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第946話 「シンディの決断②」

『魔法女子学園の助っ人教師』愛読者の皆様、いつもご愛読して頂きありがとうございます。

 只今、第3巻の改稿作業中です。

 今回も大幅加筆修正、新エピソードが加わる予定です。

 発売日等、詳細が決まりましたら、随時お知らせしますので何卒宜しくお願い致します。

「シンディ先生! お、王都を離れるって!? 一体どういう事なのですかっ! わ、理由わけを! 理由を教えて下さいっ!」


 勢いよく立ち上がったジゼルは身を乗り出して、シンディへ迫った。


「ジゼルさん……」

「ジゼル」


 思いもかけないジゼルの反応に、シンディは勿論、フランも驚いていた。

 王都騎士隊の隊長を務めるライアン伯爵家が、騎士隊の中心を担う人物がいずれ王都を離れる……

 当然、妻のシンディも家族と共に王都を離れるだろう……

 シンディの愛弟子ともいえるジゼルにとって、確かにショックかもしれないが、ここまで反応するとは?

 

 さすがにシンディも想像がつかなかったのである。

 夫キャルヴィンも困惑し、ルウを見た。


 しかしルウは相変わらず穏やかな表情であった。

 立ち上がったまま、拳を震わせるジゼルへ声をかける。


「ジゼル、とりあえず最後まで話を聞こう。シンディ先生、話を続けてくれませんか」


「…………」


 いつもはルウの指示に元気よく「はい!」と返事をするジゼルが、無言で顔をしかめていた。


 

 シンディも辛い気分になって来る。

 ルウが、ジゼルをこの場へ呼んだ真意が徐々に分かって来たからだ。


「え、ええ……ルウ君、分かったわ。 話を聞いてくれるかしら? ジゼルさん」


「は、はい! シンディ先生……御免なさい、旦那様。……皆様、お騒がせして申し訳ありません」


 ジゼルは顔を歪ませたまま、長椅子ソファへ倒れこむように座った。

 ルウが、とっさに支えてやったのはいうまでもない。


 こうして……話は再開された。


「息子ジョナサンの、将来の希望を知っているでしょう?」


 フランとジゼルは、ルウから楓村の一件を聞いていた。

 日々の退屈と欲求不満からジョナサンが家出し、楓村の少女エミリーと出会った……

 地方の厳しい現実を知り、自分の甘さを痛感した……

 モーラルの助けを借りたものの、楓村におけるゴブリンとの戦いにおいて、ジョナサンが一人前の騎士……いや大人への階段を上った。

 そんなジョナサンを認め、愛してくれたエミリー……


 ジョナサンは真の『戦う者』を目指し、エミリーと結婚して楓村への移住を決意したのである。

 固い息子の決意を聞き、認めたもののライアン夫婦にも葛藤が生まれたのだ。


「ジョナサンは王都を出て楓村へ移住し、エミリーと楓村へ自分の人生を捧げると決めたの」


 シンディが言うと、キャルヴィンも頷く。


「ああ、何度か話したが……あいつの決意は固く、翻意しなかった」


 今迄にないくらい、親子3人は話し込んだ。

 息子のみならず、ライアン家の将来がかかっているから、無理もない。

 結局、ジョナサンの決意は変わらず……

 数日して、夫婦ふたりきりになった時に、シンディからキャルヴィンへ申し入れをしたらしい。


「それで……私はある決意をして、夫へ話したのよ」


「ああ、吃驚したが……実は私も同じ事を考えていたのさ」


 夫婦が出した結論……それは再来年のジョナサンの卒業を機に、家族全員で楓村へ移住する事であった。

 当然夫婦とも、今の職を辞する事となる。


「楓村管理担当のマチュー・トルイユ子爵が亡くなった事は知っているかね?」


「いいえ……」


 ルウが首を振り、フランとジゼルは黙っていた。

 この中でルウだけが真実を知っていた。

 エステルを助ける際、自業自得ともいえる振舞いでマチューは死んだ。

 その結果、楓村の管理は宙ぶらりんとなってしまったのだ。

 現在は仮の担当者が引き継いでいるが、やはり施策が行き届いていないらしい。


「トルイユ子爵の後任は、まだ正式決定していないのだよ」

「だから私達夫婦は楓村の管理官となって、息子共々、家族全員で移住する事にしたの」


 シンディが王都を離れ、楓村へ移住する。

 魔法女子学園の教師を、やめるに違いない。

 再び聞いても、ジゼルにはショックでたまらない。


「で、では! 魔法女子学園は? 我が魔法武道部はどうなるのです? シンディ先生!」


「ごめんなさい、ジゼルさん。当然辞める事になるわ。でも……私はもう魔法女子学園で目的を達成したの」


「え? 目的? 達成?」


「ええ、一番の目的達成はジゼルさん、貴女」


 シンディの目的達成とは……ジゼル?

 一体どういう事だろうか?


 思わずジゼルは問う。


「私?」


「ええ、魔法女子学園へ教師として赴任した際、私を超える人をぜひ育てたい! そう思っていたわ」


「私をって? シンディ先生を超える? そ、そんな! わ、私など、まだまだ未熟者です!」


「隠してもダメ。貴女は普段抑え目にしているけど、湧き上がる魔力波オーラは全盛期の私を遥かに凌ぐ……凄いと思ったもの……」


「…………」


 根が正直なジゼルは、つい黙り込んでしまう。

 はっきり言って、シンディの言う通りである。

 公私に渡るルウの指導の賜物で、現在ジゼルの実力は超がいくつも付く上級魔法剣士といえるのだ。


「それに教師の後輩も順調に育った。フランちゃんもケルトゥリ教頭を凌ぐ勢いだし、ルウ君も居る。アドリーヌ先生を見たら分かるけど、他の先生方も大きく成長しているし、来年になれば新しい先生も入って来るでしょう? ……潮時よ」


「ううう」


 ジゼルは熱い気持ちが込み上げる。

 決して寂しさだけではない……


「たまたま息子の事がきっかけだったけど……私はまた新たな人生へ踏み出せる。夫も楽しみにしているの」


 また新たな人生へ……

 思えばシンディには、何度も人生の転機があった。

 王都魔法騎士になった時、王国第一王女専属の護衛に選ばれた時、王女の結婚と共にあっさり護衛をやめ魔法女子学園の教師になった時、そして今回の移住……


「先日、この夏季休暇を利用して楓村へ行って来たの。村長さんやエミリーのお父さんとも会って話したわ。村の人達にも挨拶した」


「…………」


「楓村は良いところよ……村の人達は明るいし真面目で良く働くわ……食べ物も美味しいし、空気も最高。私と夫、息子のジョナサンは村の管理に奔走して、合間にメイプルシロップ含めて農作物を一生懸命作り、敵が来たら必死に戦う……多分そんな生活ね」


「シンディ……先生」


「うふふ、まだ学園には来年いっぱいは居るし、ちゃんと引き継ぎもする。楓村へ移っても王都からすぐじゃない? ぜひ遊びに来て」


「シ、シンディ先生っ! わ、私が! 将来に、人生に迷っていた私に……あの日、道を示してくれたのは貴女と旦那様だっ!」


「ジゼルさん……」


「い、今の私があるのは! おふたりのお陰です! あ、ありがとう! ありがとうございますっ! わああああ~ん」


 遂に泣き出したジゼルは、思い切りシンディへ飛びついた。


 ジゼルは元々シンディを女性騎士の偉大な先輩として一目置いていた。

 だが、ルウの導きでざっくばらんに本音で話してから更に深い『敬愛』へと変わっていたのだ。

 フランを含めたブランデル家の姉達とはまた違う意味で、『姉』としても愛していたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 1時間あまり経ち……

 ブランデル邸入口……


 話が終わったライアン伯爵夫妻は隣接するドゥメール邸へ訪問する予定だ。

 アポイントを既に取ってある。

 ルウ達へ話したのと全く同じ話をする為だ。


 大泣きしたジゼルは、その後たっぷりシンディと話した。

 考えてみれば、ジゼルも将来へ向かって様々な夢を持っておりシンディ同様人生の転機がいくつも訪れるという話になったのだ。


 魔法大学へ入ったら……絶対に冒険者になる。

 ルウと一緒に、世界各地を回って素晴らしい冒険をする。


 併せて、上級魔法鑑定士の資格も取る。

 冒険して見つけた、未知の宝物をぜひ鑑定してみたい。


 そして今日、はっきりしたジゼルの夢が、もうひとつあった。


「シンディ先生! 私は絶対、教師になる! 旦那様と一緒に魔法女子学園で生徒を教える。そして貴女と同じ目的を持つ! 私を超える者を育てる為に魔法武道部の顧問にもなるのです」


 ダークブルーの瞳をキラキラさせたジゼルは、はっきりそう言い切ったのだ。


 ……夫と共に挨拶が終わったシンディは、再び振り返る。


 ジゼルは、まだ大きく手を振っていた。

 懸命に手を打ち振る『愛弟子』の表情は、今迄でシンディが見た中で一番といえるくらい晴れやかに、輝いていたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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