第980話 「テオドラの復活⑤」
愛読者の皆様!
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『魔法女子学園の助っ人教師』第3巻が発売されました。
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笑顔のジョゼフィーヌとオレリーの表紙が目印です。
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モーラルは、更に補足説明をする。
説明とは言っても、所詮簡単な注意レベルであるのだが……
しかしモーラルが話す間、ウッラとテオドラはお互いに見向きもしなかった。
ふたりとも、それぞれずっと、モーラルの顔を真っすぐに見つめていたのである。
やがて説明は終わった。
モーラルは、ウッラとテオドラへ、法衣に着替えて出かけるよう指示をしたのである。
ウッラの妹、パウラは微笑みながら思う。
自分と別行動をする事に、少し不安はあるが……
姉は変わった。
あの日……
王都見物をした時に……モーラルが姉を大切な友だと言ってくれた日から……
なので、もう大丈夫だと思うのだ。
そんな妹へ、姉ウッラは言う。
「パウラ、見送りは不要、たかがお使いじゃないか。」
「了解、姉さん」
返事をするパウラへ、ウッラは鼻を鳴らす。
そしてテオドラへ向き直る。
「ふん、新参者、良いか? さっさと着替えて、10分後に大広間へ集合だ」
ウッラは普段から『上から目線』で、誰にでも高圧的な物言いをする。
現在、屋敷ではテオドラが一番の新米だから、尚更だ。
世間一般では、『先輩の言い方』として、よくあるものかもしれなかった。
だが、テオドラはカチンと来たらしい。
「こら、ダンピール! 新参者ではない! テオドラという名で呼べ」
言い返すだけなら、良かった。
しかしテオドラは、ウッラにとって『禁断の言葉』を告げてしまった。
だからウッラも黙ってはいられない。
「何! ……貴様、今、私をダンピールと呼んだな」
「呼んだがどうした? 紛れもない事実だろう?」
平然とするテオドラに対し、ウッラは悔しそうに唇を噛み締める。
「ああ……事実だ。しかしお前こそ、私を名前で呼べ」
「ふん!」
鼻を鳴らしてそっぽを向くテオドラ。
しかしウッラは、怒りを爆発させずに何とか踏み止まる。
「まあ、一回だけは許してやる。だが今後、再び呼んだら容赦しない」
テオドラを注意するウッラを見て、パウラは吃驚した。
変わったとは思っているが、短気な姉が今の『侮辱』に対し、良く耐えたと思うからだ。
「ほう! ダンピールめ、どう容赦しない? やって見せろ」
しかしテオドラは平然としており、全く悪びれなかった。
テオドラの姉ソフィアは、「はらはら」して見つめている。
挑発まで始めたテオドラに呆れ、さすがにモーラルが手を挙げた。
先程、口論を止めたのと、全く同じである。
「待て! やめろ、ふたりとも。今のは両名が悪い。まずウッラ、新参者ではなく、テオドラの事をちゃんと名前で呼べ」
意外にも、モーラルはウッラを叱った。
『味方』が増えたと感じたテオドラは、ますます勝ち誇る。
「ほうら、見ろ」
ぺろっと、舌まで出すテオドラに、ウッラは拳を握り締め悔しがる。
だが、手を出さずに堪えている。
「くううう……」
モーラルは、ウッラを見て優しく微笑むと、テオドラに向き直る。
そして、一段と厳しい声を出した。
「テオドラ!」
鋭い声で呼ばれたテオドラは、呆気に取られていた。
いきなり、足元をすくわれたという表情だ。
「な、何ですか?」
そんなテオドラへ、モーラルはきっぱりと言い放つ。
「確かにウッラも悪いが、それ以上にお前は悪い」
「な!?」
驚愕するテオドラを、モーラルは厳しい表情で見つめている。
「言っておくが……二度と仲間をそのように蔑称で呼ぶな。もしも呼んだら、ルウ様は、お前と縁切りするだろう」
「え? 縁切り!?」
想定外の言葉に、目を丸くし、口をパクパクするテオドラ。
動揺する様は、まるで生身の人間のようだ。
ガルドルドの技術は、とてつもないものである。
目を細めたモーラルは、更にぴしりと言う。
「そうさ、ウッラもお前も人間だ。私もソフィアもパウラもそうだ。それを絶対に……忘れるな」
半魔ダンピールも、仮初の肉体を持つ自動人形も、人間。
そして夢魔モーラも人間……
ブランデルの屋敷では、この部屋に居る者は全てが『人間』なのだ。
多分、ルウの考えでもあるのだろう。
深い意味を持つらしい、モーラルの言葉を聞き、テオドラは項垂れてしまう。
「…………」
無言になったデオドラに対し、モーラルは言う。
「テオドラ、返事は?」
「は、はい……」
「ならば、まずウッラに謝罪しろ。そして改めて言うが、今回の『仕事』はウッラの指示に従え」
「…………」
「念を押すぞ、ウッラの指示をルウ様や私の指示だと思え」
「…………」
相変わらず、無言のテオドラ。
モーラルの顔が、僅かに怒りで歪む。
「全てルウ様の指示だ。どうした? 従えないのか?」
散々、促されて渋々といった感じで、テオドラは返事をする。
声が、酷く掠れていた。
「分かりました……」
しかし、気持ちを整理したのだろう。
ウッラに深く頭を下げる。
「ウッラ……殿。……済まない……以後、気を付ける」
対するウッラの対応は、
「……テオドラ、私も悪かった」
何と、同じくらい深く頭を下げたのだ。
驚いたのは、傍でやりとりを見守っていたパウラである。
「え? 姉さん!」
「どうした、パウラ」
声が大きくなったパウラを見たウッラは、優しく微笑んでいた。
やはり!
姉は……変わった。
それも劇的に。
だが、ここで確かめるのは、けして良いタイミングではない。
パウラは、姉に尋ねたい気持ちを無理やり飲み込む。
そして首を横に振る。
「いえ、何でもありません……」
そろそろ、頃合いと見たのだろう。
ウッラが、出発を宣言する。
「では、モーラル。着替えたら、行って来る。さっきも言ったが見送りは不要だぞ」
「行ってらっしゃい」とパウラ。
「気を付けてな」とモーラル。
最後にソフィアが頭を下げる。
「ウッラさん、妹をお願いします」
ウッラは手を振りながら、部屋を出て行った。
部屋に残されたテオドラは……
「……じゃあ、姉さん、私も着替えるわ」
掠れた声で言うと、大きなため息をついた。
やはりテオドラは、元気がない。
今の顛末がルウに伝わる事を、とても気にしているらしい。
もしや嫌われてしまうのではないかと……
ソフィアは、また妹が心配になってしまう。
「テオドラ、気を付けて。ウッラさんの言う事を良く聞いて」
「…………」
モーラルが用意した法衣に、無言で着替え始めたテオドラを、ソフィアは不安そうに見つめていたのであった。
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本日2月2日朝更新です。




