第934話 「秘密の計画」
時間は少し遡る。
8月16日、ルウがアドリーヌと共に王都を出発したブランデル家での事……
このブランデル家で、『仲良し2年C組トリオ』と呼ばれているのは、オレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャの3人である。
性格、身分、暮らして来た環境……すべてにおいて全く違う、接点の無かった3人。
それが、今や固い絆に結ばれた親友同士となったのだから運命とは分からない。
8月も半ばを過ぎ、残り少なくなった夏季休暇を最大限有効に使おうと……
今回はリーリャの発案で、ある計画が実行に移されようとしていた。
秘密の実行場所は、ジョゼフィーヌの実家ギャロワ家であった。
オレリーがそっと、ジョゼフィーヌとリーリャへ尋ねる。
声が低く抑えられていた。
「ねぇ、ふたりとも支度出来た?」
「当然、ばっちりですわ」
「いつでも大丈夫ですよぉ」
ジョゼフィーヌとリーリャ、ふたりの返す声も小さい。
朝食が終わって、大広間は人の気配がない。
アルフレッド達使用人は厨房へ、後片付けで入っている。
オレリーは行き違いのないよう既に手は打っていた。
フランには、昨夜外出先を伝えてある。
だから、所在不明と思われて心配される恐れもない。
出発するタイミングとしては、絶妙である。
屋敷の正門のすぐ外には、ギャロワ家の馬車が迎えに来ていた。
さくっと乗って出かけてしまえば計画は完璧だ。
しかし!
3人が忍び足でこっそり大広間を抜けようとした時に、聞き覚えのある凛とした声が響き渡る。
「待て! そこの3人」
「え?」
「ああ」
「あうっ!」
雷に打たれたように硬直し、固まる3人。
「甘いっ! 私達の目を欺くなど出来ると思っているのか?」
いつの間にか出口で腕組みをして仁王立ちしていたのは……冷たい目をしたジゼルであった。
最近のジゼルは表情も柔和であった。
このような厳しい顔は久し振りだ。
険しい眼差しを受けたオレリー達は必至に弁明する。
「え? ジゼル姉、欺くなんてとんでもありません」と、オレリー。
「そんなつもりは毛頭ありませんわ」と、ジョゼフィーヌ。
「ですよぉ、私達ちょっと出かけるだけですからぁ」と、リーリャ。
と、その時。
オレリー達へ疑問を投げかける声が、
「へぇ、出かけるだけ? ボク達を出し抜こうとしてない?」
「え?」
「ナディア姉?」
「だ、出し抜くなんて……人聞きが悪いですよぉ」
ジゼルの傍らへ、すっと立ったのはジョゼフィーヌが呼んだ通りナディアであった。
「ふうん、外に停めてある馬車で分かるけど、行き先はギャロワ家だよね? あちらで待っている人は誰かなぁ?」
悪戯っぽく笑うナディアに、ジョゼフィーヌは必至に『抵抗』する。
「と、と、当然! お、お父様ですわ!」
「ふうん、ギャロワ伯爵ねぇ……確かに一見したら、ジョゼを含めた普通の里帰りだけど……本当は違うね」
「ち、違う?」
大きく目を見開くジョゼフィーヌへ、これまた聞き慣れた声が掛かる。
「うん、そこから先は私が言うわ」
「ぎょっ」としたオレリー達3人が振り返ると……そこには……
「フラン姉、ラウラ姉もっ」
反対側の扉が開いており、フランとラウラも立っていたのである。
腕組みをしながらも、フランはにこにこしていた。
ラウラも同様である。
「うふふ、ラウラったら、代わりに言いたそうね」
「ありがとう、フラン。じゃあ私が言うわ」
「あわわ」
「ううう」
「あうう~」
いよいよ……
他の妻達に追い詰められたオレリー達はすっかり動揺していた。
「うふ! では言いましょう。里帰りに見せかけたギャロワ家での貴女達の目的は……スキルアップ、教えてくれる先生はズバリ……ブランカ様でしょ?」
「え?」
「う!」
「あ、あう?」
「ブランカ様に色々教授して貰う。第一優先はロドニア料理、そして言葉遣いと立ち居振る舞い、加えて一般常識、そして宮廷マナー等々、里帰りをすればギャロワ伯爵様共々、親孝行が出来るし……とても素晴らしい計画ですね」
ラウラが言った事はぴたりと当たっていた。
リーリャの計画は自分達が未知の、もしくは満足していない部分のスキルアップだった。
こうなると、オレリー達は覚悟を決めるしかない。
「うう、皆さん、さすがです」
「私の実家へ帰るだけと伝えたのに、フラン姉には見抜かれていましたか」
「あう~、全部お見通しなのですね」
ジゼル、ナディア、フラン、ラウラはゆっくり近付いて来た。
全員不気味な笑みを浮かべて……
理由は明白だ。
以前、このような機会があったら声を掛け合おうと話し合いをしたからである。
「甘いわぁ、オレリー」と、ジゼル
「そうだよ、ジョゼ」と、ナディア。
「リーリャもそうです」と、フラン
「私達の目を盗めるとでも?」と、ラウラ。
これはとてもマズイ状況だ。
「約束を破った」と責められても言い訳が出来ないからである。
たまらずオレリーが手を挙げる。
「せ、説明をさせて下さいっ」
フランがにっこり笑ってOKを出す。
「良いでしょう、オレリー、言ってみて」
「まず皆さん、お忙しそうでしたから……」
オレリーに言われて、全員が頷く。
最近の様子や状況を見て、オレリー達が気を遣ったと理解したのだ。
ジゼル、ナディア、ラウラは魔法大学への受験と入学の準備。
そしてフランは、アドリーヌと旅立ったルウから、万が一緊急呼び出しがあった際の対応。
それで敢えて声を掛けなかった……
しかしフランは、別にも理由がある事を見抜いている。
「オレリー、もうひとつの理由も言って」
オレリーも、もうじたばたしない。
全てを告げようと決めていた。
「ええ、もっと重大な理由がありますっ……実は私達、マノンさん達に勝ちたいのですっ」
オレリーが叫ぶと、ジョゼフィーヌとリーリャが続く。
「そうですわ! マノンさん達には何があっても、絶対勝つと決めたのです!」
「最近、あの人達、全てにおいて私達をライバル視して、張り合ってくるものですから」
マノン、ポレット、そしてステファニーはオレリー達に追いつき追い越そうと必死らしい。
既にルウの妻であるオレリー達へ、激しいライバル心を燃やしているのだ。
それで少しでもアドバンテージを取る……理由は分かった。
フランは表情を和らげる。
「成る程……」
「分かって頂けます? フラン姉」
「よっく分かりました、オレリー、計画実行を許可しましょう」
「よ、良かったぁ」
「ああ、これで安心」
「リーリャも頑張れます」
安堵するオレリー達だが……話はまだ終わっていないようである。
フランが「びしっ」と言い放つ。
「オレリー、ジョゼ、リーリャ、計画の実行を許可するにあたって、ひとつ条件があります」
「な、何でしょう?」
「条件? 厳しいのは嫌ですわ」
「うう、難しくなければ良いのですけど……」
唸る3人のうち、フランはジョゼフィーヌを見据えて言う。
「ジョゼ、急ぎギャロワ伯爵とブランカさんへ、これから予定変更になった、大勢で伺うと伝えて訪問許可を取って下さい」
「大勢で伺う許可?」
きょとんとするジョゼフィーヌへ、フランは重ねて言う。
「ええ、咎めた理由はもう明白でしょ?」
「う! は、はい……」
「分かる筈よ、オレリー、ジョゼ、リーリャ。貴女達だけではなく、妻全員がスキルアップに挑戦したい気持ちを持っているのはね。旦那様の為に、家族の為に」
「…………」
「…………」
「…………」
「今回はブランカさんから教授して貰う絶好の機会じゃない、ここに居る全員の参加が条件です」
「え? 全員?」
吃驚するジョゼフィーヌの傍らで、オレリーとリーリャは仕方ないという感じで頷き合っていた。
そして!
「は~い、当然私も行きまっす! ブランデル家の馬車の用意は出来ていますよぉ」
厨房で作業していた筈が……
いつの間にか大広間に居て、大きく手を振り挙げたのはやる気満々な表情のアリスであったのだ。
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