第955話 「我が儘ケヴィンの恋⑤」
『魔法女子学園の助っ人教師』愛読者の皆様、いつもご愛読して頂きありがとうございます。
只今、書籍版第3巻の改稿作業中です。
発売日等、詳細が決まりましたら、随時お知らせしますので何卒宜しくお願い致します。
「昔? 何か……嫌な思い出でも?」
どうやらピエレットは、余計と言うか過剰な心配をしているようだ。
自分が原因で、ケヴィンの辛い記憶を呼び覚ます事になったのかと。
ケヴィンに、ピエレットの優しい心遣いが伝わって来る。
女性からこのような温かい気持ちを感じるのは、今迄になかった。
だから、急いで手を横に振る。
当然、「大丈夫だ」という意思表示である。
ピエレットのする心配など、すぐ失くしてあげたくなっていた。
ケヴィンは不思議な事に、初対面の女性に対し、無性に労わりたくなっていたのだ。
「い、いや……寧ろ逆さ。懐かしかったんだ……いや、その……貴女が俺の初恋の人に似ていたから……」
「まあ!」
初対面の男性から、いきなり初恋の女性に似ていると言われれば誰でも驚く。
この国で有名過ぎる貴族エドモンの息子ケヴィンは大人の男性で、真面目な大学教授だとミンミからは聞いていた。
なので、ピエレットの驚きは尚更であった。
軽薄な男性なら、口説き文句の定番なのに、実直なケヴィンからいきなり言われたからである。
当然、ケヴィンは自らも『失言』と認識し、焦ってしまう。
「い、いや、忘れてくれ! いきなり初対面でそんな事を言うのは失礼だ。ま、まるで貴女の事を、どこぞのジゴロが口説いているみたいだ」
「え? 口説く? 私を?」
言ってからケヴィンは「しまった!」と思う。
何故なのか、先ほどより、いつものペースが狂いっぱなしなのだ。
しかし黙っていたら、尚更まずい。
そう考えたケヴィンは、頭をフル回転させて言葉を紡ごうとする。
「ああ、違う! 貴女は素敵だとは思ったが、ええと、そうだな、そんなつもりでは! ど、どう言えば良いのかな……」
駄目だ!
言葉が出ない。
と、いうか気持ちだけが前面に出てしまっている。
「わ、私が素敵……そんな!」
なおも驚くピエレットを見て、ケヴィンはぶんぶん首を振る。
「ああ、何、やってんだ、俺は! ううう、嫌だ! 嫌だ! もし大好きな考古学や魔道具の事なら普通に貴女と話せたのに!」
「え? 魔道具?」
「あ、ああ、そうさ。お、俺は考古学者だけど、古い魔道具も大好きでね。特に古代人工遺物には目がないんだ。で、でも貴女には何の興味もない話だろうから……」
そう言いながら、ケヴィンは残念な気持ちでいっぱいであった。
目の前のピエレットは……久々に会えた好みの……いや理想的ともいえる女性なのに……
いきなり「やらかしてしまった!」からである。
うう、ルウ君と話すなら、こんな事絶対ないのにな……
頭の中で愚痴が飛び交い、後悔の念が押し寄せる。
脱力しながらも、ケヴィンは突如、ルウに授けられた『作戦』を思い出す。
あ!
そうだ!
確か、ルウ君が言っていたのは……
……まずは相手を気遣い……聞き役に徹する……そうだったよな……
学者である自分は、生来の話好きだ。
つい相手の話を遮ってまで、自分の意見を話そうとしてしまう。
だが、ルウは念には念を押して作戦を遂行するように言っていた。
こんな女性なら、ぜひ話を聞いてみたい……
でも……目の前の女性——ピエレットが自分の話をしてくれる事などありえない……
しかし!
ピエレットは、目をキラキラさせながら大きい声で尋ねて来る。
「ケヴィン様! 貴方こそ素敵です! 魔道具に目がないなんて……もしかして集めていらっしゃるのですか?」
「あ、ああ……魔道具なら、バートランドの自宅に鬼のようにあるよ。今度借りる新しい屋敷には全部は無理だろうから、気に入ったものだけ、ある程度持ち込もうと思っている」
「そ、そうなんですか!」
「うん、研究用に使うのも含め、少なくとも1,000点くらいはバートランドから運ばせる予定さ」
「せん!? 1,000点も! うわぁ、う、う、羨ましいっ!!!」
え?
ケヴィンは吃驚してしまう。
それだけピエレットの反応が……喰い付きが物凄い……のだ。
ここはチャンスかもしれない。
先ほどまでの汚名を返上し、名誉を挽回するのだ。
「も、もしかして……ピエレットさんも魔道具の収集を?」
「は、はいっ! してますっ! 大好きなんです、魔道具!古代人工遺物もっ!」
と、その時!
『ケヴィン様、作戦、作戦遂行……』
ルウの声がケヴィンには聞こえた。
……ような気がした。
多分幻聴だろう……ケヴィンはそう思ったが、素直にルウの『作戦』を遂行する事にした。
「ピエレットさん、良かったら貴女のコレクションの話を聞きたいんだけど、いや魔道具に関してなら何でも! よ、良かったらだけど……」
「喜んで!」
1時間後……
「はっ! 私! 一体何を? 初対面のケヴィン様にこんなに馴れ馴れしくっ!」
とめどもなく話した後、漸くピエレットは自分の無作法に気が付いた。
何せ、相手はこの国で王族と並ぶ名家の御曹司だ。
大切な業務の話をそっちのけで、自分の趣味の話をしてしまった。
だが、とんでもなく楽しかった。
以前、ミンミの夫ルウと話した時以来だ……
ピエレットは恐る恐るケヴィンを見た……
幸い怒っている様子はない。
「ケヴィン様、私……何て事を……自分のプライベートな話ばっかり……」
詫びようとしたピエレットを、ケヴィンは手を振って制止した。
そして、
「ピエレットさん、お願いがある」
お願い?
……負い目もあるピエレットは……
断れない! そう思った。
しかし……
「お願いというのは……この護衛役候補者リストに貴女の名前も加えて欲しい」
「え?」
「うん! 決めた! 屋敷の護衛役のひとりとして貴女に入って欲しいんだ」
「ケヴィン様のお屋敷の? ど、どのような……」
意味でしょうか? という言葉を飲み込み、ピエレットは戸惑う……
話してみて分かったが……
ケヴィンは名門貴族でありながら、それを全く鼻にかけてはいない。
腰が低く、丁寧な言葉遣いをしてくれる。
ピエレットを優しく気遣い、楽しく話をさせてくれた。
話すうち何と独身だと分かり、自分もつい、そうだと告げてしまった。
それ故、全く身分違いの自分だが……好ましい男性だとピエレットは思ったのだ。
しかし、ふたりの身分の差は歴然としている。
ケヴィンと真剣に交際するなど、全く考えられなかった。
そうなると、ピエレットの妄想は膨らんでしまう。
……まさか、私に……王都での一時的な妻……愛人になれとか?
そんな!
断れない?
ピエレットの認識では……傲慢な上級貴族なら言い出しかねない『話』である。
緊張するピエレットに対し、続いてケヴィンから出た話は……
「今、話していてとても楽しかった。だから貴女とまた話をしたい……美味しい紅茶でも飲みながら魔道具の事を……何か、職権乱用みたいで申し訳ないが……無理を承知で頼みたい」
「え?」
全然、違った!
ケヴィンは『そんな人』ではなかった。
誠実な相手を疑い、恥ずべき気持ちと共に、新たな出会いを得た喜びが……
ピエレットには、込み上げて来た。
「ピ、ピエレットさん、あ、貴女と魔道具の話をしていると、とても楽しいんだ。時間さえも忘れる………だから、ぜひ! お、お願いしたい」
「ケ、ケヴィン様! わ、私で宜しければ、よ、喜んで!」
少し噛みながら話す、ケヴィンとピエレットの会話……
この瞬間、王都にまた……小さな恋がひとつ……生まれていたのであった。
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※両作品とも本日11月27日朝、更新予定です。




