第991話 「夏が終わって……」
愛読者の皆様!
『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻が発売決定致しました!
詳細は決まり次第お報せ致します。
書籍版をまだお読みではない方は、第1巻~3巻を宜しくお願い致します。
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9月10日、午前7時過ぎ……
秋の気配が見えて来た、ヴァレンタイン王国王都セントヘレナの朝……
約2か月に渡った長い夏季休暇も終わり、ヴァレンタイン魔法女子学園の下期という新学期が始まる。
出勤及び通学の支度を終えたルウ達は、スムーズに馬車へと乗り込んだ。
こんな時、遅刻云々で大騒ぎするジゼルも、珍しく車内に収まっている。
このブランデル家所有の漆黒の馬車は、御者3名席を除き、車内は8人乗り。
ルウ達が乗る馬車は、そもそもナディアの父エルネスト・シャルロワ子爵から贈られたものであり、最初こそ余裕があった。
だが、家族が増えた今、定員一杯の状態である。
これ以上家族が増える可能性もあるし、使い勝手の問題もある。
それを見越してか、夏季休暇に入る前、ルウとフランは新たな大型馬車をキングスレー商会へ発注している。
まもなく完成&納品される筈であり、新たな馬車で通勤通学する日も近い。
今日の御者は、珍しくモーラル。
それだけ、今日という日がブランデル家にとって特別だと、認識されている証拠かもしれない。
通常はアリス、ソフィア、そして家令のアルフレッドが御者を務める。
最近はエレナ、ウッラ、パウラも御者の猛練習中であった。
何故、猛練習をするのか?
ルウ達の送迎や市場の買い出しなど馬車の使用は、必須なスキルだからである。
新たに『家族』として加わった、ソフィアの妹テオドラは、意外であった。
ちょっと練習しただけで、巧みな手綱捌きを見せていたのだから。
「はいよっ!」
ぴしっ!
「ひひん!」
「うおん!」
モーラルの声と鞭を鳴らすスタートの合図、いななく馬、少し遅れてケルベロスのひと声が屋敷に響き、ルウ達を乗せた馬車はゆっくりと動き出した。
正門が魔力で左右に大きく開き、馬車は屋敷を出て貴族街区を走る。
そして馬車の車内はというと、女三人寄れば姦しいとは良く言ったもので……
7人乗り込んだから、相当なやかましさである。
唯一、何も喋らず、静かに目を閉じているのはルウのみ。
フランはアドリーヌと。
ジゼルはナディアと。
そしてオレリーはジョゼフィーヌ、リーリャと……
これから始まる下期――新学期に向けての他愛ない話題を、元気な小鳥のようにさえずっていた。
ジョゼフィーヌが、リーリャと話に熱中しだしたのを機に、オレリーは窓から外を眺める。
馬車はもう、貴族街区を抜け、王都の中心部へと入っていた。
ブランデル邸から、魔法女子学園は至極近い。
徒歩でもそんなにかからないから、馬車だとあっという間だ。
思えば……
オレリーの生活も、「がらり」と一変したものである。
……今年の春までは、スラムに近い小さな自宅で、母アネットと肩を寄せ合うようにひっそりと生きていた。
日々の生活も、つつましいものだった。
否、相当苦しかった。
病弱の母を支え、学園には内緒で……
オレリーが、居酒屋の厨房で、働いていたのだから。
それが今や、どうであろう。
母は見違えるように健康となった。
働き口も見つかった。
フランの紹介により、元貴婦人ドミニク・オードランの屋敷へ住み込み、主のお気に入りとなった。
毎日、生き生きとして働いている。
オレリー自身はルウと結婚し、ブランデル屋敷で新たな家族に囲まれ、楽しく暮らしている。
学園へも、こうして馬車で通うようになった。
毎日朝早く起き、病弱な母の身体を心配しながら……
元気なく下を向き、徒歩で「とぼとぼ」通学していた頃が、まるで遠い夢の出来事のようである。
……ヴァレンタイン王国には、古い童話があった。
ふとした事から、青年魔法使いに出会った貧しい少女が、一夜にして幸せにして貰えたという。
少女は運命の出会いと感じ、優しい魔法使いと結婚し、末永く幸せに暮らしたと言う結末……
オレリーの口元が、ついほころぶ。
ルウに出会った自分は、まるで童話の主人公のようだと。
午前7時20分……
馬車は学園前に到着。
警護の騎士に開いて貰った学園の正門から入り、停車場に止まった。
まず、ジゼルが勢いよく飛び出す。
「ぴしっ」と背筋を伸ばして歩く姿は相当気合が入っているようだ。
続いて、ナディア、オレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャと降り、アドリーヌ、フラン、そして最後にルウが降りた。
と、その時。
響き渡る少女の声。
「おはようございます!」
「おはようございます!」
「おはようございます!」
オレリーが見れば、声の主はマノン・カルリエ、ポレット・ビュケ、ステファニー・ブレヴァルの3人だ。
マノン達3人は、再びルウに元気よく挨拶する。
「ルウ先生、改めましておはようございます!」
「おはようございます!」
「おはようございます!」
ルウが微笑んで挨拶を返す。
「おお、おはよう。何だ? 早いな、3人とも」
確かに時間には早い。
オレリー達は教師のルウと一緒だからこの時間だが、生徒の通常登校時間は8時30分。
寮生でもないマノン達がこの時間に来ているのが、普通はありえない。
「はい! 今日からが正式に勝負のスタートですから」
「右に同じです」
「右に同じく!」
マノン達がこんなに早く登校したのは、ある『目的』があるようだ。
「オレリーさん! 改めまして、おはようございます!」
真っすぐにオレリーを見つめるマノン。
その眼差しは真剣そのものだ。
しかし以前のように身分の違いから見下したり、あからさまな敵意は感じられない。
良き好敵手として認める、大きな強い波動が伝わって来るのだ。
「は、はい! おはようございます!」
少し気圧されながら、オレリーが挨拶を返すと、マノンは一気に言い放つ。
「貴女達がルウ先生達と一緒に、この時間に登校する事は読んでいましたわ。だから私達も合わせて登校しました。今日は始業式まで時間があります。明日からは授業開始までですね。僅かですが、毎朝のこの時間は貴重なのです! 企画立案者の私達がお茶代を負担しますから、学食で、毎朝情報交換会をやりましょう」
「オレリーさん、マノンさんの言う通りですよ、ぜひ!」
「私はマノンさん、ポレットさんに賛同しました。良い企画です。お互いにプラスになるよう、ギブアンドテイクと行きましょう」
マノンだけではない。
ポレットも、ステファニーも気合が満ちていた。
傍らからも視線を感じ、顔を向けるとジョゼフィーヌ、リーリャも真剣な眼差しを向けていた。
ただでさえ魔法使いは、こういった気配に敏感だ。
オレリーの心と身体も刺激され、気合が満ちて来る。
モチベーションが否応なしに上がって来る。
自分は、本当に幸せになったと実感する。
最高の伴侶と素晴らしい家族を得たどころか、こんなに素敵なライバル達までも……
思い起こせば……
以前学園で勉強していた時、オレリーはたったひとりぼっちだった……
ほぼ無視に近い扱いを受け、挨拶の声さえ、ろくにかけて貰えなかった。
それが今や……
オレリーは大きく頷き、OKの意思を示すと、
「分かりました、マノンさん。一緒に学食へ行きましょう。でも次回は私達が出します。持ち周りという事で」
そして、笑顔で見守るルウ達へ、「行って来ます!」と手を大きく振ったのであった。
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東導の別作品もお願いします。
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※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う
ヴァレンタイン王国における、のんびりスローライフな田舎ワールドです。
故郷に帰りたかった青年が謎の死を遂げ、15歳の少年になって異世界転生!
バトルは少々ありますが、基本は田舎の村で美少女達とスローライフ。
畑を耕したり、狩りをしたり、魚を釣ったり、結婚した美少女達と日本の昔遊びなど。
スローライフ最中、自らの転生の謎を解き、様々な人々と、出会い&別れを繰り返す。
結果、逞しい『ふるさと勇者』へと成長して行く話です。
☆『隠れ勇者と押しかけエルフ』
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※両作品とも本日3月9日朝、更新予定です。




