17.~妖精への贈り物~
育児日記──違った、成長記録の記入を終えたので、居間を覗いてみた。すると、子供たちが集まってこしょこしょと何か話している。
……なんか以前にもこんなことあったな。俺も混ぜてくれ。
驚かせないように、ゆっくりと足音をさせて近寄ると、サッと振り向いたジークとベルが俺とその周辺を見る。
「あ、レン」
「──レン一人、だよね? 近くにティノとフィオいる?」
視線を左右に動かし、他に誰もいないことを確認した二人が目配せしあい一つ頷く。
近づいてきたカルマが、悪巧みをしているようなニヤリ顔で「こちらへ」と俺の手を引いてみんなのいる場所へと誘導する。全員こっそりした雰囲気を出してはいるが、隠れているわけではない。それに、いる場所も居間なので姿は丸見えだった。
……まぁ、気分の問題なんだろう。
カルマに連れられながら、俺も同じようにこっそりした雰囲気を出す。内緒話をするように口元に手を当てて小声で聞いた。
「それで? どうしたんだ? ティノとフィオの二人は森へ散歩に出かけたぞ?」
「「「よかった~」」」
胸を撫で下ろす子供たち。
どうやら妖精たちには知られたくない事があるようだ。
不思議に思い「何かあるのか?」と訊くと、ウィルが楽しそうに答えてくれた。
「今ね、ティノとフィオに新しく寝床を作ろうよって話をしていたんだ~」
「寝床? どういうことだ?」
よくわからなくて首を傾げると、今度はシエルが穏やかに微笑みながら説明してくれた。
「はい。最近の“妖精の揺籃草”を見ると、春よりも随分大きくなっていて、鉢植えでは窮屈になってきたように思ったのです」
「あー……」
シエルの言葉に納得する。確かに、“妖精の揺籃草”は春に花が咲いたときと比べると、活力の夏のお陰か全体的に大きく成長していた。
“妖精の揺籃草”の事が載っている植物図鑑を読んだときには、どこまで大きくなるかは載っていなかったと思うが……もしかしたら結構大きくなるのかもしれない。
シエルの話を聞いて、“また後で植物図鑑を確認してみるか”と考えているとエアが続きを話してくれた。
「それでね、ティノとフィオも狭いところでぎゅうぎゅうに植わってるよりも、広~い場所でのびのびできた方がいいんじゃないかなって、みんなで話していたんだよねっ!」
……う、うちの子たちいい子!
子供たちの想いに心がじんわり温かくなる。
俺が内心で感動していると、ジークがにこりと笑って話をしめくくった。
「だからね、もう植木鉢じゃなくて、ティノとフィオの専用の寝床として花壇を作ればいいんじゃないか、ってみんなと話をしていたんだ」
「フフフ……やはり何事も大きな方がいいですよね」
「そうだなー……」
愉しそうに笑うカルマにさらっと同意しておく。
うちには畑はあるが花壇はないので、ティノとフィオの寝床を作るのに俺も賛成だ。……それにしてもカルマのこの言動は悪魔っぽいのだろうか。表情とか言い方とかは悪魔っぽくしてるが、結局やっていることは良いことなので突っ込むべきか迷う。
……まぁ、他の人に迷惑をかけたりするよりかはいいと思うけど。
結論。うちの悪魔はいい子だからこのままで。
脳内会議を終了した俺に向かって、ウィルが悪戯っぽく笑いかけてきた。
「でねでね、内緒で作って二人を驚かせたいんだ~。ね? シエル」
「はい。だからレンもティノとフィオに言ってはダメですからね?」
「よし、わかった。二人には言わない! それと、俺にも手伝わせてくれ」
「わぁ、じゃあ一緒にやろうっ!」
みんなわくわくした顔をしている。“ティノとフィオの寝床を作ろう大作戦”という極秘任務が始まった。
◆ミッション①
妖精たちの寝床計画を練る。
まずは計画を練ることが大事だ。
俺は子供たちが丸くなって意見を出しあうのを後ろから見守っている。
どの子も楽しそうな表情で、瞳を輝かせて話し合いをしていた。
「どうする? 何から決める?」
「はいっ! ボクはお花がいっぱいあるといいと思いますっ」
「そうですね。“妖精の揺籃草”だけだと寂しいですし、周りをにぎやかにしたいですよね」
ジークの言葉にエアが元気よく挙手して自分の希望を出す。それにシエルも微笑みながら同意した。
その二人の意見を聞いて、ジークは何か良いことを思いついたのか、笑顔で提案する。
「それなら、どの季節でも花が咲くのとかよくない?」
「あぁ……それいいですね!」
「季節ごとにたくさんの花を楽しめるね~」
「うん。いい! 色んな種類を植えようっ!」
ジークの提案にみんなが賛同する。
……うんうん。俺もいい案だと思うぞー。
「あ、色はどうしようか?」
「ボクは黄色とか橙色が好きだなっ」
「エアっぽいですね。ワタシは赤とか大輪の花とかが良いと思います」
「そういうカルマは派手なのが好きだよね~。僕は白や空色も綺麗だと思うな~」
「私は青とか紫系の花があると嬉しいです」
「……なんか、みんなバラバラ」
それぞれの意見を聞いていたベルがぼそりと呟く。
好きな色は結構意見が別れたな。子供たち一人一人好みが違うので当たり前だが。
色をどうするのか、話し合いを聞いていたが中々決まらなかったので、ケンカにならないよう俺も意見を出した。
「みんなが好きな色を一つずつ入れるのはどうだ?」
子供たちがハッとした表情をする。お互いの顔を見たあとで、俺にとびきりの笑顔を見せてくれた。
「「「「「「賛成!」」」」」」
元気な返事が聞けて俺も嬉しい。
色に関して無事に決まった。みんなが満足そうな顔をしている中、ベルが「僕は香りの良い花がほしいな」と蒼い瞳を細めて言った。見た目と声は平静を装っていたが、わくわくした心を反映して、黒い尻尾が楽しそうに揺れている。
「香り! 確かに香りがあるとより楽しいですね」
「そうだね~、香りと……後は美味しい蜜が吸えると完璧じゃない~?」
「「「「「完璧!!」」」」」
食いしん坊のウィルらしい意見に、楽しそうに声を合わせる子供たち。いきいきとした表情で、さらに様々な案を出していく。
素敵な花壇ができそうだ。
◆ミッション②
妖精たちに隠れながら作る。
エアとウィルとベルは花壇作り担当。ジークとカルマとシエルは妖精二人が帰ってこないか警戒する見張り担当だ。
全員で外に出て、三人ずつに別れる。
俺は花壇作り担当と一緒に、この家の日当たりの良い場所を探すことになった。
「一番日当たりが良いのってどこだろうねっ?」
キョロキョロとエアが庭を見渡す。
俺も一緒になってあちこち見るが、庭は基本的にどこも日当たりがいいと言えばいいと思う。
ウィルも「困ったね~」と言いながら悩んでいる。そんな俺たちを見かねたのか、ベルが「こっち……」とエアと俺の袖を引っ張っていく。
そして連れて来られたのは、庭の南側。そこは爽やかな風が吹き抜ける暖かな場所だった。
「ここが一番日が当たる良い場所だよ」
「へぇ~。ベルなんで知ってるの~?」
「色んな場所で昼寝してるから」
「なるほど~」
ウィルとベルのほのぼのするやり取りに俺も納得する。横を見るとエアも頷いていた。俺は持ってきていたシャベルをウィルとベルに渡す。エアは後で出番があるので待機だ。
「よーし。では、やりますかー」
シャベルを地面に突き刺す。土はそこまで硬くなさそうなので、夕方までには花壇を作れると思う。
「ふー、こんなものか?」
「レン、ウィル、ベルお疲れ様っ」
「……疲れた」
「でもいい感じじゃない?」
掘り返した庭の一部見る。花壇にするために、雑草を抜き小石を取り除いて肥料も土に混ぜた。あとはエアに魔法で花を咲かせてもらうだけだ。
「そうだな。エア、準備はいいか?」
「うんっ。大丈夫だよっ!」
エアにはみんなで選んだ花の種を渡してある。一気に種から花を咲かせようとすると力を使いすぎて大変らしいので、俺たちが土を掘り返している間に、エアには休み休み一つずつ発芽直前まで魔法をかけてもらっていた。
エアが手のひら一杯に種を乗せて、微笑みながら「綺麗に咲いてね」と囁く。すると、種がぼんやりと淡い緑色の光に包まれた。
「そーれっ!」
エアの手から種が蒔かれる。土の上にパラパラ落ちていった種は、土に触れた瞬間──ザァッと成長し花が咲いた。何もなかった花壇に次々と花が咲いていく様は素晴らしく見応えがあった。
「おおぉー!」
「わぁ~、綺麗~!!」
「凄いね……」
「えへへ、頑張ったよっ」
「ありがとうな、エア」
俺たちからの感嘆の声に、照れたように笑うエア。
頑張ってくれたエアの頭を撫でると、気持ち良さそうに緑の瞳を細めた。花壇は“妖精の揺籃草”を植える場所だけ空けてあるので、妖精二人に披露するときに植えようと思う。
日が沈む前にこちらへ合流した他の三人も、花壇を見て歓声をあげた。それから、仕上げのために全員で花壇を囲うための石を探す。それぞれいい感じの石を何個か拾ってきて、丁寧に花壇を囲った。
披露する前にバレるといけない。最後にウィルとカルマに頼んで光と闇の魔法で花壇を隠してもらった。
……よし、完成だ。ティノとフィオが喜んでくれると嬉しいな。
◆ミッション③
妖精たちに披露する。
「ティノ、フィオ、こっち来てっ」
「「どうしたの?」」
「見せたいものがあるんだ~」
花壇が完成したので、帰ってきた妖精二人をみんなで案内する。俺が“妖精の揺籃草”の鉢植えを持っていることに疑問をもたれたが、そこはなんとか誤魔化した。
何もない庭の一部に連れてこられて二人は首を傾げている。
わくわくしている子供たちと目配せをしあい、「やる?」「やっちゃえ!」とウィルとカルマにみんなで合図を送った。
「ティノ、フィオ、見ていてください!」
「いくよ~。せーのっ」
「え?」
「どうし──」
「「──解除──」」
「「わぁっ……!!!」」
術者の二人により、光と闇の魔法がほどけていく。すると、赤、白、青、黄色……様々な色と形の花が咲き乱れる大きな花壇が姿を現した。
「うわぁ……すごい……綺麗」
「どうしたの? これ……」
フィオが花壇を見て目を見開いた後、うっとりとした表情で呟いた。ティノも金緑色の瞳をとろりと細めて花々を見ている。
妖精二人の目は花壇に釘付けだ。
……うん。ビックリお披露目は成功かな。
子供たちも妖精二人の驚いた様子に大満足のようだ。みんな嬉しそうな顔をしている。
「この夏で“妖精の揺籃草”がすっごく大きくなったでしょ? 鉢植えじゃ狭そうに見えて」
「だから、もっと広い場所に植えてあげたいなって思ったんだ~」
ジークとウィルが順番に妖精たちに声をかけた。他の子たちは、じーっと二人の反応を見ている。
妖精二人はジークとウィルの言葉を聞いて、目を丸くした。
「えっ! ここって、僕たちのために作ってくれたの!?」
「いつの間に……」
驚きのあまり、二人の視線が何度も花壇と子供たちを往復している。目の前の花壇が自分たちのために作られたことを上手く呑み込めていないようだ。
「どうでしょうか? 気に入ってもらえると嬉しいのですけど」
とどめのシエルの言葉に、フィオとティノは現実を確認するようにお互いの顔を見合わせた。衝撃と驚きがようやく落ち着いてきたのか、二人の頬にじわじわと赤みが差してきた。どちらも少しくすぐったそうな顔をしてはにかんでいる。ゆっくりと子供たちを見回して、それから凄く綺麗な笑みを浮かべた。
「……うん。すごく気に入ったよ」
「僕たちのためにありがとう。みんな、大好き」
子供たちも次々に「僕も好き!」「私も」「二人とも大好きだよ」と告白していく。俺も「みんな大好きだぞー!」と告白し、みんなでクスクス笑いあった。
……よかったなぁ、みんな。ティノとフィオも凄く嬉しそうでよかった。
俺はほっこりした気持ちで持っていた“妖精の揺籃草”を花壇の中央に並べる。「あ、このために持ってきてたの!?」「それでかぁ」と驚きと納得を見せる妖精に笑いかけ、最後は子供たちと一緒に土をかぶせて終了だ。
こうして、ティノとフィオの寝床を作ろう大作戦は成功を収めた。




