第971話 「ふたりめの親友⑦」
『魔法女子学園の助っ人教師』
愛読者の皆様、いつもご愛読して頂きありがとうございます。
新刊第3巻【2018年1月25日発売予定】
何卒宜しくお願い致します。
※書影公開致しました。
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人間の街へ出て、アールヴとは全く違う異文化に触れ、今迄の自分を変えたい。
魔法に関しても何とか新味を出して、少しでも己を成長させたいと、ケルトゥリは思って旅立ったが……
最初から、何かはっきりとした目的や、綿密に立てた計画があったわけではない。
故郷を出たのは、事前にいろいろと考えはしたが、殆ど感情に任せた勢いである。
ルウの想定外な才能を見せつけられ、自分の限界を超えたいという反骨心からなのだ。
勢いに任せ、準備も碌にしない、女ひとりの旅ではあったが……
普段魔法の修行も兼ね、森や原野で過ごす事に慣れたケルトゥリにとって、危険な旅とはならなかった。
そして旅の途中、いくつもの人間の町や村を……『経験』した。
自然に満ち溢れ、平穏な里であるイエーラに比べ……
人間の集落は、大きくとも小さくとも、刺激的で欲望に満ちていた。
出会う誰もが、本音と建前を使い分けつつ、話していた。
つまらない事で他人を酷く蔑み、何かにつけて、上か下かと争いたがった。
あまりにも『違い過ぎる世界』であった……
だが……
それが逆に幸いとなり、ケルトゥリの鬱々とした悩みを、ある程度払拭はしてくれたのだ。
人生初の長い旅をした時間が、全く価値観の違う世界に触れた衝撃が……
挫折という深い傷を……癒してくれたのである。
ケルトゥリが、とりあえずヴァレンタイン王国第二の都市バートランドを目指したのは、冒険者ギルドの総本部があるからだ。
当然、冒険者となって腕を磨く為である。
生きて行く為に金を稼ぐのは勿論、実力を試しながら行う、実戦を兼ねた修行というふたつの意味があった。
ケルトゥリはギルドの門を叩き、冒険者の心得を学ぶ講習を受け、ランク認定試験を抜群の成績でクリアした……
だが、あっさりと冒険者になって、全く意外な状況となった。
生活の為と割り切って、仕方なく冒険者になったのに、予想に反し日々の生活はとても楽しかったのである。
命を懸けた冒険の対価として、莫大な金を受け取るのが面白かった。
依頼を完遂した成績がすぐ反映され、ランクが上がるのも気に入った。
見た事もない古代遺跡や迷宮を探索し、強靭な魔族や魔物へ、今迄培った自分の実力を遠慮なく発揮出来た。
戦いに勝つ事より、怪我をせず、生き残る事が大切だと知った。
一回の戦いで敗れた相手にも、知恵を絞り、戦法を変えて最後には勝利した。
個というひとりの力より、クランとして戦う集の力が、時としては勝る事も知った。
ケルトゥリは経験と実績を積み、認定されたランクEからBへあっという間に昇格し、晴れて上級ランカーとなった。
そして獲物を狙うような切れ味鋭い動きと、常に沈着冷静な事から、隼と渾名される。
更にランクAとなった時、渾名がそのまま『ふたつ名』となったのである。
私生活においては、食生活が大きく変わった。
イエーラとは全く違う、人間の食習慣も慣れれば楽しくなった。
肉を始め、人間の女子と変わらず、甘いお菓子も大好物となる。
エール、ワイン等々……
今迄は飲まなかった酒だって、いろいろ覚えた。
居酒屋で冒険者仲間と酒を飲み始めた頃から、恋愛事情も激変した。
故郷では身分の高い貴族令嬢であったケルトゥリへ、気軽に同族の平民が声を掛けたり、ましてやナンパなどする事は皆無であった。
バートランドへ来て、ケルトゥリは今迄と違う、積極的なアプローチを受ける事となる。
この人間の街に居る同族の男達、そして種族の違いなど全く気にしない人間の男達が……
美貌を誇るケルトゥリへ、男の恋心と欲望をストレートにぶつけて来た。
男達は手を変え品を変え、ケルトゥリへ迫った。
金や様々なプレゼントは当然として、己の力を誇示する者が多かった。
しかしケルトゥリは、飲み友達的な男友達は作っても、遂に恋人は作らなかったのだ。
一応友達くらいにはなるので、相手へ好意は持っていた筈である。
だが、決して深い間柄にはならなかった。
ときたま……
力で言う事を利かせようとする、不埒者は居たが……
そこは土と水の精霊魔法、そして無敵の魔導拳を習得していたランクA冒険者ケルトゥリ。
すなわち男勝りな猛者、隼の前では、女にとち狂った男などは赤子同然だったのである。
改めて見れば……
目の前では、ルウが相変わらず優しく微笑んでいた。
ケルトゥリは、改めて自問自答する。
何故、私は……恋人を作らなかったのだろう?
男なんかより、魔法が大好きだったから?
未知の冒険に命を燃やしていたから?
確かに、それらは否めない。
子供の頃から一番好きなものは魔法の奥深さであり、人間の街へ来てからは冒険のスリルだったから……
人間の街の思い出は、けして楽しいものばかりではない。
故郷を離れた自分は、異邦人の寂しさに膝を抱え、密かに涙した事もある。
いくら強い女冒険者だからといって、辛い孤独に負けそうになった夜もある。
今なら、思い当たる事がある。
微かな心当たりから……もうはっきりした確信に変わりつつある。
ケルトゥリは少しだけ自分がじれったくなり、軽く「きゅっ」と唇を噛んだのであった。
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東導の別作品もお願いします。
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※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う
ヴァレンタイン王国における、のんびりスローライフな田舎ワールドです。
故郷に帰りたかった青年が謎の死を遂げ、15歳の少年になって異世界転生!
バトルは少々ありますが、基本は田舎の村で美少女達とスローライフ。
畑を耕したり、狩りをしたり、魚を釣ったり、結婚した美少女達と日本の昔遊びなど。
スローライフ最中、自らの転生の謎を解き、様々な人々と、出会い&別れを繰り返す。
結果、逞しい『ふるさと勇者』へと成長して行く話です。
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本日1月12日朝、更新予定です。
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