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 3.~俺と勉強~


 木枯らしが吹きあれる秋の夜、俺はふと窓の外を眺めた。

 二つの月がやわらかく辺りを照らしていて、森の様子が浮かび上がる。


 この家は、広大な森のなかの開けた土地にたっている。家のまわりはかなり広い草原で、所々に色んな花が生えていて中々いい景色だ。そしてなんと、少し歩けば泉まである。

 多種族用の家だそうで、最初ここに連れてきてもらったときは、口をあんぐり開いてしまった。

 

 ベビーシッターが住む家は、全国ベビーシッター協会が用意する。

 “全国”と名前が付いているのは伊達ではなく、ベビーシッターが預かる子供の人数や種族を考慮して、世界中にあるベビーシッター協会の持つ家の中から住居を選ぶことになる。



 この世界のベビーシッターとは、大きく分けて二種類ある。

 一つ目は、忙しい親に代わり、日中子供を預かり子守りをするもの。

 二つ目は、預かった子の能力を伸ばし、愛情を持って育て上げるもの。こちらはほとんどの時間を預かった子供と過ごし、第二の親、“育て親”となる。


 “育て親”とは、全国ベビーシッター協会の中でも、一握りの者にしかなれない。

 知識、経験、種族相性などが必要になり、誰にでもなれるものではない。

 例外は、“天分”として【ベビーシッター】が発現しているのなら、“育て親”になれる。


 “天分”とは、生まれたときから持っている才能の事で、教会で調べる事が出来る。……まぁ、俺はステータスで最初から見えていたが、本当は自分で見れるものではないらしい。

 もちろん、“天分”持ちであろうとも色々必要な事を勉強しなければならないし、資格試験を受けなければならないが。


 試験に合格するのは職業に付くための最低ライン。例え合格してもゴールではない。そこからがスタートラインだ。

 ……ということで、俺は今勉強している。


 資格試験を受ける時に主要な種族の事を勉強し、合格をもらっている。

 だが、いくら本や資料を読んで勉強しても、実際に経験するとまた違ってくる。

 「知る」が「識る」になるのだ。

 毎日をあの子達と過ごす中で、知っていた事柄を実際に体験することによって、深く認識する事が多くあった。……つまり身に付いたんだ。

 今までわかっていたようでわかっていなかったんだなぁと思ったら、もっと勉強しなきゃと強く思うようになった。


 俺は天分持ちで、ベビーシッターが天職だ。

 最初は深く考えないで、“特にやりたい事がないし、他の職業よりは有利だろ”なんてアホな事を考えていた。とりあえず、そのときの俺をぶん殴りたい。

 勉強したら結構難しくて四苦八苦した。やめたくなるときもあったけど、ファンタジーな種族の事を勉強するのは楽しくもあった。

 そして晴れてベビーシッターになり、大事な子供を預けてもらった。

 ……まぁ、流石に六種族も預かることになるとは思ってもいなかったが。




 子供たちを寝かせたあとに勉強する。そして、その日にあったことを日記に書くのが俺の日課だ。

 日記には、俺が感じたこと、経験したこと、疑問に思ったこと、子供たちのことなどをつらつら書いていく。


 疑問に思ったことは自分で調べられるのなら自分で調べ、わからない場合はベビーシッター協会に質問状として送ることもある。

 やはり生きた大先輩たちに聞くと、経験に基づく回答をくれるから大変勉強になるんだ。


 たまに日記を読み返すと、面白いな。最初の方は不安ばかり書かれていた。“先輩に「最初は一人か二人預かるくらいだ。安心しろ! 協会も新人には考慮するんだぞ?」ってドヤ顔で言われてたのに……。嘘つきめ!!”とか書かれている。

 ……うん。そうだな。今度先輩に会ったら俺特製の“絶妙クッキー”を食べさせてあげよう。

 甘党な先輩に、絶妙な甘さのクッキーを食べさせてやるんだ。先輩に対して絶妙に物足りない、な。

 くく、先輩の微妙そうな顔を想像すると、今から笑えるわ!


 それからは試行錯誤の日々。

 まだ一年も経っていないけど、濃厚で楽しい日々が書かれている。

 ……あの子たちの“育て親”として、少しは成長出来ていればいいんだがな。




「レン、どこー?」

「レンー?」


 廊下から、ウィルとカルマの声がする。

 おっとやべぇ、起きちゃったか! 声が泣く一歩手前だぞ!?

 慌てて日記を閉じて廊下に出る。


「ここにいるぞ。ウィル、カルマ、どうした?」


 なだめるように、優しい声を出す。な、泣くなよ?

 二人はパタパタ飛んできて、俺の頭の両側にひしっと抱きついてきた。

 ……前が見えん。ちょうどウィルとカルマが片手ずつ俺の両目を塞いでいる。


 優しく引きはがし、両腕で抱っこする。

 そうすると二人は落ち着いたようで、こてんと体重をかけてきた。


「おきたらレンがいなかったのー」

「さがしたの」


 予想通り、俺を探しにきたみたいだ。

 不安だったのか、すんすん鼻を鳴らしている。


「それは悪かったな。寒かったろう? ベッドに行こうか」


 寝室に戻ろうとしたら、二人が俺の腕にスリッと頭を(こす)り付けてきた。


「ふふ~。レンあったかーい!」

「いいにおい」


 …………。

 ウチの子は本当に可愛いな!

 両手が塞がっているので、頭を撫でる代わりに一つキスを落とす。

 二人がきゃわきゃわ喜んでいるのを見ると、こちらまで嬉しい気持ちになって、心が温かくなる。


 人間とエルフ以外は、成長が早いと言うが……。

 願わくは、ゆっくりと成長してくれ。皆で色々なことを学び、遊び、経験し、糧としてほしい。この幸せな時間を少しでも長く感じていたい。


 俺の手から離れるそのときまで────。


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