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 8.~子供たちがいない一週間~

 子供たちが成長期のお祝いで家に帰った。

 これから一週間、家族とたくさん楽しんでくれればいいな。

 さて、俺はまず掃除と片付けでもするか……。



***



『三の月二週目 月の日』


いつも通り起床。子供たちがいないからって、(なま)ける訳にはいかないからな。

今日は朝から全国ベビーシッター協会の本部に行って先輩に会ってこよう。

よし。まずはクッキーを作るか。



 ここに来るのは久しぶりだ。

 俺の手には“俺特製絶妙クッキー”が握られていた。

 先輩は本部勤務なので、多分いるだろう。


「おっ? レンじゃねぇか。久しぶりだな!」

「先輩お久しぶりです。はいコレお土産の俺特製クッキーです」


 協会本部の建物に入ってすぐに先輩を見つけることができた。

 俺は手に持っているクッキーを先輩に渡す。


「おぉっ、ありがとな。レンのクッキー好きなんだよなぁ」

「どうぞ後で食べて下さい。それで今日は先輩に聞きたいことが……」

「相談か? んじゃこっちで聞くわ」


 本部協会員の休憩室にやって来た。先輩にすすめられるままソファに座る。

 俺は成長期が来たときにエアとジークまで成長したことを話した。

 もし、二人によくないことだったら……不安だ。


「今までもこういうことってあったんですか? それともウチの子が何か──」

「すげぇなぁレン!」


 先輩は何故か興奮していた。


「は?」

「そういうことは稀にだがある。一緒に育っている子供たち同士の絆が強いと、他の子の成長期に引っ張られて成長してしまうことがあるんだ」

「そんなことがあるんですか?」

「あぁ。本当に稀だがな」


 そっか。何かの病気とかではなかったのか。

 安心したら肩の力が抜けた。先輩はそんな俺を見て頭をぐしゃぐしゃ撫でてきた。


「うわっ! 何するんです」

「安心しろレン。お前の育て方がよかったからこうなったんだ」


 ……先輩には俺の不安はお見通しか。

 先輩はやっぱ頼りになるな。今度はちゃんと先輩好みのクッキーを作ってこようと思う。




『三の月二週目 火の日』


今日は子供たちが帰ってから二日目だ。

子供たちはどうしてるかなぁ。

こちらは特に何事もなく一日が終わった。




『三の月二週目 水の日』


今日は子供たちが帰ってから三日目。

子供たちは寂しがっていないかなぁ……まぁ家族と一緒だし大丈夫だろう。

なんか今日は気分が低下してるので、家でベビーシッター協会から借りてきた“種族ごとの成長記録”という本を読んで過ごすことにした。

この本は大先輩たちが膨大な数の赤ん坊を預かったことにより出来た努力の結晶だ。今回は俺に関係ある六種族の成長記録を借りてきた。

俺も子供たち一人一人の成長記録を書いているので、この本はとても参考になる。

それにいつか俺が育てた子供たちの記録も、別のベビーシッターの役に立てれば嬉しい。




『三の月二週目 木の日』


本日もいつも通りに起床!

今日は久しぶりに友人(アウィス)と会う約束をしている。

アウィスが昼飯は公園で食べようって言っていたから、張り切って弁当を作ろうと思う。

……それにしても、アイツが鳥のから揚げが好きなのっていいのか?

共食いとかにはならないんだろうか。まぁ、本人が好きならいいのか……?



「レン。久しぶりだな」

「おー、昼飯作ってきたぞー」

「やった! ありがとさん。……ん? どうした、元気ないぞ?」

「んー、そうか?」


 そんなつもりはなかったのだが。俺が手のひらで頬っぺたを両手でグニグニしていると、アウィスが俺の手をそっとどかした。

 ……コイツの手、結構でかいよなー。

 俺の手を包めるくらいに大きい手のひら。少し冷たい手のひらが、俺の頬をゆっくり撫でる。


「……ほら、あんまり強く(こす)ると赤くなるぞ?」


 グニグニ擦ったせいでいつもより熱を持っている頬に冷たい手のひらが気持ちいい。目を閉じて、コイツの手に頬を擦り付ける。


「あー……気持ちいい」

「……っ」


 ピクリと手が固まる。

 目を開いてみると、アウィスはそっぽを向いていた。


「どうした?」

「イイヤナンデモ」


 変なヤツだな。



 アウィスは俺の作った弁当をそれは美味しそうに食べた。「レンの作ったご飯は美味いな」と言われると、俺も作ってよかったなと思う。ただ、その後で「俺の嫁にならないか?」という言葉はいただけない。

 俺はいつも通り「そういう言葉は彼女にでも言え。ばーか」と答えておく。

 ……おいどうした? しゃがみこんで。食いすぎか?


 昼飯食べてダラダラしゃべりながら公園で昼寝する。最高だなこれは。




『三の月二週目 土の日』


俺は自分がこんなにダメなやつだとは思わなかった。

この一年、ほとんど毎日子供たちと一緒だった。

毎日がにぎやかだったんだ。

つまり……寂しい。


 

 つらつら日記を書いているが、どうも書くことが暗い。子供たちといるときと違って文字数も少ない。すかすかだ。

 ……それだけ、子供たちと過ごす日常は濃くて満たされていたってことかな。


「はぁ」


 ため息が出ちゃうよ。

 日記帳に顔を伏せ、ぐだっとしていると何かにつんつんされた。


「ん?」


 俺の前には“妖精の揺籃草”の鉢しかなかったはずだが。誰がつんつんしたんだ?

 顔を上げてみるとそこには──

 ……ちょ、おおぉぉぉおい!!? なに鉢から出ちゃってるの!?

 鉢から一部の根っこを出して俺をつんつんしている“妖精の揺籃草・ティノ”がいた。


「ちょ、えぇえええ!? ダメだろ鉢から出ちゃっ!」


 慌てて根っこを鉢に戻そうとする。

 根っこが切れたりすると大変なので、出来るだけ優しく根っこを握って鉢に誘導し、手を離した。

 根っこは俺の手をなでなでしてから大人しく土のなかに戻っていった。

 ……今のは俺を慰めてくれたのか?

 行為の意味に気づいて、沈んでいた気分が少し浮上した。



『三の月二週目 星の日』


昨日“妖精の揺籃草・ティノ”に慰めてもらったが、やっぱり寂しい。

もう無理寂しい。子供たちに会いたいー。


明日には子供たちが帰ってくる。

今日は早く寝よう。

そうすれば、寝ているうちに明日になるから。



 枕元に“妖精の揺籃草・ティノ”と“妖精の揺籃草・フィオ”を置いた。

 きっとこの子たちも子供たちがいなくて寂しい思いをしていると思うんだ。


「今日は一緒に寝ような。おやすみ~」


 俺が就寝のあいさつをすると、ティノとフィオは草をさわさわ揺らしてくれた。


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