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第984話 「テオドラの復活⑨」

愛読者の皆様!

『魔法女子学園の助っ人教師』最新刊第3巻が発売中です。

ぜひお手に取って頂ければと思います。

笑顔のジョゼフィーヌとオレリーの表紙が目印です。

※店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。


何卒宜しくお願い致します。

 立ち上がって思い切り身を乗り出して迫るテオドラを、ウッラは手で制した。

 再び、長椅子へ座るよう言う。


 言われた通り、テオドラが素直に座ると、ウッラは話し始める。


「テオドラ、私は……お前の生い立ちを詳しくは知らない。……今は、この世界に存在しないふるき国ガルドルド……その生き残り」


「…………」


「そしてパウラ同様、私の大事な家族ソフィアの……妹……ただ、それだけだ」


「…………」


「お前だって、ダンピールの事は詳しく知らないだろう?」


 ウッラに問われ、テオドラは考え込む。


「…………」


 ふ!

 と、ウッラは笑った。

 まるで「無駄な時間を使うな」とでも言いたげである。


「知らずとも無理はない。第一、そんな事を詳しく知っていても仕方がない」


 しかし、テオドラは記憶を手繰る。

 

 ダンピールとは……

 人間と吸血鬼の間に生まれた半魔。

 呪われた存在であり……人間は勿論、吸血鬼からでさえ、忌み嫌われる。


 半魔という出自から、人間離れした能力を数多く持ち、そのひとつに吸血鬼の気配を察するというものがある。


 何故か、ダンピールは、吸血鬼を激しく憎悪するという。

 理由は、分からない……

 読んだ、どの本にも書いてはなかった。

 聞いても、誰も知りはしなかった。

 しかしその為なのか、殆どのダンピールが、吸血鬼を狩る宿命を背負うと言われている……


 テオドラの持つ、ダンピールの知識はそんなところだ。

 そんなテオドラの考えを見抜いたかのように、ウッラは軽く息を吐く。

 

「……テオドラ……今、お前が思っている通りだ。ダンピールの吸血鬼への憎悪は凄まじい。……具体的な理由などなく、吸血鬼がただただ憎いのだ」


「…………」


 ウッラの目が、徐々に遠くなって行く。

 そして、いきなり大きく見開かれた。

 心の奥底の引き出しへ鍵をかけ、厳重にしまい込まれた記憶を引き出したように……


「どれだけ奴らへの憎しみが凄まじいか……これから告げる事実を聞けば分かる」


「…………」


「……私とパウラの最初のターゲットは……我が父だった」


「え? そ、それって! な、何故!? …………」


 吸血鬼とはいえ!

 何と!

 実の父を……


 テオドラは、驚きのあまり絶句してしまった。


「……悪いが……殺した詳しい経緯いきさつは話したくない……まあ、お前が考えた事から……何となく察してくれ」

 

「…………」


 驚愕するテオドラを見て、ウッラは寂しそうに笑う。


「……その後、私達姉妹は血の宿命から多くの吸血鬼を狩った。一方、金を得る為にも、依頼された人間……まあ、主に犯罪者だが……たくさんの者を殺した」


「…………」


「……吸血鬼とはいえ……父を殺した事で……その、良心というか、私達姉妹は、人間としては……たがが外れてしまったのかもしれないな……」


「…………」


「冷酷非道な殺戮者として……私とパウラの手は真っ赤に染まっている。こんな私達など天国へ行けるわけがない。死後は重き罪により冥界の最下層に堕とされ、転生したとしても絶対人間にはなれない」


「…………」


 テオドラは衝撃で、まだ声が出ない。

 何という、凄惨な人生なのだと……


 表情を強張らせるテオドラを見て、ウッラは首を振る。


「済まぬ。……前置きが長くなった。一般的な常識だけではなく、私とパウラの行いからも、ダンピールと吸血鬼の因縁は理解しただろう?」


「……は、はい」


 ウッラから優しく問われ、テオドラは、漸く声が出た……

 力なく返事をするテオドラへ、ウッラは言う。

 更に決定的な事実を。


「で、あればお前には分かる筈だ。私達姉妹とモーラルは、本来相いれない間柄だという事が」


「あ!」


 テオドラは更に驚いた。

 良く考えれば……確かに……そうだ。

 しかしウッラとモーラルは?

 先程から、驚愕が止まらない。


 モーラルの正体は、人間全てから憎まれる存在である、夢魔モーラ。

 夢魔モーラは、吸血鬼でもある……

 ダンピールのウッラから見れば、不俱戴天の仇の筈だ。

 

 何せ、ウッラとパウラの姉妹は、吸血鬼という理由で、実の父でさえ手を掛けたのだ……

 今迄の、ウッラの話を聞けば、尚更である。


「ははは! 傑作な話さ。ダンピールと吸血鬼が友達同士なんて……だが、あいつは……モーラルは私と妹の面倒をいろいろみてくれ、大切な友と言ってくれた」


「…………」


「自分でも分かっている。私は性格的に難しい女で、やたら手がかかる。先ほどお前も経験しただろう?」


「…………」


 さすがに、どう答えて良いのか分からず、テオドラは苦笑した。

 釣られて、ウッラも苦笑する。


「しかし、あいつは……こんな私を見捨てなかった。それどころか、誇りも尊重してくれた」


「…………」


「だから……あいつは、もう絶対に手放せない……吸血鬼だろうが夢魔だろうが……かけがえのない存在……一番の親友だ」


「…………」


 気難しいウッラに、ここまで言わせるモーラル。

 そして妻として、ルウに深く愛されている。

 テオドラは、とても羨ましくなった。

 モーラルに対しては勿論だが、種族の宿命を超えた、『親友』を得たウッラにも。


 そのウッラの話は……まだ、続くようだ。


「私の口からは敢えて詳しくは言わないし、言えないが……モーラルは父親に裏切られ捨てられた。その為に母親は死に、あいつ自身、森で野垂れ死に寸前まで行った。すんでのところでルウ様に救われたらしいがな」


「…………」


「私達姉妹も一緒だ。あのまま修羅の道を歩めば……最後は悲惨な死を迎えていただろう。それをルウ様とモーラルが救ってくれた」


「…………」


「……父を殺した女と父に裏切られ殺されかけた女……会った時はそんな事、分からない筈なのに……あいつ、本能的に私達姉妹を気にかけてくれたのかもしれないな」


「…………」


 モーラルへの、大きな賛辞が続くと思われたが……

 ここでウッラは一転、悪戯っぽく笑う。


「しかし……本来のあいつは、私に劣らず冷酷だ」


 その瞬間。

 「パキ!」と、音がした。


 気のせい?

 ……錯覚だろうか?

 と、テオドラは思う。


「モーラルはな、あいつが使う水属性の魔法と同じ、冥界に吹き荒ぶブリザードのような冷酷女だ。情けも容赦もない、許せない悪人なら相手に家族が居ても容赦なく殺す」


「え? ほ、本当に?」


 テオドラが聞き直した瞬間。


 パキン!


 また音がした。

 今度は、はっきりと耳に聞こえた。


 気のせいではなかった。

 この音は……大気が凍る音なのだ。

 僅かに、怒りの波動も感じる。


 どうやらウッラも、『異変』に気付いているようだ。


「うん! ついでに言えば、口に猛毒があって、物言いに品がない。更に残念なのは私より胸もない。はっきり言おうか、絶壁だ」


「ぜ、絶壁って…………」


 バキン!


 今度は、はっきりと部屋の大気が凍った。

 応接室の気温が著しく下がって行く……

 まるで、真冬なみである。

 

「何だ? 気のせいか寒いな?」


「…………」


 無理やり惚けるウッラ。

 苦笑するテオドラ。

 姿は見えないが、この部屋に誰が居るのか、ふたりはもう気付いていた。


「うん! そんな、しょうもない女だが……私はモーラルが大好きだ、日々感謝している」


 ウッラはそう言うと、雲ひとつないような、晴れやかな笑顔を見せたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

東導の別作品もお願い致します。


☆『隠れ勇者と押しかけエルフ』


https://ncode.syosetu.com/n2876dv/


深き深き地下世界で……

怖ろしい悪魔王により、父と一族全員を殺されたダークエルフの姫エリン。

穢されそうになったエリンを、圧倒的な力で助けたのは謎の魔法使いダンであった。

※本日2月16日朝、更新予定です。

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