第989話 「テオドラの復活⑭」
愛読者の皆様!
『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻が発売決定致しました!
詳細は決まり次第お報せ致します。
書籍版をまだお読みではない方は、第1巻~3巻を宜しくお願い致します。
皆様が応援して下されば、また次に繋がります。
※店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
ウッラは……
まだまだ、『恋』に関して言いたい事があるらしい。
テオドラの目を、真っすぐに見つめて来る。
その眼差しは真剣だ。
「テオドラ……聞いて欲しい。私は最初、恋などは馬鹿で愚か者のするものだと思っていた。これまで出会った男は皆、不潔だし、欲望だけにまみれていて、大嫌いだったから……」
「…………」
男が不潔、欲望にまみれる……大嫌い……
ウッラが表現する、男性に対する感覚が、嫌悪感が、テオドラには全く分からない。
そもそも彼女の父は姉妹に対し、赤の他人である男性が接近するのを、非常に嫌がっていた。
なので男性とは、普段は滅多に接点を持たなかった。
その為なのか……
テオドラは好ましいといえる相手が、存在しなかった……
だから、初恋の経験さえない……
という記憶も、おぼろげにある。
その後、ソフィア、テオドラ姉妹ふたりの魂は……
魔法工学士の父により、彼の研究の結晶ともいえる自動人形へと移されてしまった……
そして数千年後、姉妹は遥か未来である、この異国の地に居る……
黙って、過去の記憶を手繰るテオドラ。
ウッラも、話を続けて行く。
「だがそれは……一方的な思い込みだった。男でも女でも、うわべだけではなく相手の本質を見ないと駄目だと思う」
「相手の……本質……ですか?」
「ああ、そうだ。ルウ様の屋敷で暮らしてみて、そしてミンミ奥様やマルガさんに出会って分かった……極めつけはあの、モーラルだ」
「…………」
「アールヴは高慢で排他的、他の種族をさしたる理由もなく軽蔑する。悪魔は欺瞞と堕落をもたらし、契約と引き換えに魂を喰らう恐るべき者、そして吸血鬼などは論外……見るのもおぞましい、蛇蝎以下ともいえる冷血なケダモノだ……」
「…………」
「特に吸血鬼など、……この世から存在自体、全てがなくなれば良い……そう思っていた」
「…………」
「実際……そんな最低最悪の奴はごまんといる……だから、その見方を完全に捨て去る気はない」
「…………」
「だが、そのように単純にひとくくりにするのも、大きな間違いだと分かった。種族が違っても……尊敬出来る者、価値観が合う者、思い遣りがあって、他者をいたわる者も居るとな」
「…………」
「ミンミ奥様の寛容さ、マルガさんの誠実さ、そして褒めるのはとても癪だが……モーラルの優しさ……種族の特性としては相反する。だが、全てが相手の本質ではないか?」
「…………」
ウッラの言う本質……
テオドラにも頷ける部分はある。
確かに……相手の本質を知り、理解するのは大事だと思う。
目の前のウッラにしてもそうではないか……
もしも、ずっと……
ダンピールという『うわべ』や『片面』だけで見ていたら、このように分かり合えていなかっただろうから……
ウッラは、優しく微笑む。
見たテオドラは、つい笑いそうになる。
「普段のウッラに、全く似合わない笑顔」などと言ったら、絶対に怒られるだろうから。
「テオドラ、お、男も、そ、そうだぞ……相手の本質を見ないといかん、うん!」
「…………」
恥ずかしそうに……少し噛みながら、心のうちをウッラは語る。
「い、今の私には……こ、好ましく感じる男が何人か居る。……まだ大好きとまでは行かない」
「…………」
「だけど、気に入った男と話したり……一緒の時間を過ごしているだけで、私は凄く楽しいし、幸福だ」
「…………」
「むむむ、そうだな……敢えて表現すれば、妙に浮き浮きして、身体が軽くなったり、おお! そ、そうだ! 見える景色が変わる! 同じ街並みが急に素敵になったりもするぞ! なあ、テオドラ、凄いだろう? 恋とはな、今迄の人生では体験した事のない、新たな感覚だぞ」
『恋』を語るウッラはいつになく饒舌だ。
とても嬉しそうに話している。
片や、テオドラは未経験の恋に対し考えられず、返事を戻せず……ずっと黙っている。
そしてウッラの話を聞き、……姉と悪魔の恋に関して、改めて考えてもいた。
とりあえず……
悪魔に命を助けられた時の、姉の話をもっと詳しく聞こう……
そして今や……ルウに従士として仕える、その悪魔にも会って……
じっくり話そう……
姉が慕うという悪魔の、『本質』を見極めてみよう……
と、ここで、ウッラがとんでもない指摘をする。
「お前だって、ルウ様を一途に慕っているだろう。それが……恋かもしれないぞ」
「え? ル、ルウ様!?」
テオドラは慌てた。
ルウとずっと居たい! 尽くしたい! 命に代えても!
もし、これが恋だとしたら……
それって!
「こ、恋!? い、い、いや違いますよっ! ウ、ウ、ウッラさん! わ、私はルウ様を尊敬し、尽くしたいと思っています。受けた恩を返したい! た、ただそれだけですっ」
盛大に噛むテオドラを、ウッラがジト目で見つめる。
「ほぉ、違うのか? でもルウ様と、ずっと一緒に居たい! そう思っているのだろう?」
お使いに出る直前、ふたりでした喧嘩は『それ』が原因であった。
相手の気持ちを理解したウッラは、少しだけテオドラを「いじった」のだ。
図星を指されたテオドラは、可哀そうなほど慌てる。
「そ、そ、そ、それはっ!」
取り乱すテオドラを、ウッラは優しく見守っていた。
「……ふふふ、まあ良いさ。ミンミ奥様が仰った通り、私達は不器用だし、真っすぐな生き方しか出来ない愚直な女だ。これからも宜しくな」
「は、はいっ! こ、こちらこそっ! よ、宜しく、お、お願いしますっ!」
愚直な女……か……
不思議と心に響く。
テオドラは、自分に「ぴったり」な言葉だと思う。
「ふう!」
息を軽く吐いたテオドラの足が軽やかになり、王都の石畳をしっかり踏みしめる。
まもなく、焼き菓子店金糸雀が見えて来た。
今度はテオドラがウッラの手をしっかり掴み、歩みを更に早めて行った。
いつもお読み頂きありがとうございます。
思ったより長くなったテオドラのパートも次回で終了。
明日3月5日朝に更新の予定となります。
東導の別作品もお願いします。
☆『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』新パート連載中!
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※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う
ヴァレンタイン王国における、のんびりスローライフな田舎ワールドです。
故郷に帰りたかった青年が謎の死を遂げ、15歳の少年になって異世界転生!
バトルは少々ありますが、基本は田舎の村で美少女達とスローライフ。
畑を耕したり、狩りをしたり、魚を釣ったり、結婚した美少女達と日本の昔遊びなど。
スローライフ最中、自らの転生の謎を解き、様々な人々と、出会い&別れを繰り返す。
結果、逞しい『ふるさと勇者』へと成長して行く話です。
☆『隠れ勇者と押しかけエルフ』
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深き深き地下世界で……
怖ろしい悪魔王により、父と一族全員を殺されたダークエルフの姫エリン。
穢されそうになったエリンを、圧倒的な力で助けたのは謎の魔法使いダンであった。
※両作品とも本日3月4日朝、更新予定です。




