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18.~妖精からの贈り物(前)~


 涼やかな風が洗濯物をはためかせる。

 近頃暑さが和らいできた。夏の終わりが近づいてきているのだろう。

 外で洗濯物を取り込みつつ、そんなことを考えていると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「レン~」

「ねぇねぇ、今日の夜出かけない?」


 振り返ると、陽を浴びてキラキラ光る羽を動かしながら、ティノとフィオが飛んできた。最近二人は森へよく出かけている。今日も朝から森へ行っていたのだが、帰ってきたようだ。とても楽しそうな表情をしているので、何か良いことがあったのかもしれない。


「ティノ、フィオ。二人ともどうしたんだ?」

「ふふ。珍しい種を貰ったので、二人でこっそり育ててみたんだ」

「とーっても珍しいんだよ? もうすぐ開花しそうだから、みんなで見たいなと思って」


 妖精二人がにこにこ笑いながら俺の周りをくるくる回る。どうやらこの前“満月の夜の集まり”へ参加した時に年長の妖精から貴重な種をいただいたようだ。


「よかったな。あぁ……だから最近よく森へ出かけていたんだな」

「うん。そうだよー」


 にこにこ楽しそうに笑って俺の右肩に座るフィオ。それを見たティノも左肩に着地した。それにしても、なぜ夜なのだろう。花を見るのなら明るいうちの方がいいと思うんだが。

 左側を見て、風で乱れた俺の髪を直してくれていたティノに訊いてみた。


「どうして夜なんだ? 明るいうちの方がよくないか?」

「それはねぇ……」


 ピタリと止まったティノが、内緒話をするように耳に手を当てて教えてくれた。


 ……く、くすぐったい。あぁうん、なるほど。それなら夜だな。



***



 夕食を終えたあと、みんなを誘って森へやって来た。


「レン? どこまで行くの?」

「んー、もうすぐだな」


 ジークの質問に答えつつ、夜の森を歩く。

 子供たちにはまだどこに行くのか内緒にしている。普段は夜に出歩くことなんてないので、子供たちはドキドキした様子で道を歩いていた。

 それを横目で見つつ、俺も内心でわくわくしていた。ふと周囲が暗くなる。空を見上げると月に雲がかかっていた。


 ……ちょっと曇が多いな。もう少し晴れてくれると嬉しいんだけど。


 昼間は綺麗に晴れていたが、夕方ごろから少し雲が出てきてしまった。先程から、何度も雲が月を隠してしまっていて心配になる。

 それでなくても夜の森は真っ暗だ。なので、ウィルに何個か淡い光の玉を魔法で出してもらい、辺りを照らしながら歩いている。暗い道を自然と小声になりながら歩いていると、目的の場所へ到着した。




「ここ……って、泉?」

「わぁ~、夜だと随分雰囲気が変わるね~」

「泉に何かあるんですか?」


 ベルが首を傾げ、ウィルが青い瞳をキラキラさせる。

 カルマがわくわくした表情で泉の中を覗いていた。


「ちょっと待っててな~」


 確認のために上空を見上げると、やはり雲が月を覆っている。ティノとフィオに視線を向けると、二人ともちょっと困った顔をしていた。だが、難しい顔をしていたティノが何かを思いついたのか、パッと表情を明るくし、フィオの耳元に手を当ててゴニョゴニョ話し出した。

 それを聞いたフィオは笑顔になり、一つ大きく頷いくと、翅を震わせ空へと舞い上がる。

 飛んでいくフィオを見送り、大丈夫なのかとティノに視線を向けると、安心させるように微笑まれた。


 ……ティノに何か考えがあるのだろうな。


 二人を信じて経過を見守ることにした。




「さぁ、そろそろかな?」


 ティノがぽつりと呟いた。空を見上げていたので、子供たちを見ていた俺も視線を上げた。すると、月を覆っていた雲がすごい速さで移動していた。


「……何をしたんだ?」

「ふふ、精霊にお願いして、どかしてもらったんだ」


 どうやら先ほどフィオに頼んでいたのはコレのようだ。精霊すごい。てか頼めちゃう二人がすごい。

 精霊って基本的に人間とは交流がないので、精霊に頼むって発想がなかった。


「戻ったよー!」

「フィオ、お疲れ様」

「ありがとうフィオ。助かったよ」


 戻ってきたフィオを撫でる。

 フィオの後ろにティノが並んだので、そちらも優しく撫でる。さらにそれを見た子供たちも「撫でて」と言ってきたので、順番に撫でる。

 全員を撫で終わったのを確認したあとで、ティノが「コホン!」と咳払いし、その場の注目を集めた。


「みんな、この前は僕たちのために、新しい花壇を作ってくれてありがとうね」

「僕らとっても嬉しかったんだー!」

「だからね、何かお返しがしたくて、みんなに内緒で花を育てていたんだ」

「とても綺麗に咲くんだよ。見てて!」


 フィオがそう言った瞬間、月を隠していた雲が流れ終わり、月の光が辺りに降り注いだ。


「おぉ……」

「きれ~」

「すごいです」


 ふわり


 ふわり


 泉の周囲に植わっているタンポポに似た薄黄色の花が、光を帯びて静かに開いて行く。それを見た子供たちが歓声を上げ、俺も感嘆の吐息を洩らした。


 ……すごいな。


 月の光を浴びて、泉の周りは瞬く間に淡く光る花で埋め尽くされていた。


 前世では見たことはないが、蛍がいっぱい飛んでいる光景はこんな感じだろうか。雑誌の写真でなら見たことがあるが、よくわからない。それよりも、たくさんのキャンドルを灯したような光景と言った方がしっくりくるだろうか?

 こんなに綺麗な景色を見たのは初めてだ。泉にもやわらかな花の光が反射してキラキラしている。まるで地上にも星空があるみたいだ。

 ジン……と心が震える。


 それくらい目の前の光景は圧倒的で美しかった。




「ふふ……どう? 綺麗でしょ」


 目の前で飛ぶティノは、にこにこと悪戯っぽい顔をしている。俺は夢から覚めたような心地で「あぁ」と答えた。一度目を閉じ、気持ちを整えてから開く。

 子供たちの様子を確認してみると、エアとジークは楽しそうに光の花畑に走り出していた。シエルは、猫型のベルを抱っこしながらゆっくりと泉の回りを歩いている。

 そして、ウィルとカルマは飛びながら空と地上をくるくる交互に観賞していた。……星空も花も綺麗だから、気持ちはわかるが、目を回すなよ?


 みんなとても喜んでいるみたいなので、しばらくはそっと見守ることにした。

 今、俺のそばにいるのはティノとフィオだけである。

 妖精二人も優しい表情で満足そうに子供たちを見ていた。


 ……それにしても、確かに“月の光を浴びて夜に光る綺麗な花”と事前に聞いてはいたが、これは想像以上だったな。


 俺は二人の頭を指先で撫でながら、お礼を言った。


「二人とも、綺麗な花を見せてくれてありがとうな」

「どういたしまして! この花はね、一晩だけ咲くんだよ」


 すると、フィオがこの花について教えてくれた。


「一晩だけ?」

「そう。僕らでも咲かせるのが難しくて、何度か失敗しちゃった。綺麗な水辺で月の魔力を糧に咲き、一晩で散る、今ではほとんど見かけない花なんだよ」

「それに、この花にはある特殊な性質があるんだけど、それもあって育ちにくいんだ」

「そっかぁ。育てるの、難しいんだな。こんなに綺麗なのに一晩で散ってしまうのか……」


 残念だなぁ。

 最後は心の中で呟いたのだが、思った以上に寂しげな声が出てしまった。それを見たフィオがくすくす笑いだす。


「こんなにレンに散るのを惜しんでもらえるなんて、この花は幸せだね」

「なんだそりゃ」


 呆れた声を出したら、余計に笑われた。なんでだ。


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