして食料が腐らないように食料庫に“時止め”の魔法を掛けている。

 普通“時止め”の魔法なんて魔法使いに頼もうとすれば、もの凄くお金がかかる。だが、この家に掛かっている各種魔法は、すべてそれぞれの親御さんがご厚意で掛けてくれたものなんだ。

 ……防御魔法だけでも恐ろしい程の種類が掛けられている。ここに住んでいる者に危害を加えたものは、きっと死よりも恐ろしい目に遭うだろう。


 少しブルッときつつも手は動いていたので、朝食は見事に完成していた。

 焼きたてのパンと自家製のジャム。野菜スープに果物のデザート。俺は、朝はあっさり派だ。しかし、栄養は偏らないように配慮してるよ?




「いただきます」

「「「いただきましゅ」」」

「「あぅー」」

「ニィ」


 挨拶をしてから朝食タイム。ジークとエア以外は言葉は順調にしゃべれるようになってきた。だけど、まだまだ舌っ足らずでめちゃくちゃ可愛い。

 ベルは人型だと寒いのか、猫のままで俺の膝の上に乗って丸くなっている。そして、シッポをペシペシしてごはんを要求してくる。

 ……可愛いけど! 横着しちゃいけません。


「レン、きょうは寒いのー」

「さむさむなの」


 ウィルとカルマの言葉に、みんながうんうん頷いている。


「あぁ。今日から冬だからな」

「ふゆ?」


 シエルがこてんと首をかしげる。

 そうだよな。この子達は初めて冬を体験するはずだ。食後のお茶を飲み終わったら、外で遊びますか!


「よし! じゃあ朝ごはんが終わったら、みんなでお外に遊びに行くぞー!」


 俺のかけ声に、みんなは「わぁー」っと喜んだ。




 玄関の外は、見慣れた景色が一変し、真っ白な雪で覆われていた。

 歩く度にきゅっきゅっと音がして、まだ誰も踏み入れていない新雪に俺が一番に足跡を着けていく。小さかった頃を思い出す。楽しくなってきた。

 そんな俺の様子を観察していた子供らを手招きする。


「ほら、おいで。気持ちいいから」


 恐る恐る一歩を踏み出す子供たちが可愛くて、自然と笑みが浮かぶ。

 防寒対策に着こんでいるので、全員もこもこしている。ちなみに、エアとジークは俺の腕のなかだ。まだつかまり立ちの練習中だからな。

 ウィル、カルマ、シエルはお互いの顔を見合せてから、ついに一歩を踏み出した。


サクッ


「わー? すごいの!」

「わぁ!」

「サクサクするでしゅ!」


 一歩を踏み出したら、もう怖くなくなったのか、サクサクする感触を確かめ、きゃわきゃわ言いながら走り出した。


「おーい! あんまり走ると滑って転んじゃうぞー」


 駆け回る子供たちに忠告する。だが、忠告の言葉は少し遅かったようだ。


「きゃう! ふぇ、ちゅめたい……」


 元気に走っていたウィルが滑って転んだ。大きな瞳にみるみる涙が浮かんでくる。


 ……おおっと! 言ったそばから転んだ!?


 慌てて駆け寄ってしゃがみこむと、ウィルがぎゅっと抱きついてきた。


「ん、泣かなかったな。えらいぞー」

「レンー……」


 涙の膜ははっていたが、(こぼ)れてはいない。両腕がふさがっていたが、なんとか体勢を整えてウィルの頭を撫でる。

 幸い新雪がふわふわサラサラしていたので、怪我もなく、濡れてもいなかった。

 撫でられて安心したのか涙はすっかりひっこみ、心配そうに見ていたカルマと手をつないで今度はゆっくり歩き出した。


「ニィー……」


 不満そうな鳴き声が聞こえたと思ったら、ベルが玄関の雪がないところから、雪を前足でちょいちょい触っている。

 しかし、冷たいのがお気に召さないのか、雪の上には歩き出さず、こちらを見上げて不満げに鳴き、シッポで床をペシペシする。


「ニィ!」

「ほら、ベルもこっちに来な?」


 一回はプイッと顔を背けたが、もう一度声をかけると、「行きたくないけど、そんなに呼ぶんじゃ仕方がないから行ってあげる」という感じにしぶしぶと俺のもとまで歩いてきた。


「ニィ」


 一声鳴くと、「来たんだからもういいでしょ?」という感じで、俺の肩の上までのぼってきた。

 そして、首筋にわざわざ前足を当ててくる。


 ちょ、冷たっ!!


 ぷにぷにの肉きゅうは気持ちいいが、いかんせん冷たい。俺は身震いした。それを見たベルは満足したのか、また駆け降りて今度はシエルの方に行った。


「ニィ」

「ベル? わわ、つめたいでしゅよ?」


 シエルは両手でベルを持ち上げた。しかしベルはシエルの腕を器用につたい、猫マフラーになった。


「ニィー」

「あい。わかったでしゅ。行くでしゅよ」

「ニィ!」


 ……会話成立するんだ? ま、まぁ仲がいいことは良いことだ。




 みんなが一通り雪に慣れたら、雪だるまを作ることにした。

 まずは俺が実演するので集まってもらう。ちなみにジークとエアは、ベビーカーのようなものに乗せている。


 ふふふ、準備は万全だ!


「はい、ちゅーもーく! 今から雪だるまを作ります。初めは俺が作ってみせるので、みんなは見ててくれなー」


 それぞれが元気のいい返事をする。うん。素直でよろしい!

 とりあえず、スタンダードな雪だるまを作ることにした。

 雪をコロコロ転がして、どんどん雪玉を大きくしていく。俺のやることを見ている子供たちは、大きくなる雪玉に目をキラキラさせている。


 本体の下の段を直径五十センチくらいに丸めて、次の上の段にかかる。うずうずしている子供たちには、「もうちょっと待ってなー」と声をかける。

 顔の部分になる上の段を三十センチくらいに丸めたら、持ち上げて下の段と合体させる。

 あとは目の部分と鼻と口。その辺に転がっている小石や木の枝などをぶっさしていく。

 頭も忘れてはいけない、バケツの代わりに桶を被せる。


 よし! 完璧だ!!



「見てたな? こんな感じで雪だるまを作るんだ。俺と同じのでもいいし、自分が作りたい形にしてもいいぞー。じゃあ出来たら俺に見せてくれ。はい、よーいどーん」


 俺の開始の合図でみんな一斉に散らばった。

 しばらく待ってから、俺は困った時のお助け要因として、各自を見てまわる。


 ……うーん。面白い。こういうのって性格出るなぁ。


 ウィルはパタパタ飛びながら作業している。

 小さな雪玉を最初に何個か作っておいたようだ。


 オイオイ、身体を何段にするんだ?


 ウィルは楽しそうに小さな雪玉を六段目に置いている。パッと見は縦になったイモムシ……。

 ま、まぁ楽しんでいるならいいだろ。


 次はカルマを見てみる。丸い何かに細い枝で細工(?)している。


 どれどれ?……うわ……。


 そこには、無駄に精緻な俺の顔があった。手先が器用なのか、俺の顔にそっくりに作られている。だが、リアル過ぎて、俺の生首が転がっているみたいで凄く微妙な気分だ。

 俺は、そっとその場を後にする。


 次はベルだ。

 シエルの猫マフラーをやめて雪だるまを作ることにしたようだ。


 どれ……うん。ほほえましいな。


 ベルのは雪だるまというより、雪魚(?)だった。

 小さな前足で、一生懸命形を整えて鱗の一枚一枚を爪で引っ掻いて作っている。とても可愛らしい魚になっていた。


 最後は、シエルだ。

 個人的には、どんなものを作るのか、一番気になるな。


 シエルは普段は大人しい性格をしている。しかし、引っ込み思案という訳ではない。自分を主張せず、一歩引いている感じがするのだ。


 ……まだ幼児なんだから、もっと我が儘になってもいいのに。


 シエルが作っているのは──あぁ、“家族”だ。

 カルマほど精緻ではないが、大体の雰囲気でわかる。両親、俺、ウィル、カルマ、ジーク、エア、ベル、そしてシエル。

 全員分の二頭身の雪像だ。自分の分を作り終わって、俺のもとに作品を持ってきた他の子たちも、シエルの作る雪像を見て歓声をあげている。


 ──カルマ、その生首どうするの?

 ──ベル、魚をくわえるのは可愛いが、どんどん溶けてきてるぞ?


 そして、見ていたら自分でも作りたくなったのか、雪の残っている他の場所へ行って、雪像を作り始める。


 結果、出来はまちまち。でもみんなで楽しく雪遊びが出来た。


 こうして、冬の間は家の庭にたくさんの雪だるまが前衛的なオブジェとして乱立することになった。



 ……うん。ちょっと作りすぎたかな?


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