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14.~雨の日の過ごし方・その2~


 ……ついにこの時が来てしまった。


「美しい姫よ。貴女をワタシの妻に迎えたいのです」

「……」


 カルマが瞳に熱を灯し、こちらに手を差し出してきた。俺は引き攣りそうになる顔を全力で止める。力なく首を振るとスッと一歩引いた。


 ……俺が姫って似合わないと思うんだが。


 ごっこ遊びが進化していた。



***



 慈雨が明けない。

 今年の『春の慈雨』は長引いていた。


 ……春軍の皆さん、涙が枯れないのだろうか。


 窓の外ではザァザァと雨が降っている。こんなに雨が降るなんて、こっぴどく負けでもしたんだろうか。

 今度は水害が起こらないか心配になってきた。早くカラッとした太陽が見たい。


 ……いい加減ジメジメした湿気とおさらばしたいなー。


 そんなことを考えながら、窓越しに黒い雲を見上げる。ぼんやり雲を見ていたら、ジークに声をかけられた。


「レン。雨はまだやみそうにない?」

「そうだなぁ。もう少しかかりそうだな」

「お家で遊ぶのもいいけど、そろそろお外でも遊びたいなぁ」

「だよなぁ。ん、あれ……ジーク? その手に持っているのは……」


 やっぱり外に出たいよな……と思いながらジークに視線を向けると、ジークの手には一冊の絵本が握られていた。

 まさかと思いつつ絵本を指差してみると──


「みんなが暇だって言うから。ごっこ遊びを全員でやってみようって話になったんだよ。だからレンも誘いにきたの」

「……おぉう」


 まさかの。

 アレは回避できたんじゃなかったのか。逃げられたと思ったら回り込まれていたのか。

 俺がおののいていたら、ジークの後ろからエアがひょっこり顔を出した。


「今回はねぇ、すごいんだよっ」


 そして、エアの手にもまたまた絵本……。

 まさか。

 嫌な予感がする俺を余所に、エアが輝くような笑顔で絵本を掲げた。


「じゃーんっ! 今日はねぇ、何冊か一緒にやってみようってことになったのっ」

「……え、どういうことだ?」


 ほらなんかきたー!

 固まっている俺のもとへ他の子供たちも集まってきた。

 目があったシエルが、微笑みながら説明してくれた。


「ジークたちが、普通に絵本を読むのも飽きたというので……何冊かの絵本を混ぜてやってみようってことになりました」

「フフフ、面白そうですよね。ワタシのキャラ作りにも役に立つと思うのです」


 妖しく笑うカルマ。両親のような立派な悪魔になりたいと思っているカルマは、キャラ作りに熱心だ。最近は胡散臭い笑みも板についてきたように思う。

 他の子供たちを見回してみても、皆ワクワクした顔をして俺を見ている。


 ……これは、俺もやるしかないのか。




 お話は色々なおとぎ話を混ぜた感じになったんだが、配役が困った。

 配役は姫、王子、継母、姉、王様、悪い魔法使いの六種類。しかしこちらの人数は九名なので明らかに役の数が足りない。みんなで話し合いながら配役を決めることにした。


 まず、俺がナゼか姫になった。

 できれば男の役がよかったが、満場一致で決まってしまったので仕方がないと思う。子供たちのやりたい役を取るわけにもいかないからな。


 次にウィルとカルマとジークが王子役になった。王子が多いと思う。だけど役が足りないし、今回持ってきたおとぎ話には王子と姫が結ばれてめでたしめでたし系が多かったので王子が多いのは仕方がないと思う。


 そして意地悪な姉がフィオ、意地悪な継母がティノ、王様がエアになった。

 この三人は慈雨の間に演技力を磨いていたので、ごっこ遊びと言えどもクオリティが高い。

 ティノとフィオは小さなドレスを着ていた。どうやら自分たちでどこからか調達してきたようだが、出所は不明だ。

 そしてさらに衣装に凝っていたのはエアだった。


 ……エア? マントはまだわかるけど、その王冠どこから持ってきたの?


 王様役のエアは豪奢なマントを身に纏い、頭には何故か王冠を被っていた。王冠にはとても美しい装飾と、キラキラと光を反射する綺麗な石がついている。まるで宝石のように煌めく綺麗な石だ。

 エアにどこから持ってきたのか訊いてみたら、笑顔で「カルマが作ってくれたんだっ」と言ってきた。

 まさかのカルマ作だった。

 うん。材料は実家から持ってきたものらしいし、手先の器用なカルマが作ったのなら超高価そうに見えても仕方がないと思う。


 ……まぁ、手作りならそんなに高価だったりしない……よな?


 森に棲む悪い魔法使い役はシエルになった。

 あとは本猫(ベル)の希望で姫が飼っているペットという役を作り、ベルがやることになった。

 ……ベルよ。ペットて、それでいいのか?


 とりあえず配役は決まったのでごっこ遊び開始だ。

 俺に演技ができるのか、ちょっと不安である。



「大好きな姫、僕と暮らしましょう~」

「姫、ワタシと一緒に暮らしませんか?」

「いいえ。最愛の姫、僕と暮らしましょう」


 ……なんでこうなった。


 物語の終盤、俺は今三人の王子に挟まれて求婚されていた。


 ……うん。忘れてた。そうだよ今回の絵本の内容は王子と姫が結ばれてめでたしめでたし系だっただろ。


 つまり、王子が三人もいる時点でおかしかったんだ。


 初めは順調だった。

 姫(俺)が継母と姉にいじめられて城を追放されて庶民になった。そして継母に依頼された悪い魔法使いに魔法をかけられ困っていたところを王子が助けてくれた。しかし、王子は三人。そう。三人もいたんだ。

 三人に求婚された俺は困っていた。


 ……俺は誰を選べばいいんだ。


 物語では王子が一人だけなので迷う必要がないが、ここには三人。選ばないといけないだろうか。

 とりあえず、選ぶとなると、選ばれなかった子が可哀想だし、ここはおとぎ話っぽく「みんなで仲良く暮らしました」みたいな感じにまとめるか。


「王子様方、私はあなた方が助けてくださったことに感謝しているのです。みんなで仲良く暮らすのはどうですか?」

「あ、それはいい考えですね~。そうしましょう」

「まぁ、それでもいいですけど……」

「でも僕は結婚したいよ」


 ウィルとカルマが同意し、せっかく綺麗に纏まりそうだったのに、ジークが無垢な瞳でぶっこんできた。

 ……ちょおおおおおぉぉい! ジークぅ、ダメなの? ど、どうしよう!?

 困った。どうしたらいいんだろう。


「……私と、王子では身分が違います。どうか結婚はあきらめてください」

「ワタシは身分など気にしませんよ?」

「僕も!」


 今度は無難に身分違いを理由に断ってみたが、カルマとジークが身分など気にしないと言った。ウィルはにこにこ見守っている。


 ……そっとしておいてあげてよ! みんなで仲良く暮らしましたでいいじゃない。


 しかし、こうなると次はどうするか……と考えていると、カルマが跪いて俺の手を取った。


「美しい姫よ。貴女をワタシの妻に迎えたいのです」

「……う」


 少年とはいえ、カルマは超美形だ。仕草がものすごくハマっている。女の子なら恋をしてしまうかもしれない程だ。俺は身を引いて首をふるが、カルマが瞳に熱を灯して続ける。


「そもそも、身分を気にするのは人間だけです。悪魔たるワタシには関係ありません。心おきなくワタシのもとへお嫁に来てください」

「えっ、なにそれズルい」


 おいおいおいおい。

 カルマよ、いつの間に王子の種族が悪魔になってしまったんだ。確かに“人間の”王子とも言ってなかったが。

 対抗するようにジークが俺の空いている腕に掴まってきた。


「僕を選んでくれたら、姫の身分の回復と一生姫だけを愛するよ!」


 そっちが先!? 身分回復が一番に出てくるのが怖いよ!

 いや、ジーク的には一番大事なのかもしれないが。

 どうするかなぁと思っていたら、救世主が現れた。


「レン。お腹、すいた」


 思わぬ救い主は、置物のように床で寝ていたペット役のベルだった。呟かれた言葉に慌てて時間を確認してみると──もう夕飯を作らなきゃいけない時間だった。

 どうやら思ったよりもごっこ遊びで時間を使ってしまったようだ。


「みんな、今日はもうおしまいだ! さぁ、片付けるぞー。夕飯が遅くなってしまう」

「えー、もうちょっとなのに……」

「また次でいいじゃんっ。ボクもーお腹すいたよ」

「そうですね。早く片づけましょうか」

「確かに。お腹すいた~」


 子供たちが衣装や小道具などをわらわらと片付けていく。俺は内心でホッとしていた。


 ……助かったぁー! 今度やるときは絶対に王子は一人にしよう。うん。


 そう心の中で決意し、片付けを終えた俺は夕飯を作りに台所へと向かった。


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