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第935話 「閑話 鬼女子の誘い」

 ヴァレンタイン魔法女子学園2年C組の生徒、エステル・ルジュヌとルイーズ・ベルチェは夏季休暇に入る少し前から同学園学生寮で新生活を始めた。


 エステルは子爵令嬢、ルイーズは商家の跡取り娘と身分は全く違っていたが、ふたりは最近いつも一緒に行動していた。

 理由は簡単、ふたりの将来の夢が一緒だったからである。

 ふたりの共通の夢……それは上級召喚術師となり、ヴァレンタイン王国の工務省へ入る事。


 密かに持っていた淡い夢が、もしかしたら現実になるかもしれないと意識したきっかけは……

 召喚魔法の授業において行われた訓練で、正体不明の使い魔——アンノウンの召喚に成功した事である。

 呼び出したアンノウンの適性次第では、ゴーレム、巨人ギガンテースを寄り代に使用する事が出来るのだ。


 巨人ギガンテースというのは、古代魔法王国時代の遺物であり、とてつもない膂力を誇る大型ゴーレムである。

 主に建設や土木の作業に用いて、王国へ多大な貢献を果たしていた。

 しかし、巨人ギガンテースを動かす事が可能なアンノウンは稀少であり、アンノウンを召喚出来る召喚術師も重宝されていたのである。


 そもそも、ふたりには各々事情があった。


 貴族令嬢のエステルは災害などに苦しむルジュヌ家管理地内の民を救おうという、崇高な志を持って召喚術師を目指した。

 一方、商家の娘ルイーズはいずれ入り婿を取るという、親によって決められた人生から脱却したいが為に召喚術師を目指したのだ。


 どんな事でも、同じ目的を持つ仲間が傍に居るのは心強い。

 丁度、エステルは付き合っていた貴族男性と別れた……

 ルイーズも無二の親友アンナが婚約して、彼女と共に行動する事がめっきり減った。


 こうして……

 2年C組同級のエステルとルイーズのふたりが仲良くなるのに、そう時間はかからなかったのだ。


 但し、上級召喚術師になるには並大抵の努力では済まない。

 まずは勉強に集中したい。

 ふたりは相談し、考えた。

 その結果、詳しい理由は告げず「勉強に集中したい」という名目で、親を説得し学生寮へ入寮したのである。


 親がOKしてくれた原因として大きかったのは、担任教師であるルウとフランからの推薦である。


 ふたりの事情を聞いたルウとフランは、教師としてエステルとルイーズの両親を説得してくれたのである。

 加えて入寮の際にもいろいろ優遇して貰った。


 通常学生寮では1年生、2年生が同部屋、3年生になってから個室が与えられる。

 魔法女子学園の伝統のひとつとして先輩の面倒見の良い学校というのがある。

 その伝統が学生寮において顕著に表れていた。

 2年生は同部屋になった後輩の面倒をしっかり見なくてはならないのだ。


 エステルとルイーズは2年生同士なのに、特例として同部屋にして貰った。

 理由は、将来へ繋がる勉強に邁進する為……


 こうして……

 ふたりの新生活は始まったのである。


 始まった寮生活は、想像していたのと同じ部分、そして現実には違う部分の両方があった。

 想像していた通りなのは親に干渉されず自由に振る舞う権利が得られた事、そして勉強に集中出来る最高の環境である。


 何せ、学園の施設が同じ敷地にあるのだ。


 これまでと違って帰宅時間を気にせず、図書室で膨大な資料を使って勉強出来る楽しみ。

 寮内の先輩で同じく召喚術師を目指す者との交流。

 将来への夢はますます大きくなり、やる気は否が応でも高まった。


 想像と違う部分とは集団生活における様々な縛りである。

 厳しい尞則に則った予定通りに行う規則正しい生活。

 自分の事は基本的には自分でやるという生活。

 これまで広い屋敷で使用人が雑用を担い、勝手気ままに生きて来たふたりには辛い事もあったのだ。


 だが不慣れな環境もそんなに時間がかからず、エステルとルイーズはすぐに克服し、寮生活を楽しめるようになった。

 幸い人見知りしない性格であったので、新参者でも周囲と自然に馴染む事が出来たのである。


 しかし!

 ふたりには唯一苦手な人物が居た。


 夏季休暇のある日……


 どんどんどんっ!


「う?」


「あうっ!」


 部屋で勉強していたふたりは独特なノックの音にびくっと反応した。

 ノックの主が誰だか分かっているからだ。


 案の定、凛とした声が響く。


「おいっ! ふたりとも部屋に居るのだろう?」


「は、はいっ!」


「す、す、すぐ開けますっ」


 扉付近に居たエステルがパッと駆け寄り、急いで開けた。

 「ぬおっ」と立って居たのは……学生寮長に任命されている、『鬼女子』シモーヌ・カンテであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 30分後……午後3時前


 シモーヌを先頭にして、エステル、ルイーズの3人が王都の街中を歩いていた。

 楽しそうに意気揚々と歩くシモーヌに対して、エステルとルイーズの表情は不安に満ちていた。


 何と……あれから驚くべき事があったのだ。

 それはシモーヌからの『お誘い』である。


「今日は、お前達にご馳走をしたいと思ってな。昼食も終わって丁度良い時間だし、甘い焼き菓子でもご馳走してやろう」


 ふたりは呆然としてしまう。

 鬼女子と甘い焼き菓子?

 イメージが真逆だったのである。


「あ、甘いお菓子?」と、エステル。


「おに……いや、シモーヌ先輩が?」と、ルイーズ。


「ん? 今、何か変な言葉が聞こえたような気がするが……」


 つい口を滑らせたルイーズがぶんぶんと首を横に振る。


「い、いえいえっ! そんな事はありませんっ!」


 親友のフォローをしようと、エステルがパッと手を挙げる。


「はいっ! シモーヌ先輩! そ、それで宜しければ行き先は? 教えて頂けますか?」


「うむ、今や女子の憧れ、金糸雀キャネーリ付属のカフェさ。既に予約してある」


 信じられない言葉がシモーヌの口から出た。

 巷で噂される王都最強の菓子店が金糸雀キャネーリであったからだ。

 噂が噂を呼んで今や王都で知らない人間はなく、超が付く人気店となっていたのである。


 エステルとルイーズは目を丸くしてしまう。


「キャ、金糸雀キャネーリ!?」

「あ、あの超有名な?」


「ああ、そうだが」


 あっさりと肯定するシモーヌへ、エステル達はまるで信じられないモノでも見るような眼差しを向ける。


「え? シモーヌ先輩が?」

金糸雀キャネーリに私達を!?」


 シモーヌは、さすがに後輩の『反応』を認識したのだろう。

 美しい眉が不快そうにしかめられる。


「何だ、何だ、さっきからその反応は? 私だって甘いものが大好きなスイーツ女子なのだぞ」


「…………」

「…………」


「ふん! そうか? もし嫌だったら来なくてもよいっ。折角新製品が入ったという情報が入ったからお前達を連れて行こうと思ったのに……」


 新製品が入ったから、わざわざ自分達を?

 エステルとルイーズは、漸く自分達の失礼さに気が付いた。


「あ、す、済みませんっ」


「申し訳ありませんっ、連れて行って頂けますかっ!」


 ひたすら謝ると、シモーヌはあっさり機嫌を直した。

 ……こうしてエステルとルイーズは、上機嫌なシモーヌに先導されているのだ。


「シモーヌ先輩、ひとつお聞きして良いですか?」


「ん? 何だ?」


「何故私達を誘ってくれたのですか? 寮には魔法武道部の後輩達も居たのに……」


 エステル達の疑問は尤もであった。

 魔法武道部副部長として、ミシェルやオルガなど同部の後輩達の方が付き合いは長いし深い。

 絆はがっつりの筈なのに……どうして自分達が? という疑問が湧いたのだ。


 しかし、シモーヌは笑顔で返す。


「ははは、簡単さ。私も行った事があるから知っているが、残念ながら金糸雀キャネーリのカフェは小さい。魔法武道部の者全員は到底入りきれない。だから先日、私とジゼルで大量に焼き菓子を買って差し入れした。屋外闘技場で練習後、部員全員で食べたんだ」


「そうだったんですか?」

「お店のキャパの問題なんですね?」


「うむ、魔法武道部の後輩達にはちゃんとケアしてある。だから……お前達は余計な心配をするな」


「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 理由は……単純明快だった。

 だけど、本当の理由は……


「それに、お前達の事はルウ先生から頼まれている。私は学生寮長として責任を持ち、お前達の面倒を見るからな。安心して勉強し、しっかり将来の夢を実現させろ」


「え? 本当ですか?」

「ルウ先生から頼まれたのですか? 私達の事を?」


「ああ、フランシスカ先生からもな……だから頑張れよ」


「はいっ!」

「はいっ!」


「ははははは、さあ、行くぞっ、金糸雀キャネーリへっ! 出撃だ!」


「はいっ!」

「はいっ!」


 夏らしい快晴の王都の街中……

 3人の少女の、元気な声が真っ蒼な大空へ響いていたのであった。

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