第960話 「ふたりめの親友①」
『魔法女子学園の助っ人教師』愛読者の皆様、いつもご愛読して頂きありがとうございます。
只今、書籍版第3巻の改稿作業中です。
発売日等、詳細が決まりましたら、随時お知らせしますので何卒宜しくお願い致します。
まだ暑さが残る8月末に近い、ある日の事……
夏季休暇継続中のヴァレンタイン王立魔法女子学園には、久しぶりに全教師が揃っていた。
約2週間後から始まる下期の学期に向けて、午前9時から特別職員会議が行われる為である。
通常の職員会議に比べると、内容は多岐に渡っており、下期の学園運営の為に重要な会議であった。
特別な会議がある為、本日の出勤時間は午前8時30分。
しかし、時間よりずっと早くルウとアドリーヌは職員室に姿を見せていた。
ちなみにフランは、学園へ来るまでは同行するが、校長室へ入ってしまう為に一緒ではない。
やがて……
出勤して来た先輩教師達に対して、元気に挨拶するアドリーヌは、笑顔一杯である。
何故ならば、ブランデル邸で、念願の『新婚生活』を始めていたからだ。
幸い、手間が掛かる引っ越しも不要であった。
帰省する前に1週間ほど過ごした部屋を、そのまま自分の個室として与えられたからである。
王都で長く、つつましいひとり暮らしをしていたアドリーヌにとって、一気に家族が増えた夢のような生活であった。
だが夏休みが終わりに近づくと、徐々に『仕事を伴う日常』という現実へと引き戻される。
でもアドリーヌは全く心配などしていない。
これから待っているのは『素晴らしい現実』なのだから。
今迄のように単なるルウの同僚というだけではなく、妻として昼間は学園、夕方以降も妻としてずっと一緒に生活する事が出来る。
そして……
以前のフランがそうであったように、ルウと結婚した報告をアドリーヌは大々的にはしない。
同じ女性としてアドリーヌは勘づいていたが、誰にでも優しいルウに対して、ほのかな思いを持つ者が多々居ると感じていたからである。
なので、受け持ちクラスの生徒達には敢えて告げないのは勿論、先輩の教師達にはおいおい伝える事にした。
当然ルウとフラン、そしてジゼル達にも相談して方針を共有している。
出来る限り平静を装うアドリーヌであったが、放つ魔力波の変化をしっかり感じ取った者が居た。
ほぼ決まった時刻、職員室に顔を出し、恒例ともいえる朝の挨拶をする教師……
ルウの姉弟子ともいえる、教頭のケルトゥリだ。
しかしアールヴ特有のプライドの高さ故、自分からは何があったのか、アドリーヌへ聞けない。
やがて時間が午前9時を指し……
特別職員会議が始まった。
今日の司会進行は何故かケルトゥリではなく、フランである。
実は、これまではケルトゥリが行っていた進行業務を、自分に任せて欲しいと申し入れをしたのだ。
今迄はケルトゥリに一切を任せていたのに、信じられない変貌ぶりである。
教師誰もが、思う。
強く感じている。
ルウと結婚してから、フランは全く変わったと。
ケルトゥリから見ても、最近フランの成長は著しい。
意固地というか、頑固で殻に閉じこもるような非社交的な性格的が変貌し、情緒不安定さも消えた。
いつも笑顔を絶やさず、どっしりした落ち着きが出て来ている。
魔法の冴えも素晴らしく、仕事に対しても、このように積極的なのだ。
アドリーヌの変化も感じ取れた、魔力波読みが可能なケルトゥリには分かる。
ルウには到底及ばないものの、フランが最近放つ魔力波のスケールは遥かに自分を凌いでいると。
こうなると、ケルトゥリの心の中は複雑だ。
元々上昇志向の強いケルトゥリは、アールヴの長であるソウェル継承者の争いに敗れ、人間の街へやって来た。
異邦人として人間の街で暮らし、異文化に触れる事で自分に新味を見出そうとしたのである。
しかしソウェルになると思い込んでいたルウが、シュルヴェステルの後継者を断り、ケルトゥリの住むこの王都セントヘレナへ来て事情は変わった。
ルウと離れて暮らしていたケルトゥリは、改めて気付いてしまったのだ。
たかが生意気な弟くらいだと思っていた、ルウへの秘めたる気持ちに……
まず感じたのは、フランへの嫉妬である。
元々、ケルトゥリはフランが大嫌いであった。
ケルトゥリは、種族を超えた魔法使いとしてのスケールから……
理事長のアデライドを、人間とはいえリスペクトしていた。
だが、いきなり自分の上司として赴任して来たフランには反感しかなかった。
自分と同じように成績優秀で、魔法大学を卒業していても、である。
不愛想で実績もないフランが校長代理になれたのは、母親であるアデライドの血縁のお陰だと考えていたのだ。
教師として実績のない自分がフランと同じように、いきなり他の教師をさしおいて、教頭になった事実はすっかり忘れて……
しかし狩場の森での一件をきっかけに、フランとの距離が縮まると、ケルトゥリはしっかり意識していた。
フランは魔法使いとして、女性として、競いがいのある良きライバルだと。
暫し経って、フランがルウと結婚してから、なおその思いは強くなって行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局……
特別職員会議は、2時間に及んだ。
内容は例年通り、まず下期の授業の綱目と方針の確認。
そして学年個々としては、3年生の進路の最終確認、2年生は進路の希望を聞き取りするとともに裏付けとなる実力の確認、そして1年生の授業脱落者発生の防止などである。
そして学園が関わる行事の確認も行われた。
対外行事で気に留めるものとしては、魔法男子学園からの対抗戦の開催時期と競技内容変更の申し入れである。
このところ連敗している事もあり、男子に有利な内容に変えて来るのではと魔法女子学園の教師達は噂した。
学園内の行事では、生徒会選挙や学園祭等、さして去年と変わらない予定が組まれていた。
そして最後には、予定外な人事の発表があった。
規定通り、定年退職するベルナール・ビュランは良いとして……
事情を知らなかった教師達が吃驚したのは、主任教師シンディ・ライアンの急ともいえる退職話である。
紆余曲折あり、王都郊外の楓村管理官となる夫キャルヴィン・ライアン伯爵について行く為、再来年退職すると言うのだ。
シンディが現在受け持つのは1年A組……
予定通りであれば、生徒が3年生になる直前に退職する事になる。
今から、後任を決めておかねばならないという話になるのは当然だ。
しかし人事決定に関与するのは、この魔法女子学園において教頭以上の役職である。
当事者には事前に通達されていたので、予定通りとなったが……
特別職員会議が終了後、アデライド、フラン、ケルトゥリ、そして退職予定のシンディの4人による臨時会議が理事長室において開かれたのであった。
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※両作品とも本日12月15日の朝、更新予定です。




