第933話 「残された依頼②」
以前、クランとしてバートランドで依頼を受けた時。
フランと交わした会話が、またもやルウとアドリーヌの間で繰り返された。
『でも、どうやって採取するのですか? まさか犬を?』
アドリーヌが尋ねたら、ルウは苦笑して手を横に振る。
『いやいや、犬なんて絶対使わないさ』
『犬は使わないのですか? では……使い魔を?』
実は魔法使いが使役する犬、猫、鳥などの『使い魔』でマンドラゴラを採取する方法もある。
召喚した使い魔の種類や能力にもよるが、採取自体は単純作業だから全然可能なのだ。
但し、命じられた使い魔は『叫び声』で相当なダメージを受ける。
使い魔は、人外故に……マンドラゴラの声で、人間や動物のように簡単には死なない。
しかし『酷い作業をさせた術者』との信頼関係は失われ、大半の使い魔は離れてしまうのだ。
そんな非常識な事を、普通の術者は行わない。
だが……
最近は生活に困窮した魔法使いが、使い魔との絆を犠牲にしてもこの仕事を請けるらしい。
但し、こちらも相応の費用が掛かるので、マンドラゴラの値段は結局安くはならないが。
アドリーヌの問い掛けに対して、ルウはまたも首を振る。
『いや、使い魔も使わない。全く違う方法をいくつか行う、ヴィヴィにも協力して貰うしな』
『ええっ? ヴィヴィ様って、あの?』
『そう! 地界王の娘さ』
アドリーヌは屋敷でフランから聞いていた。
ルウに高貴なる地界王アマイモンの娘ヴィヴィが付き従っていると。
だけど伝説の上級精霊の娘に……
ちょっと手伝いをして貰う……
そんな雰囲気で「しれっ」と言うルウ。
アドリーヌの常識が、またもや音を立てて崩れて行く。
『…………』
『論より証拠、さあ行こう!』
ジト目で睨むアドリーヌをスルーして、ルウはピンと指を鳴らす。
例によって無詠唱で、転移魔法が発動された。
その瞬間、一行はケルピーごと消え失せたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは、先程ルウ達が居た森林道から数キロ離れた場所……コレット家管理地内の森の中。
森がいきなり開けた、小さな草原のようになっている場所があった。
モーラルとバルバトスが管理地を調査中に見つけた、コレット家管理地内のマンドラゴラ群生地である。
騎乗していたケルピー達は近くの木に繋がれ、ルウ達は輪になって採取物を見つめていた。
地面には既に採取された、いくつかのマンドラゴラが並べられている。
一行の中には、久々に呼び出された笑顔のヴィヴィも含まれていた。
依頼が無事終了したのでルウを始め、にこにこしていたが………
唯一アドリーヌだけは、相変わらずジト目であった。
そして、
「旦那様……」
不満そうなアドリーヌに、ルウはいつものように穏やかな笑顔を向ける。
「おお、どうした?」
「どうしたじゃあありません、私、言ったじゃないですか……旦那様から教えて頂いて一杯魔法の勉強をしたいんです」
確かにアドリーヌはルウにせがんだ。
遥か彼方かもしれないが、一生懸命頑張って高みに行きたいと。
だからルウはヴィヴィを召喚し、マンドラゴラが採取出来る理由もつけて実践してみせたのだ。
「おお、勉強にならないか?」
ルウのにこやかな笑顔に対して、アドリーヌは不満一杯。
両頬が巣籠り前の栗鼠のように膨らんでいる。
「全然勉強になど、なりません!」
地界王は植物全てを支配する上級精霊である。
今回の採取方法とは……
ルウは娘であるヴィヴィに頼んで、地の精霊の魔力でマンドラゴラの『死の叫び』を封じたのである。
なので、実際にルウがやったのは、無造作にマンドラゴラを引き抜いただけだ。
それでは意味が無い。
アドリーヌはいろいろと魔法を学びたいのだ。
自分にはほんの少しでも実施可能な手本を見せて貰いたかったのに、これでは何にもならない。
「ではアドリーヌ姉、次は私が手本を……」
場の空気を察したモーラルが自分のやり方で採取を申し出た。
しかし!
残念ながら、モーラルの魔法も全然『手本』にはならなかった。
水属性の魔法使いであるモーラルは引き抜く前に、マンドラゴラを凍結させてしまったから。
ちなみにアドリーヌは、ナディアやジョゼフィーヌと同じ風の魔法使いだ。
「ならば、今度は私が……」
おもむろに、悪魔バルバトスが使ったのは転移魔法である。
マンドラゴラを引き抜いた瞬間に、叫び声が届かない遥かな異界へと送り込んでしまった。
だが……転移魔法が使えないアドリーヌには、論外な方法としか言えない。
ジト目継続中のアドリーヌ。
むくれた妻へ、苦笑したルウが妥協案を出す。
「ははっ、仕方がない、時間が無いから今後の宿題にしよう。今度、空気界王と相談するから」
「はいっ!」
『お願い』を聞き入れて貰えたアドリーヌが一転、満面の笑みを見せた。
アドリーヌ本人には分かっている。
ルウ達が普段からレベルの違い過ぎる魔法を使っていて、自分の力では一朝一夕にはいかない事を。
そう!
アドリーヌは無理を言ってわざと甘えているのだ。
新たに家族となったルウ達に。
そして当然だが、ルウ達もアドリーヌが甘えているのを分かっている。
ヴァレンタイン王国遥か南方の地……
その深い森の中に、家族同士の温かい波動が満ちていたのであった。
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