第942話 「閑話 マノンの超叱咤激励①」
『魔法女子学園の助っ人教師』愛読者の皆様、皆様の応援のお陰で第3巻の発売が決定しました!
ありがとうございます!
発売日等詳細は未定ですが、概要が決まり次第お報せしたいと思います。
何卒宜しくお願い致します。
時間は、少し遡る……
夏休みの某日……
ヴァレンタイン王国王都セントヘレナの、とあるカフェ。
一番奥に、『特別室』と呼ばれる会議用個室のある特別なカフェである。
その日、特別室は女性3人だけの貸し切りだった。
貸切られたその特別室で……王立ヴァレンタイン魔法女子学園2年A組生徒マノン・カルリエとポレット・ビュケのふたりは、ひそひそと話し合っていた。
本来ならもうひとり……
2年B組のステファニー・ブレヴァルも参加する予定だ。
しかしステファニーへ告げられた約束の時間までは、まだ1時間余りあった。
当然、ステファニーの姿はない……
実はこのマノンとポレット……
ステファニーに内緒で示し合わせて、1時間早くカフェへ来ていたのである。
この状況は……そう、これからふたりはステファニーには言えない秘密の話をしようとしていたのだ。
「ポレットさん、まずはステファニーさんが来るまでに、『あの話』を終わらせておきましょう。宜しいですね?」
「は、はい、マノンさん、心得ています」
「では早速……」
マノンが切り出した『あの話』とは……ステファニーの妹アニエスの件である。
先日魔法女子学園でオープンキャンパスが行われた際に、アニエスがとった様々な行動はマノンに対して多大なストレスを与えたのだ。
結果、マノンは確信した。
アニエスが来年、魔法女子学園へ入学すれば自分達の学生生活の脅威になると……
脅威とはすなわち精神的、肉体的なダメージである。
その為には今から対策を立てて、しっかり手を打っておかねばならない。
片やポレット。
彼女は今迄アニエスと話した事は殆どなかった。
会ったのも王宮の晩餐会だけで、父と一緒に挨拶したくらい。
アニエスとは、顔見知り程度というレベルだ。
なので、ステファニーの妹という以外、詳しく人柄を知らない。
だがアニエスはオープンキャンパスの際に、とんでもなく目立った行動を取ったらしい。
その噂はマノンを始めとして、各所から耳へ入っていたのである。
「はい、私、マノンさんからだけではなく、いろいろな方から評判を聞きました。アニエスさんって、凄い子の……ようですね?」
「いいえ! 凄い子どころじゃありません。ものが付く凄い子なのですわ! もしもあの子が入学すれば絶対に私達へ被害が及びます」
「ひ、被害って……それは少々、心配し過ぎではありませんか?」
マノンは大袈裟に受け止め、気にし過ぎてしるのではと、ポレットは思った。
アニエスはまだ14歳の少女で、ほんの子供だと考えていたから。
しかしマノンはぶんぶんと首を振る。
「そんな事はありません。お祖父様であるブレヴァル枢機卿を使って、お気に入りのルウ先生に近づこうとし、まんまと成功しましたから」
「…………」
アニエスがルウを好きになってしまったと、昨日ステファニーは愚痴っていた。
大喧嘩していた妹と仲直りしたのは良かったが、とんでもない恋のライバルが誕生したと頭を抱えていたのである。
泣きそうな顔のステファニーを思い出したポレットは、深いため息をつく。
そんなポレットを見たマノンは同意を求める。
「しっかりあの子の脅威を認識して下さい。このままでいけば、アニエスさんは上位の成績で入学試験に合格し、来年の新1年A組に入るのは間違いありません」
「で、ですね」
頷いたポレットを見たマノンは、更に話を続ける。
「ええ、ステファニーさんから聞いたところによれば、アニエスさんは結構な実力者、ブレヴァル家の中では天才と言われるだけあって才能は素晴らしいらしいのです。既に生活魔法を完璧にマスターしたとか……他の初級魔法もいくつか使うみたいですし1年生の授業などまるで児戯だと豪語しているそうですわ」
「う、うう……凄い」
ポレットは思わず唸った。
自分が1年生の時は、生活魔法習得には結構苦労した。
しかしアニエスはまだ就学前なのに、生活魔法を自在に使いこなすという。
確かに才能はあるようだ。
唸るポレットを見たマノンは、小さく頷く。
「そうなると、アニエスさんがアデライド理事長に直訴して、2年生の飛び級入学ということも考えられます」
「飛び級!」
「はい! 下手をすれば3年間を2年間、もしくはそれ以上の短期間で卒業するかもしれませんね」
「お、恐るべし!」
「ええ……アニエス・ブレヴァル14歳、ブレヴァル侯爵家次女、風属性の魔法使い、えげつない策略家、性格は狡猾にして残忍……」
アニエスの性格が狡猾? 残忍?
容赦ないマノンの言い方に、ポレットは驚き目を丸くした。
「えげつない? 狡猾? 残忍?」
ポレットから聞いて、さすがに言い過ぎたと思ったのであろう。
マノンは、少し口籠る。
「ま、まあ……彼女の性格はこの前、私が見て判断したものですが……」
「…………」
「コホン! は、話を整理します。あの子が来年入学すればどうなるか……絶対に私達の学園生活へ影響が出ます。良い影響なら問題ありませんが、絶対に悪影響です。間違いありません」
「悪影響……ですか?」
「はい! 私達へと、ルウ先生へもです。まるで冥界のおぞましい瘴気のように心身を蝕みます」
「冥界のおぞましい瘴気!? 心身を蝕む? そ、それはまずいですね」
「でしょう? アニエスさんの対策をしっかり立てながら、私達の大事な計画を必ず達成しなければいけません……数多の課題、試験をクリアーして、私はオレリーさんから必ず学年主席を奪取します」
気合の入ったマノンの言葉。
いつもの事ながら、ポレットは圧倒されてしまう。
「す、凄い!」
「何を仰っているのです? ポレットさん! 貴女は今の私の成績——次席にならなければいけません。ふたりでオレリーさんに勝つのですっ」
「え?」
「成績だけでなく、学園内の地位も確保します。具体的には生徒会選挙に立候補して必ず勝ち抜く。私は生徒会会長、貴女は副会長へ就任するのです。現在のジゼル生徒会長、ナディア副会長を超える名声を得るのですよ」
「わ、私が学年次席、そして生徒会副会長になるのですか? あ、あの……ステファニーさんじゃなくてですか?」
自分が次席? 生徒会副会長?
今、聞こえた言葉は錯覚だろうか?
ポレットは思わず聞き直してしまった。
現在、学年内での成績は首席オレリー、次席マノン、次いでステファニーと続いている。
1年生の頃からずっとその3人が成績上位を独占しているのだ。
ちなみにポレットも上位者20人以内には常に入っていた。
「何を驚いているのですか? 努力をすれば何事も前進が可能です。それにポレットさんは私やステファニーさんに匹敵する才能をお持ちだと思いますわ」
「わ、私が? マ、マノンさん達と?」
ポレットはまたも聞き直した。
マノンの発した言葉が、彼女にはやはり信じられなかったのである。
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