第990話 「テオドラの復活⑮」
愛読者の皆様!
『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻が発売決定致しました!
詳細は決まり次第お報せ致します。
書籍版をまだお読みではない方は、第1巻~3巻を宜しくお願い致します。
皆様が応援して下されば、また次に繋がります。
※店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
ここは王都の焼き菓子店、金糸雀……
王都甘党の間では、「絶対に外せない!」と言われる超有名店だ。
ウッラとテオドラは、モーラルの指示通り、頼んであった『家族へのお土産』を店でピックアップした。
時間が微妙だったので、ふたりは急ぎ、併設されたカフェへ移動する。
と、その時『事件』は起こった。
何と!
カフェには、見知った先客達が居た。
ウッラとテオドラの、視線の先に居た先客達……
『予約席』と札の置かれたテーブル席には、モーラル、ソフィア、パウラの3人が座っていた。
否、座っていただけではない。
全員で紅茶をすすりながら、美味そうに焼き菓子を、「ぱく」ついていたのである。
到底、信じられない光景であった。
事前の打合せでは……
ブランデルの屋敷で、モーラル達は待っている筈なのに……
ウッラとテオドラにとっては、全くの予想外である。
さらに不思議な事があった……
カフェ店内に他の客の姿は、一切ないのだ。
驚愕したウッラは、目を真ん丸にして叫ぶ。
「あ~っ!!! モーラル!!! 何故、ここにぃ!?」
ウッラが叫んだのを聞いても、モーラルは動じない。
いつものように、冷静に『指導』を行う。
「こら、うるさいぞ、ウッラ。公共の場では静かにしろ」
「ななな、何故!」
状況が理解出来ずに、狼狽するウッラ。
モーラルは表情を変えず、「しれっ」と言う。
「魔導瞬間湯沸かし器のように、すぐ怒るお前達が心配でな。もし店で喧嘩でもしたら大変だ。なので、こうして3人で待っていた。なあ、ソフィア、パウラ」
モーラルに問われ、頷き同意するソフィアとパウラ。
「はい、その通りです。テオドラ、お菓子、美味しいわよ」
「ええ、そうですよ。あら、姉さん、おさきぃ、凄く美味しいよ、お菓子」
先程、ウッラが冒険者ギルドでモーラルの話をした後……
モーラルは念話でソフィアとパウラを呼び出した。
そして先回りし、店で待ち構えていたのだ。
呆然とするウッラへ、モーラルは悪戯っぽく笑う。
「ウッラ、テオドラ、ひとつ言っておこう。残念だが、お前達の食べる焼き菓子はもうない。来るのが遅いから、私達が全部食べた」
これは……真っ赤な嘘であった。
モーラルは、ウッラを「いじった」のだ。
最初から金糸雀に5人分の予約がいれてあったのはいうまでもない。
当然、焼き菓子も人数分、頼んであった。
しかし、興奮しているウッラは、そこまで考えが及ばない。
愚直な女は……
信じていた『親友』の裏切りにあったと思い、激高した。
「な、何だとぉ!!! 私達はちゃんと仕事をしたぞ!」
怒りで叫ぶウッラだが、モーラルはスルー。
相変わらず、面白そうに笑っていた。
そして、カフェの魔導時計をちらりと見て、平然と告げる。
「ウッラ、時計を見てみろ、お前達が遅れたのが悪い。うん、10分遅刻。だからペナルティだ」
ウッラは歯ぎしりしながら、時計を見た。
傍らのテオドラも一緒に見た。
確かにモーラルの言う通り、指定の時間から、約10分過ぎていた……
真面目な性格のテオドラは、仕方がないと思った。
約束を不履行したのは、自分達の方だからだと。
しかし!
久々に、『人生における最上の焼き菓子』を食べられると期待していた、ウッラの怒りが爆発する。
食べ物の恨みは、どこでも一緒。
激しい憎悪を呼ぶのだ……
「ふ、ふざけるなぁ!」
「ふざけてなどいない。私は時間厳守がモットーだ。この金糸雀だってそうだ。予約時間通りに来ない客は迷惑極まりない。中には連絡もせず、ドタキャンする不心得者も居るらしいからな」
「な! ドタキャン? そんな事、この私がするわけないだろ!」
「ウッラ、落ち着いて聞け。ギルドで私の悪口を含め、無駄話をしていて時間に遅れたのはお前達の責任だ」
「え!?」
「そもそも、この店へ予約を入れたのは私だ。お前達が来なければ、この私が店に対し迷惑を掛ける事になる。そんな事は到底許されないから、このように私達が時間通りに来て、菓子を食べ、茶を飲んだ。どうだ? 正当な理由だろう?」
「く、くうう!」
「違うか?」
「いつも完璧な理論武装をしおって! ほ、本当に口だけは達者な奴だ!」
ウッラは思いっきり顔を歪め、叫んだ。
そんなウッラを見て、モーラルが意味ありげに笑う。
小さく、「ぺろっ」と舌を出していた。
「な~んてな、冗談だ」
「は? 冗談?」
「馬鹿だな、ウッラ。私達がお前達の菓子を勝手に食べる、そんな酷い事をするわけないだろう? 冗談だよ、冗談」
冗談!?
焼き菓子はある?
食べられる?
だが、ウッラの怒りは簡単には収まらない。
「モーラル! お前! 言って良い冗談と悪い冗談があるぞっ!」
怒るウッラへ、モーラルは「しれっ」と言う。
「何、言ってる。元々遅刻したお前達が悪いのだ。冗談くらいで済んだのだから、私に感謝しろ」
「な! 何! 感謝だと?」
「そう、私の教育的指導に感謝だ。良いか? 今後は時間厳守! 遅刻は絶対するな。ちなみに焼き菓子は、これから運ばれて来るから安心しろ」
「ううう……何だ! ここまで散々言われた上、お前に感謝しろだと?」
「おう!」
「何がおう、だっ! ああ、このやり場のない憤りをどうしよう! く、悔しい! モーラル! またお前に遊ばれた! してやられたっ!」
悔しがるウッラに、おすまし顔のモーラル。
ダンピールと吸血鬼、本来は……宿敵同士。
……普通ならありえない……
このような、不可思議な友情も現実にはある。
テオドラは、だんだん可笑しくなって来た。
大笑いしそうになって、慌てて手を口に当てた。
ここで突如、モーラルが深く頭を下げる。
表情からは笑みが一切消え、ひどく真剣になっていた。
「ウッラ、改めて礼を言うぞ」
あまりの急展開に、ウッラは、まるで頭がついて行かない。
「はぁ?」
「遅刻だけはまずいが、今回は良く仕事をしてくれた。テオドラの面倒を、しっかり見てくれてありがとう」
「な! 何だ、モーラル! お、お前、いきなり、その変わりようはっ!」
目を丸くして叫ぶウッラ。
しかしモーラルは、そんなウッラをスルーし、一方的に言い放つ。
「喜べ! 思う存分、焼き菓子を食べろ。今日は私達だけで、カフェを貸し切りにしてあるのだ」
「な!? 何! 貸し切り!? お、思う存分だと! モーラル、今何と言った?」
「言葉の通りさ、今日は食べ放題で良いぞ。ルウ様と私からの奢りだ」
「えええっ!? た、た、食べ……放題!? モーラル、お前! ま、また冗談とか、嘘じゃあないだろうな?」
「今度は本当だ。テオドラと一緒に、好きなだけ焼き菓子を食べろ」
「そ、そうか! よ、良し! お、お前がそこまで頭を下げて頼むのなら、仕方がない。私とテオドラで好きなだけ食べてやろう、うん!」
モーラルとウッラ……
種族など関係なく、心を寄せあった『親友同士』の、温かいじゃれ合い。
さっきまで侃々諤々していたふたりも、顔を見合わせて笑っている。
テオドラも気が付けば……遠慮せず思いっきり笑っていた。
真の友情とは、絆とは何なのか……今のテオドラには分かる……
それ故、本当に、可笑しくてたまらない。
ふと見れば、姉のソフィア、ウッラの妹パウラも笑顔である。
声を出して笑いながら、テオドラは考えている。
ルウが今回、ウッラと組ませた『意味』が良く分かったのだ。
そしてミンミとマルガに、ルウが引き合わせた『意味』も……
嬉しくなったテオドラは、心の中で呼び掛ける。
感謝の気持ちよ、届けと。
ルウ様!
ありがとうございます。
また、こんなに優しくして頂いて。
……貴方に出会えて、本当に良かった。
ふふ、『愚直』って、私にぴったりです。
言葉の通り、とっても不器用な子ですけど……頑張ります!
この国で、大好きな貴方と姉、そして愛すべき新しい家族や仲間と……
一生懸命生きて行きます。
テオドラが語った決意。
それは彼女の『復活宣言』にほかならなかったのだ。
いつもお読み頂きありがとうございます。
テオドラのパートも今回で終了です。
次回更新分から下期新学期開始の予定です。
東導の別作品もお願いします。
☆『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』新パート連載中!
https://ncode.syosetu.com/n4411ea/
※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う
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※両作品とも本日3月5日朝、更新予定です。




