第961話 「ふたりめの親友②」
『魔法女子学園の助っ人教師』愛読者の皆様、いつもご愛読して頂きありがとうございます。
第3巻発売予定日が出ました。
来月、2018年1月25日の発売予定となります。
何卒宜しくお願い致します。
全教員参加の特別職員会議が終了後……
理事長室では、続けて臨時会議が行われていた。
会議のメンバーは理事長のアデライド、校長代理のフラン、教頭のケルトゥリ、主任シンディの4人である。
議題の中心は、当然ながらシンディ退職後の後任人事であった。
シンディが再来年に退職した後、新3年A組を誰に担当させるのか、じっくり考えていかねばならない。
幸い、時間はまだ多少ある。
本来は、適性も含め時間を掛けて後任を選ぶのではあるが、アデライドには何か考えがあるようなのだ。
「私に提案があるけれど、聞いて頂ける?」
一応、相談するような物言いではあったが、この場に居る人間はアデライドの性格を知り抜いている。
既に彼女の中では決定事項……異論があれば、内容をしのぐ代案を提案の上、検討する……
そういうものなのだ。
だからアデライドは、いきなり結論を述べる。
付帯理由も何もなしで。
「シンディ先生が担任として来年受け持つ事になる新2年A組ですが、副担任をフランシスカ校長代理に担当して貰います」
「え!? 私が副担任?」
「え!」
「ああ!」
3人から一様に驚きの声が上がった。
ケルトゥリは、思わずフランを見た。
口に手を当てて驚いている。
どうやらアデライドは、娘であるフランにも告げていなかったらしい。
ケルトゥリには、すぐピンと来た。
この場の3人に対して同時に告げたのは、自分に対するアデライドの気遣いだと。
驚く3人の反応を見たアデライドは、にっこり笑う。
「フランシスカ校長代理は副担任という肩書ですが、降格ではありません。実質的には2年A組の担任となります。シンディ先生の勤務負担を軽減し、王都から楓村へ移住する為の準備時間を作るという趣旨です」
「あ、ありがとうございます、理事長。お気遣い頂き感謝致します」
シンディはすぐに礼を述べた。
しかし、
「…………」
驚いた表情を見せたフランは、暫く無言であった。
何かを深く、じっと考えているようだ。
シンディもそのまま黙り込み、部屋に沈黙が流れる中、アデライドの話は続いている。
「来年の新3年C組の担任はルウ先生とし、魔法武道部の顧問も同じくルウ先生に担当して貰います。ちなみにベルナール先生退職により空席となる新1年C組の担任は、アドリーヌ先生に担当して貰おうと思います」
アデライドの話が終わり、フランが挙手をする。
どうやら、決心がついたらしい。
「はい! 私は理事長の提案に対し、前向きに検討致します」
フランがOKなら、シンディにも異存はない。
パッと挙手をして、発言する。
「私も引継ぎが円滑に行えますので、理事長のご意見に賛同致します」
きっぱりと言い放ったシンディの言葉を聞いてから、最後に手を挙げたのは……ケルトゥリである。
「私にも異議はありません」
こうして、4人の意思は一致した。
実は、この人事にはアデライドの深謀遠慮があった。
本来なら、ルウかアドリーヌを来年度の2年A組副担任とするのが妥当である。
シンディと共に、新2年A組の生徒達とコミュニケーションを取って貰えば、再来年度円滑に引き継げるからだ。
しかし現在の2年C組の状況を鑑みれば、ルウを外すべきではない。
フラン以下3人は、アデライドの意図をすぐに見抜いたのだ。
自分の提案が受け入れられたアデライドは、満足そうに頷く。
「1週間後にルウ、アドリーヌ両先生へも正式に伝えます。それまでに何か問題点、もしくは代案の申し入れを受け付けます。何かあれば早めに私へ連絡して下さい」
他にも付帯事項やその他のすり合わせを行い……会議は終わった。
だが、アデライドとシンディはまだ何か話す案件があるらしい。
その為、フランとケルトゥリは先に理事長室を出た。
辞去したふたりは階段で降りる。
校長室と教頭室はひとつ下の4階にあるからだ。
4階へ降り、挨拶をして校長室へ向かおうとするフランへ、ケルトゥリは声を掛ける。
「フラン」
一旦挨拶をしあったのに、背後ろから再び声が届き、フランは振り返る。
「何? ケリー」
フランを愛称で呼ぶとは、ケルトゥリにはまだ信じられないという感覚がある。
多分、フランも同じ気持ちだろう。
「ちょっと、ルウと話したいの……ふたりだけで」
「……いいわ。今の時間なら研究室に居る筈よ、ひとりで」
了解と、この返事も……以前のフランならば考えられない。
だから素直にケルトゥリも言えるのだ。
「ありがとう、フラン」
「…………」
ケルトゥリの礼に対し、フランの返事はない。
ただ、優しく微笑んだだけであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園研究棟2階……
この別棟には、各教員に与えられた研究室がずらりと並んでいる。
アデライド、フラン、ケルトゥリ以外の特別な個室を持たない教師で、実績を積んだ者はこちらへ個室を与えられている。
机上より大きく場所を取るような作業がある時とか、またはひとりで考えたい時とか……
この研究室は、プライベートルームとしても重宝されている。
但し、理事長室内に施設があるアデライド以外……フランとケルトゥリにも一応研究室は与えられていた。
最近はふたりとも、あまり使用していないが……
自分の研究室の前を通り過ぎたケルトゥリはある部屋の前で足を止めた。
ルウの研究室である。
ケルトゥリが手を伸ばし、ノックをしようとした瞬間。
部屋の中から、聞き慣れた声が聞こえて来た。
「ケリー、鍵はかかっていないぞ」
扉を叩こうとした手を止めた、ケルトゥリの心がほわっと温まる。
ルウは魔力波で、ケルトゥリだとすぐ認識してくれた。
そう思うだけで……嬉しくなる。
「ありがとう」
自分でも気付いていないが……
いつもクールで、斜に構えた性格のケルトゥリも著しく『変わって』いた。
嬉しい事を素直に喜び、微笑むケルトゥリの表情は、今迄誰にも見せた事のない晴れやかなものであったのだ。
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※本日12月18日の朝、更新予定です。




