第962話 「ふたりめの親友③」
『魔法女子学園の助っ人教師』愛読者の皆様、いつもご愛読して頂きありがとうございます。
第3巻発売予定日が出ました。
来月、2018年1月25日の発売予定となります。
何卒宜しくお願い致します。
※カバーイラスト公開致しました。
活動報告にアップしております。
ルウが気楽に座るよう勧めてくれたので、ケルトゥリは遠慮せず楽な姿勢で、長椅子に座った。
適度に硬い感触が、ケルトゥリの尻に伝わって来る。
改めて見れば、地味なグレーの長椅子だ。
余計なデザインを排除した、機能優先の椅子である。
座ったのでもう分かるが、クッションはあまり柔らかくなく、身体がゆったり沈み込むようなつくりではない。
だがやけに座り易く、疲れない。
そんな、実用的な椅子を使うのもルウらしい。
ふと、ケルトゥリが見れば、ルウは部屋の奥で何か作業をしている。
彼女はルウが何をしているか、すぐに分かった。
魔法女子学園の研究室には、魔導システムを使った給湯設備がある。
どうやらルウは、その設備を使ってお茶の用意をしてくれている。
背を向けたまま、ケルトゥリに話しかけて来た。
「ちょい前に、ケリーの魔力波を感じた。俺を訪ねて来ると分かったから、勝手にお茶の準備をしておいたぞ」
ルウが淹れているのは、ケルトゥリの故国アールヴの国イエーラから特別に取り寄せたハーブティである。
ケルトゥリが幼い頃から馴染みのある、独特な香りが部屋の中に満ちていた。
「ああ、いい香り……懐かしい」
いかにも気持ち良さそうに、鼻をひくつかせたケルトゥリが、目を閉じて呟いた時。
丁度支度を終えたルウが、トレイの上にポットと、カップをふたつ載せてやって来た。
「ケリー、以前と好みが変わっていたら悪いが、俺が知る限りお前の好きな茶葉で淹れておいた」
これまた質素なテーブルの上に置いたカップの中には、琥珀色の液体がたっぷりと満たされていた。
先ほどから、ケルトゥリの気持ちが落ち着くのはこの香りが理由であり、ルウの優しい気遣いを感じる。
言葉も交わさず、すぐに自分を理解し、対応してくれる。
接していて、心地良い相手に、ケルトゥリは素直に礼が言える。
「ありがとう!」
「いやいや、こんな事はお安い御用さ。それとカップは俺の趣味だ。地味な奴で悪いが……」
ケルトゥリが見ると、ルウが出してくれたカップは、土をそのまま素焼きしたような素朴なデザインのカップである。
色も単色で、王都の貴族が使う華美なものではないが、とてもホッとする趣きである。
「へぇ、何言ってるの? 私の好みを良く知っている癖に……ルウ、あんた、もしかして口説いてる?」
ケルトゥリは、冗談とも本気とも分からない軽口を叩いた。
でも、ルウは敢えて反応せず、知らんふりをしている。
それが、ケルトゥリにはまた心地良い。
向かい合って座ったふたりはお茶をすする。
自然と見つめ合う。
ケルトゥリが今日、ルウを訪ねた目的はいくつかある。
まずは、話したい事があった。
なので、いきなり、ケルトゥリはズバリ言う。
回りくどい言い方が嫌いで、単刀直入な彼女らしい。
「リューが先日来たわ。私の部屋に……直接……」
先日、姉のリューディア・エイルトヴァーラは突然来訪した。
ケルトゥリが帰宅すると、部屋の中で待っていたのである。
※第930~931話
しかし、ルウの表情は変わらない。
いつもと同じ穏やかな表情で、あっさり同意したのである。
「ああ、彼女が王都に来たのは知っている。そうか、ケリーを訪ねて来たんだな」
「え? 知っていたの?」
ケルトゥリは吃驚し、すぐに思う。
やはりルウは凄いと。
高位魔法使いが使用可能な魔力波読み。
当然、ケルトゥリも使う事が出来る。
索敵魔法と組み合わせて上手く使えば、通常より数段上の探知能力を得られるからだ。
更に説明するならば……
高位の上を行くレベルの魔法使いは、自ら放出する魔力波を極力抑える事が出来る。
だからリューディアは自分の気配を悟られないよう「消して」いた筈なのだ。
現にケルトゥリは、リューディアの自宅への来訪に、直前まで全く気付けなかった。
しかし!
ルウは離れた場所に居て、リューディアが王都を訪れている事実を把握していたのだ。
ケルトゥリが改めて見れば、ルウは微笑んでいた。
呆れたと言う、苦笑に近い笑みかもしれない。
「ああ、いくらリューが気配を隠そうとしても、魔力波を完全にシャットアウトする事など出来ない。人間でもアールヴでも魔族でも全て一緒……だから分かった」
「…………」
やはりケルトゥリの思った通りだった。
100%の魔力波のうち、99%を消したとしても、ルウは感知してしまう。
凄まじい感知能力を有しているのだ。
そして、
「リューがお前の下に来た用件は、俺には大体分かる。……まだ諦めていないのだろう?」
そう、リューディアは……私の姉は諦めてなんかいない……
ルウの事を諦めてなどいないのだ。
「とんでもない」とケルトゥリは、首を振った。
「ええ! 諦めるどころか……一層、燃えているわ。ルウをソウェルにしようってね」
「一層、燃えている……か。困ったものだ……」
ルウは苦笑して、首を振る。
そして、ケルトゥリをじっと見つめたのであった。
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