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第936話 「おかえりっ!」

 8月19日のお昼前……


 ヴァレンタイン王国王都セントヘレナ貴族街区のブランデル屋敷中庭には、ルウの妻達と使用人がほぼ全員集合していた。

 唯一の不在は、相変わらず冒険者ギルドマスターとして多忙を極めるミンミのみであった。


 いよいよ……

 ルウが、アドリーヌの実家コレット家への『帰省』から戻るのだ。

 既にルウからは念話で、この度の懸案事項はほぼ解決したと報されていた。

 これから行う様々な段取りの問題はあるが、コレット家の面々ともとても仲良くなれたと聞いている。

 

 心配していた事はなくなり、全てが上手く行った。

 なので、帰りを待つ妻達の表情は明るい。

 怪我もなく全員無事に帰ると聞いたら尚更だ。


 ちなみにルウ達は旅へ出るにあたって、今回セントヘレナの正門を通っていない。

 屋敷から直接転移魔法を使っている。

 王都から出た公式記録がないのに正門から帰還手続きをすると紛らわしく、無駄な説明と作業が増える。

 それ故、直接、屋敷へ帰還するのだ。


 転移魔法の出入り口である転移門が発生する予定の場所は、中庭のある場所が告げられていた。


 その転移門の場所を取り囲むように、妻達が立っているのである。

 妻達の真ん中に、フランはラウラと並んで立っていた。


 ラウラが嬉しそうにフランへ話し掛ける。


「いよいよお帰りね、フラン」


「そうね、ラウラ」


「うふふ、旦那様がとうとう帰って来ます。私は新参の妻ですが……3日余り……こんなに短い間なのに、旦那様の顔を見ないだけで心がポッカリ穴あき状態でした」


「ラウラもそうなの? 私なんかずううっとですよ。妻になる前から、常にです。旦那様に会えない間は寂しくて仕方がありませんでしたから」


「へぇ、フランも同じなんだ。良かった! 私だけじゃないのね?」


「ええ、ラウラだけではなく多分全員がそうですよ。気持ちは全く変わらないと思います」


 フランがそう言うと、ラウラはホッと胸を撫で下ろす。


「うふふ、安心しました。それにしてもアドリーヌ……本当に良かった。揉めていた実家とも和解出来て、私達の家族になれて」


「そうですね。私は何かあったら、いつ呼ばれても大丈夫なようにスタンバイしてしていましたが、さすがは旦那様、いつも通りうまく解決しちゃったみたいです」


「本当に! でもアドリーヌが加わって私、嬉しいんですよ」


 ラウラはそう言うと声を少し落とす。


「……やっぱりジゼル達10代パワーには押されてしまいますから」


「そうね。アドリーヌは同世代で良い戦友になるでしょうから」


 一方……そのジゼル達……


「良いか、皆。旦那様に抱き付く順番は長幼の序。フラン姉、そしてラウラ姉の後に順番をちゃんと守るのだぞ」


 ジゼルが腕組みをして「びしっ」と言うと、ナディアがすかさず突っ込みを入れる。


「うふふ、じゃあフラン姉、ラウラ姉、ええっとミンミ姉が居ないからボクが三番目だね。ジゼルより誕生日が先だから」


 ルウへ抱き付く順番がナディアの後!?

 動揺したジゼルはとんでもない事を言いだす。


「え!? わ、私が先だろう? だ、だって! わ、私は生徒会長で、お、お前は副会長だ!」


「何、それ? 長幼の序とは全然意味が違うじゃないか。ジゼルったら、君が言い出したんだから、きちんと守ろうよ」


 ナディアの言う事は正論だ。

 いつも先頭に立とうとするジゼルは自分で年齢順だと言い出しておいて、すっかり忘れていたのである。

 反論出来ず、ジゼルの口から言葉が消える。


「ううう~」


 しかし、ナディアは大人の対応をしてくれた。


「なんちゃって、嘘。良いよ、君が先でさ」


「本当か? 絶対だなっ!」


 身を乗り出して確認しようとするジゼル。

 子供に戻った『姉』は『妹』達から見れば可愛いものである。


 ナディアは悪戯っぽく片目を瞑る。


「ねぇ、良いよね、オレリー達も」


「「「OKでっす!」」」


 オレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャが了承し、少し遅れて……


「アリスもOKでっす」


 アリスの答えを聞いたナディアは「しまった!」という表情になる。


「うわ、アリス姉を忘れてた!」


「うふふ、全然良いんでっす。アリスは一番最後にゆ~っくり。旦那様に思う存分ハグして貰いますからぁ」


「ああ、そういう作戦ですか」


 リーリャが納得したようにポンと手を叩いた。

 オレリーとジョゼフィーヌも笑顔で頷く。


「成る程! そういう手もありますね」

「納得ですわ」


 と、その時。


「みんなぁ! そろそろ旦那様達が戻られますよっ」


 フランが大声をあげて妻達へ伝える。

 たった今、ルウから帰還を伝える念話があったのだ。

 当然、外へ筒抜けの大声をあげたのは索敵で周囲に誰も居ない事を確認しているからである。

 ケルベロスも異常を感じていないようで、妻達が騒いでいるのに傍らで寝そべり、目を閉じていた。


 そしてルウの帰還を待っているのは妻だけではない。

 庭には使用人達を代表して、赤帽子のアルフレッドのみが待っていた。

 屋敷の中ではソフィア、ウッラ、パウラ、そしてエレナが忙しそうに立ち働いているのは言うまでもなかった。


 やがて……中庭の一画が眩く光り始める。

 転移魔法の入り口が開く兆しなのである。

 高貴なる地界王アマイモンの力でルウ達は運ばれ、屋敷へ戻るのだ。


 光の中に4人の人型が浮かび上がる。

 ルウ、モーラル、アドリーヌ、そしてバルバトスである。

 光が収まり、ルウが片手を挙げた瞬間、フランがダッシュして飛びついた。

 ラウラに断って順番を譲って貰い、思い切りルウの胸へ飛び込んだのである。


 様子を見ていたジゼルが苦笑する。


「ふふふ、フラン姉ったら、まるで子供だな」


 しかし、すかさずナディアがチェック。


「ジゼルだって、旦那様の前でまるっきり子供じゃないか。ああ~ん、旦那様ぁって言うよね?」


 聞き捨てならないとばかりに、ジゼルも当然反論する。


「にゃ! にゃにおう! ナ、ナディア! お前だって、そうだろう?」


 拳を振り上げるジゼルを止めに入ったのはまたしてもリーリャである。


「ふふふ、全員……ですよ」


「そうですね」

「そうですわ」


 すかさずオレリーとジョゼフィーヌが追随した。


 こうして……

 妻達はフランが甘える様を見守りながら、大人しく自分の順番が来るのを待っていたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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