第984話 「テオドラの復活⑨」
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立ち上がって思い切り身を乗り出して迫るテオドラを、ウッラは手で制した。
再び、長椅子へ座るよう言う。
言われた通り、テオドラが素直に座ると、ウッラは話し始める。
「テオドラ、私は……お前の生い立ちを詳しくは知らない。……今は、この世界に存在しない旧き国ガルドルド……その生き残り」
「…………」
「そしてパウラ同様、私の大事な家族ソフィアの……妹……ただ、それだけだ」
「…………」
「お前だって、ダンピールの事は詳しく知らないだろう?」
ウッラに問われ、テオドラは考え込む。
「…………」
ふ!
と、ウッラは笑った。
まるで「無駄な時間を使うな」とでも言いたげである。
「知らずとも無理はない。第一、そんな事を詳しく知っていても仕方がない」
しかし、テオドラは記憶を手繰る。
ダンピールとは……
人間と吸血鬼の間に生まれた半魔。
呪われた存在であり……人間は勿論、吸血鬼からでさえ、忌み嫌われる。
半魔という出自から、人間離れした能力を数多く持ち、そのひとつに吸血鬼の気配を察するというものがある。
何故か、ダンピールは、吸血鬼を激しく憎悪するという。
理由は、分からない……
読んだ、どの本にも書いてはなかった。
聞いても、誰も知りはしなかった。
しかしその為なのか、殆どのダンピールが、吸血鬼を狩る宿命を背負うと言われている……
テオドラの持つ、ダンピールの知識はそんなところだ。
そんなテオドラの考えを見抜いたかのように、ウッラは軽く息を吐く。
「……テオドラ……今、お前が思っている通りだ。ダンピールの吸血鬼への憎悪は凄まじい。……具体的な理由などなく、吸血鬼がただただ憎いのだ」
「…………」
ウッラの目が、徐々に遠くなって行く。
そして、いきなり大きく見開かれた。
心の奥底の引き出しへ鍵をかけ、厳重にしまい込まれた記憶を引き出したように……
「どれだけ奴らへの憎しみが凄まじいか……これから告げる事実を聞けば分かる」
「…………」
「……私とパウラの最初のターゲットは……我が父だった」
「え? そ、それって! な、何故!? …………」
吸血鬼とはいえ!
何と!
実の父を……
テオドラは、驚きのあまり絶句してしまった。
「……悪いが……殺した詳しい経緯は話したくない……まあ、お前が考えた事から……何となく察してくれ」
「…………」
驚愕するテオドラを見て、ウッラは寂しそうに笑う。
「……その後、私達姉妹は血の宿命から多くの吸血鬼を狩った。一方、金を得る為にも、依頼された人間……まあ、主に犯罪者だが……たくさんの者を殺した」
「…………」
「……吸血鬼とはいえ……父を殺した事で……その、良心というか、私達姉妹は、人間としては……たがが外れてしまったのかもしれないな……」
「…………」
「冷酷非道な殺戮者として……私とパウラの手は真っ赤に染まっている。こんな私達など天国へ行けるわけがない。死後は重き罪により冥界の最下層に堕とされ、転生したとしても絶対人間にはなれない」
「…………」
テオドラは衝撃で、まだ声が出ない。
何という、凄惨な人生なのだと……
表情を強張らせるテオドラを見て、ウッラは首を振る。
「済まぬ。……前置きが長くなった。一般的な常識だけではなく、私とパウラの行いからも、ダンピールと吸血鬼の因縁は理解しただろう?」
「……は、はい」
ウッラから優しく問われ、テオドラは、漸く声が出た……
力なく返事をするテオドラへ、ウッラは言う。
更に決定的な事実を。
「で、あればお前には分かる筈だ。私達姉妹とモーラルは、本来相いれない間柄だという事が」
「あ!」
テオドラは更に驚いた。
良く考えれば……確かに……そうだ。
しかしウッラとモーラルは?
先程から、驚愕が止まらない。
モーラルの正体は、人間全てから憎まれる存在である、夢魔モーラ。
夢魔モーラは、吸血鬼でもある……
ダンピールのウッラから見れば、不俱戴天の仇の筈だ。
何せ、ウッラとパウラの姉妹は、吸血鬼という理由で、実の父でさえ手を掛けたのだ……
今迄の、ウッラの話を聞けば、尚更である。
「ははは! 傑作な話さ。ダンピールと吸血鬼が友達同士なんて……だが、あいつは……モーラルは私と妹の面倒をいろいろみてくれ、大切な友と言ってくれた」
「…………」
「自分でも分かっている。私は性格的に難しい女で、やたら手がかかる。先ほどお前も経験しただろう?」
「…………」
さすがに、どう答えて良いのか分からず、テオドラは苦笑した。
釣られて、ウッラも苦笑する。
「しかし、あいつは……こんな私を見捨てなかった。それどころか、誇りも尊重してくれた」
「…………」
「だから……あいつは、もう絶対に手放せない……吸血鬼だろうが夢魔だろうが……かけがえのない存在……一番の親友だ」
「…………」
気難しいウッラに、ここまで言わせるモーラル。
そして妻として、ルウに深く愛されている。
テオドラは、とても羨ましくなった。
モーラルに対しては勿論だが、種族の宿命を超えた、『親友』を得たウッラにも。
そのウッラの話は……まだ、続くようだ。
「私の口からは敢えて詳しくは言わないし、言えないが……モーラルは父親に裏切られ捨てられた。その為に母親は死に、あいつ自身、森で野垂れ死に寸前まで行った。すんでのところでルウ様に救われたらしいがな」
「…………」
「私達姉妹も一緒だ。あのまま修羅の道を歩めば……最後は悲惨な死を迎えていただろう。それをルウ様とモーラルが救ってくれた」
「…………」
「……父を殺した女と父に裏切られ殺されかけた女……会った時はそんな事、分からない筈なのに……あいつ、本能的に私達姉妹を気にかけてくれたのかもしれないな」
「…………」
モーラルへの、大きな賛辞が続くと思われたが……
ここでウッラは一転、悪戯っぽく笑う。
「しかし……本来のあいつは、私に劣らず冷酷だ」
その瞬間。
「パキ!」と、音がした。
気のせい?
……錯覚だろうか?
と、テオドラは思う。
「モーラルはな、あいつが使う水属性の魔法と同じ、冥界に吹き荒ぶブリザードのような冷酷女だ。情けも容赦もない、許せない悪人なら相手に家族が居ても容赦なく殺す」
「え? ほ、本当に?」
テオドラが聞き直した瞬間。
パキン!
また音がした。
今度は、はっきりと耳に聞こえた。
気のせいではなかった。
この音は……大気が凍る音なのだ。
僅かに、怒りの波動も感じる。
どうやらウッラも、『異変』に気付いているようだ。
「うん! ついでに言えば、口に猛毒があって、物言いに品がない。更に残念なのは私より胸もない。はっきり言おうか、絶壁だ」
「ぜ、絶壁って…………」
バキン!
今度は、はっきりと部屋の大気が凍った。
応接室の気温が著しく下がって行く……
まるで、真冬なみである。
「何だ? 気のせいか寒いな?」
「…………」
無理やり惚けるウッラ。
苦笑するテオドラ。
姿は見えないが、この部屋に誰が居るのか、ふたりはもう気付いていた。
「うん! そんな、しょうもない女だが……私はモーラルが大好きだ、日々感謝している」
ウッラはそう言うと、雲ひとつないような、晴れやかな笑顔を見せたのであった。
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