第939話 「私は家族」
『魔法女子学園の助っ人教師』愛読者の皆様、皆様の応援のお陰で第3巻の発売が決定しました!
ありがとうございます!
発売日等詳細は未定ですが、概要が決まり次第お報せしたいと思います。
何卒宜しくお願い致します。
ブランデル邸3階の部屋……
いまだ、テオドラはこんこんと眠り続けていた。
ルウ達は気を利かせて、部屋から一旦、退出している。
ひとり残った姉のソフィアは万感の思いを込めて、妹の寝顔を見守っていた。
……姉妹の父はガルドルド魔法帝国の魔法工学師である。
人間の魂を使った、特別仕様のゴーレム製造を推進した中心人物のひとりでもあった。
天才と謳われた魔法工学師の父は、自分の身体を研究の為に使う事は勿論、肉親に対しても躊躇がなかった。
己の魂を試作機として開発した新型の自動人形へ移した後に、実の娘ふたりをも、進んで実験台にしたのだ。
こうして……
親子3人は、当時の最新型の自動人形として暮らしていたのである。
そんなある日……
繁栄と絶頂を誇っていたガルドルドに、突然『滅び』が襲った。
滅びとは……創世神により引き起こされたとてつもない天変地異である。
何の前触れもなく天には無数の雷が轟き、地は真っ赤に裂けて爛れた火の岩を噴き出し、海には大雨が降って荒れ狂い、全ての船を飲み込んだ……
無残にも……
夥しい数のガルドルド人の屍が地上一杯に折り重なる地獄絵図が展開されていた……
ソフィアは、たまたま悪魔アスモデウスに助けられた。
そして彼と共に安全な異界——魔界へと逃れたのだ。
しかし試作段階の戦闘用の自動人形の機体に魂を移された妹のテオドラと父は行方不明となった。
あの状況では生き残る事は難しいと思われた。
だが、妹は不完全な状態ではあったが……生きていたのだ。
不完全、そう……地下深く造られた都市の遺構の中で……魂を分離された状態で……
何故、テオドラの魂がふたつに分離してしまったのかは分からない。
片や自動人形の中で、もう片方はルウにアンノウンとして召喚される形でこの時代まで生き延びていたのだ……
そして数奇な運命は、悪魔ネビロスの手先となっていた片方の魂ヘレヴとルウを引き合わせてくれた。
ふたつの魂の欠片を手にした者がもしもルウでなかったならば……テオドラは復活出来なかっただろう。
分離した魂を修復し、元通りにする。
多分、ルウが使ったのは禁呪である。
現在の時代では誰もが使えない、いや知りえない。
何故ならば魂を作り替えるなど、創世神が使う御業なのだから。
底知れぬルウの力で今や魂はひとつとなり、テオドラは完全に復活した。
ソフィアは思う……不思議な運命だと。
アスモデウスがルウの従士に……そのアスモデウスがソフィアの幸せを願って闇のオークションへと出品した。
そのソフィアをアスモデウスの主となったルウが買い戻して、この屋敷へ来た。
今回ルウはアドリーヌの事情で旅立ち、偶然にもテオドラと巡り合った。
意外な事にテオドラの魂の片割れは最初からルウに召喚され、アンノウンとして寄り添っていた……
全てのピースがはまり、ソフィアは数千年ぶりに妹テオドラと再会する事が出来たのである。
と、その時。
テオドラの瞼がぴくっと動いた。
ガルドルド魔法帝国の自動人形は現在の魔法技術の遥か上を行っている。
一見して人間と見分けがつかない。
ソフィアもそうだが、人間の肉体的な質感や動きが忠実に再現されているのだ。
やがてテオドラはゆっくりと目を開ける。
ぼうっとしているらしいテオドラへ、ソフィアは静かに呼び掛ける。
「テオドラ……」
「……だ、誰? ここはどこ?」
テオドラは仰向けになったまま、言葉を発した。
ソフィアも傍らの椅子に座ったまま再び声を掛ける。
「テオドラ……私よ、ソフィアよ」
ソフィア?
懐かしい名前……テオドラに過去の記憶が甦って来る。
信じられないというように、口がぱくぱく動く。
「ソ、ソ、ソフィア? そ、そ、そ、その名前って!? ま、まさか!」
テオドラはそう言うと、がばっと半身を起こした。
「そう! 貴女の姉さんよ、テオドラ」
ふたりの目が合う。
間違いない。
テオドラにもはっきりと分かった。
間違いなく自分の双子の姉だと認識したのだ。
テオドラの心に感情が溢れて来る。
言葉にならない声が発せられる。
「ああ、あああああっ!」
ベッドに座ったまま、驚愕の声をあげる最愛の妹。
ソフィアは立ち上がり、ゆっくりと近づいて行く。
そして優しくテオドラを抱きしめていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
30分後……
ソフィアがルウへ報せに行き、テオドラの居る部屋には再びフランとモーラルが訪れた。
バルバトスとアスモデウスは既にブランデル邸を辞去していた。
早速コレット家とダロンド家の案件に対応しなければならなかったから。
目の前に立つルウを、テオドラはベッドの上で半身を起こしたまま見つめる。
「ルウ様……」
「良かったな、テオドラ」
穏やかなルウの表情を見て、テオドラは思わず感情を爆発させる。
それは喜びの感情だ。
「はい! ありがとうございますっ! わ、僅かですが覚えていますっ。あの時、ルウ様と戦った時! ふたりの私が居ました」
「そうだったな」
「はいっ! ひとりはルウ様を殺すという意思で凝り固まった、ヘレヴと呼ばれた自動人形。もうひとりは、それを必死に止めようとするアンノウン。あの時ヘレヴが破壊されていたら、この私テオドラは一生アンノウンのままで居たでしょう。もしくは消滅していたかもしれない……」
「うん! でもお前はこうして完全体になり、姉とも再会した。運命の扉を開ける事が出来たのさ」
「全て、ルウ様のお陰です! 初めて召喚された時にも感じていましたが……これからも私を従え、導いて下さい」
「従える?」
「はいっ! 私は元々ルウ様に召喚されたアンノウン……使い魔ですから」
自分が、ルウの使い魔だと言うテオドラ。
しかし、ルウはゆっくりと首を振る。
「何言ってる? お前は使い魔なんかじゃない、人間だ。そしてソフィア同様家族さ。この屋敷がお前の居場所なんだ」
「私は……人間……私は家族……ル、ルウ様……」
「ああ、お前はもうひとりじゃない。姉も含め家族がいっぱい居る。俺もそのひとりなんだよ」
「ルウ様が家族……」
「そうだ、テオドラ。俺達は家族さ」
「は、はいっ!」
テオドラはルウに応え、大きな声で返事をした。
笑顔で一杯になったテオドラの顔を、ルウだけでなく、姉ソフィア、そしてフランとモーラルも優しく見守っていたのであった。
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