20.~みんなで植物図鑑を調べてみよう~
みんなで黄月水花を見た翌日。
ティノとフィオは朝から森の様子を見に行っているので家にいない。
俺と子供たちは自由時間になったので、早速図書室へとやって来た。あの綺麗な花が、図鑑では何て書かれているのか……とても楽しみだ。
しかし、俺は忘れていた。
「レン、植物図鑑ってどれ?」
ジークの言葉に現実を思い出した。
「植物図鑑は……ここ、からここまでだな」
「え?」
「たくさんありますね」
「どれを見ればいいの~?」
この家の図書室には、植物図鑑が十冊ある。
ティノとフィオのことを調べるために使った図鑑だ。
あの時は一冊目から七冊目まで調べたが、黄月水花の記述はなかったように思う。でも、歩く草で調べていたから、見落としていた可能性もある。
結局、一冊目からまた調べてみることにした。
「まずは一冊ずつ目次を確認するか」
この植物図鑑の目次は大まかに書いてある。
・陸生植物
・水生植物
・高山植物
・天上植物
・魔法植物
・──植物
・──植物
などなど。
まぁ、大まかすぎて、どんな植物が載っているのかはわからない。なので、それっぽい場所をひたすら調べていくのみだ。
「……目次だけでも迷うな」
「陸生植物ですかね?」
「魔法植物ってどういうのがあるか気になる」
俺の呟いた言葉を聞いて、シエルは真面目に目次を見て考えているが、ベルは自分の興味のある場所を見ている。それぞれの性格が出ていてちょっと笑ってしまった。
「ねぇ、レン。植物図鑑もいっぱいあるし、みんなで手分けしたら早いんじゃないかな~?」
ウィルの提案に、どうしようかと考える。みんなの方を見てみると、子供たちはやる気十分なようだ。「よーし、やるぞーっ!」「頑張ります」と聞こえてくる。
……まぁ、今は自由時間だし、みんながやりたいようにやればいいかな。うん。自主性大事。
「じゃあみんな一冊ずつなー。読めなかったりわからないことがあれば聞いてくれ」
「はーい」
「図鑑は重たいから俺が出すからなー」
「はーい」
一冊ずつ図鑑を出してみんなの前に置いた。
前回調べものをした時に、絵の載ってない図鑑なんて図鑑じゃないだろって思っていたのだが、新事実が判明した。
「レン~これって何だろう?」
「どれ?」
「あ、それ、ワタシの図鑑にもあります。汚れか……書き損じじゃないですか?」
ウィルの言葉に、隣に座っていたカルマが図鑑を覗きこむ。カルマの指摘で見ないでもなんのことだかわかった。
この植物図鑑には、ところどころに黒いグシャグシャした線が書いてある。俺も書き損じだと思っていたのだが……
「これって絵なんじゃないっ?」
「え?」
「あっちでジークたちとも話してたんだけど、ボクには絵に見えるんだよねっ」
エアが笑顔で発見したことを教えてくれたが……絵、なのだろうか。
「絵に見えませんが」
「んーとっ、この線が葉っぱでー、ここはお花の部分」
カルマの言葉を聞き、エアが指で線をたどる。
言われてみると『そう……かなぁ?』という感じで、絵に見えないこともない。一つ確実にわかるのは、この図鑑の筆者には絵心が無いということだろう。
「…………」
「なるほど~。エア凄いね!」
「おぉ……大発見だな」
……エアは頭がやわらかいなー。
ついでにやわらかい頭も撫でておく。
カルマは納得しがたいって顔をしているが、ウィルは素直に感心していた。
***
「あったぁ! 見つけたよっ!」
そろそろ夕食の準備をしないといけないな、と考えていたところで声があがった。
どうやらエアが調べていた図鑑が当たりだったようだ。
「どれどれ?」
「見せて」
「なんて書いてあります?」
全員でエアの周りに集まったので、ぎゅうぎゅうだ。
エアがクスクスと楽しそうに笑いながら、図鑑が見えるよう体の向きを変えてくれた。
「えーっとね……」
説明にはティノとフィオが教えてくれたことの他にも、色々なことが書かれていた。
【開花時期】
・目撃情報の多くは夏の中頃から終わり頃にかけて。
(一説によると、一年の中で最も月の魔力が強くなるからだと言われている)
【育て方】
・芽を出すのにも多くの魔力が必要である。
・魔力が豊富で綺麗な水辺に咲く。
・月の光を浴びることによって咲き、月の魔力と水の魔力を溜めるので場所選びが大切。
注意:とても繊細なので気をつける。
【備考】
・魔力が満杯になると種子を残す。
・種には魔力増量効果がある。
・花が光るのは──。
・────。
・────。
黄月水花は月の魔力に反応して淡く光ながら花開く。
光を放つのは吸収した月の魔力によってらしい。溜め込む過程で魔力のほとんどは種へと行くが、余剰分は光となって発散される。
あの美しい光景は、そうやってできたものだったのだ。
ちなみに、種が光るのも溜め終わった魔力の余剰分によってだ。そして余剰分が発散し終わると、光も消えるようだ。だからあの時ティノは「大丈夫」って言ったんだな。
「余った魔力で光ってたんだね~」
「そうだな」
「綺麗でしたねぇ」
「うんっ」
「また見たいな……」
「そうですね。今度は私たちも一緒に育てられたら楽しいと思いませんか?」
「いいね、それ。楽しそう」
ウィルがにこにこと笑いながら言ったことに同意する。カルマもあの光景を思い出したのか、うっとりした表情だ。元気よく頷いたエアの隣でジークもキラキラした瞳で頬を上気させていた。その様子を微笑ましげに見ていたシエルがした提案に、珍しくもベルがやる気を見せる。
そんな子供たちを見ていると、自分までわくわくした気持ちが湧いてきて、元気が出てくる。
「ティノとフィオも誘っておかなくちゃっ!」
「もうそろそろ帰ってくるんじゃない?」
エアとジークがそわそわしながら時間を確認する。すると、耳をピクリと動かしたベルが「ん。ちょうど玄関から音がした」と言った。
「おぉ、ちょうどいいな。みんなでお出迎えにいっておいで」
「はーい」
子供たちが元気よく図書室を出ていったあと、ふと図鑑の備考に書かれていることが目に入った。さっきは種が光る仕組みにみんなの目がいってしまったので、下の方まできちんと読んでいなかったのだ。
・────。
・────。
・不老長寿の妙薬の材料の一つ。
・────。
・────。
……ん? なんかサラッと凄いことが書かれていたような……。
・不老長寿の妙薬の材料の一つ。
見なかったことにする。
パタンと図鑑を閉じて本棚へと戻した。
……さーて、今日の夕食は何にしようかな。




