第974話 「テオドラの復活②」
『魔法女子学園の助っ人教師』
愛読者の皆様、いつもご愛読、応援して頂きありがとうございます。
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※書影及びカラー口絵、イラスト数点を公開致しました。
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ルウとモーラルが、異界の書店『幻想』に行った翌日の昼……
ブランデル邸3階の一室で、テオドラは目を覚ました。
何故か深く、ぐっすりと眠る事は出来なかった。
多分、『浅い眠り』が続いたのだろう。
目覚めた時に頑張っても、良く思い出せない。
違う夢を、何度も何度も見た。
そして……
見た夢自体は、酷くリアルだった気がする……
近しい人々と仲良く暮らしている懐かしい喜びと、突如訪れた、むごたらしい別離を思わせる悲しみの感情が入り混じっていた。
楽しい夢と悪夢が、複雑に混在していたに違いない。
テオドラは起きる度に、現実へと引き戻された。
魔族ならいざ知らず、限りある生命しか持たない有機体である筈の人間が……
とてつもない強度を誇り、半永久的に稼働する仮初の肉体を得たとしても……
遥か昔に生まれた人間が、数千年後の未来に生きている。
何と……
不思議な事なのだろう…
窓から見える、すっかり様式が変わったヴァレンタイン王国王都の街並みは、ガルドルドの都と比べればまるで別世界、否、異世界である。
ぼんやりと、外を眺めながら、テオドラは思う。
あまりにも陳腐な表現ではあるが……自分は数奇な運命に囚われたと。
あの大破壊で、意識を失い……
原因は不明だが、いつの間にか自分の魂は、ふたつに分離していた。
分離して……
自動人形に残った魂は、ネビロスという怖ろしい悪魔に支配されてしまっていたのだ。
そして砕けた、もうひとつの魂は……
今から10年近く前、奇跡ともいえる確率を潜り抜け……
アンノウンとして、ルウに召喚されていたのである。
数奇と言えば、これも同じくらい予想不可能な事なのだろう。
主である怖ろしい悪魔から命じられ、ひょんな事から、ルウと戦い呆気なく敗れた。
そして幸運にも、ルウに付き従う、己の魂の片割れと巡り合えたのだ。
更に、大きな幸運があった。
戦った相手がルウでなければ、そのまま殺されていたか、相手を殺していた。
神の御業ともいえる、魂の修復などは到底無理だっただろう。
狂気じみた父の実験の為に、残念ながら生身の肉体こそ失われてしまった。
だがルウに出会った事で、テオドラは正常な魂を持つ人間として、『完全体』に戻る事が出来たのである。
『人間』に戻って、またも奇跡が起きた。
数千年ぶりに、生き別れになっていた姉とも会えたのだ……
それも、姉はひとりではなかった。
既に、大勢の家族と暮らしていたのである。
結果、姉以外にも、一気に家族らしき者達が増えた。
寝ている間、あっという間に、時間は過ぎて行ったが……
テオドラが、ベッドから起き上がる事はなかった。
意識は、はっきりしており、自由に動き回りたいのはやまやまであったが。
しかし、はやる気持ちに反して、テオドラの身体は思うようには動かなかった。
ルウと戦った時には、あれだけ自在に動かせた身体なのに。
疑問を感じたテオドラは、姉ソフィアへ聞いてみた。
妹から質問を受けた、同じ仕様の身体であるソフィアによれば……
ルウとの激しい戦いは勿論、悪魔から無理やり魂を支配された事が原因ではないかという。
その為、自動人形の機体に、何か狂いが生じていると。
魂の残滓であった時に、召喚したルウへの想いはしっかり残っていた。
その、主と慕うルウからも……
「無理はせず、ゆっくり休むように」とは言われている。
だけど、早く動きたい。
とても……もどかしかった。
それが……
今、起きたら様子が違っていた。
身体が、やけに軽いのだ。
思わず勢いよく起き上がり、部屋の扉を開けようとしたら、ちょうど姉ソフィアが来た。
ソフィアは、妹の顔を見ると朗らかに笑う。
半ば生存を諦めていた、たったひとりきりの肉親が生きていて、心の底から嬉しいのだ。
「テオドラ、どう? 気分は」
「姉さん……何か、これまでと違う」
テオドラは首を傾げ、そう言うと、「パッ」とベッドから降りた。
身体を屈伸し、手足を思い切り伸ばしてみる。
やはり、気のせいではない。
身体が今迄通り、いやそれ以上に軽々と動かせるのだ。
「へぇ……やっぱり」
「やっぱりって?」
ソフィアの答えを聞き、テオドラは訝し気な顔付になった。
どうやら姉は、理由を知っているらしい。
間を置かず、テオドラの疑問は、すぐに解消した。
姉からすぐに、答えは伝えられたからだ。
「ルウ様のお陰よ、そしてモーラル様にもご尽力いただいたわ」
「え?」
「詳しい事は仰って頂けないのだけれど……昨夜、ある所へ私達の事を調べに行かれ、そのまま貴女が居た遺跡に行って来たって……仰ったわ」
「え? アシェイリーへ?」
テオドラは、思わず遺跡の名を呼んだ。
己の意思は全くなかったが、どこに居たのか、認識だけはしていたのである。
ソフィアは?マークを出すが、すぐに納得した。
「アシェイリー? ああ、貴女が居た遺跡の事ね。ルウ様と貴女が戦った後、遺跡から悪魔共を追い出し、結界を張って封鎖していたんですって……昨日改めて探索されて、いくつか残っていた私達のパーツと部品を回収して来てくれたのよ」
ルウがわざわざ、自分の為に動いてくれた事は分かった。
しかし、テオドラにはまだ疑問がある。
「で、でも……この機体の仕組みは? もしパーツや部品があったって、ガルドルド人の一流魔法工学士以外にはどうにもならない……どうして?」
「うん、分かってる。私達のお父様が心血を注いで造り上げた、高度な技術を持つ身体だもの……」
妹の質問を、聞いた姉も同意した。
しかし、ある光景を目撃した姉は、驚愕すべき事実を伝えてくれる。
「あのね、ルウ様は貴女と戦い、そして調べた結果、私達の身体の仕組みをある程度理解されたらしいわ。そして応急手当だと仰りながら、調整してくれたのよ」
「な!? 理解したって!? 私達の機体の仕組みを?」
「そうよ! ルウ様は本当に素晴らしいわ! 私も一緒に調整して貰って、動きが凄く滑らかになった」
「姉さんも…………」
ソフィアは微笑み、腕を軽く回す。
テオドラから見ても、すぐ分かる。
確かに、とても楽そうだ。
そして、
「ええ、テオドラ。ルウ様は私達姉妹の命の恩人よ。いいえ! そんな表現では言い表せないわね……」
「ね、姉さん! ルウ様は? ルウ様はどこ? 今、このお屋敷にはいらっしゃらないわっ! あ、あの方の波動を感じない!」
ルウが屋敷に、自分の近くに居ない!?
テオドラは、大きな不安を覚えた。
目が……完全に泳いでいた。
妹は、ルウに依存し切っている。
無理もない……
アンノウンとして召喚され、10年近くも一緒に居たのだ。
そう感じながら、ソフィアは苦笑した。
やんわりと興奮する妹をなだめる
「ルウ様は……お仕事よ。学園へ行かれているわ」
ルウの所在が分かった!
と、なればテオドラの選択肢は、たったひとつしかない。
「わ、私も行くっ! 学園へ行くわっ!」
「え? テオドラが?」
「ええ、私はルウ様に仕える身なの。従士が傍を離れてはいけないわ」
と、その時。
とんとんとん!
姉妹の居る部屋の扉が、軽やかなリズムで鳴らされたのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
明日1月23日からは書籍版第3巻発売記念と致しまして、
特別閑話を1月25日まで3日連続で更新致します。
通常版は1月26日に更新しますので、本日を含め5日連続の更新となります。
ぜひお楽しみ下さい。
東導の別作品もお願いします。
☆『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』新パート連載中!
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※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う
ヴァレンタイン王国における、のんびりスローライフな田舎ワールドです。
故郷に帰りたかった青年が謎の死を遂げ、15歳の少年になって異世界転生!
バトルは少々ありますが、基本は田舎の村で美少女達とスローライフ。
畑を耕したり、狩りをしたり、魚を釣ったり、結婚した美少女達と日本の昔遊びなど。
スローライフ最中、自らの転生の謎を解き、様々な人々と、出会い&別れを繰り返す。
結果、逞しい『ふるさと勇者』へと成長して行く話です。
本日1月22日朝更新予定です。




