第931話 「姉からの秘密命令②」
表記変更
書籍版に合わせて今話から変更致します。
旧:ルイ・サロモン
新:ルイ・サレオン
申し訳ありませんが、何卒宜しくお願い致します。
ケルトゥリは、心の中で繰り返す。
ルウの本当の秘密?
何、それ?
そんなものがあるの?
初めて聞いたわ……
更に……
ケルトゥリは、昔の記憶を呼び覚ます。
……ルウは約10年前……推定10歳くらいの少年時にアールヴの里へ来た。
初めて会った時の印象は……あどけない普通の子供だった。
本人曰く、以前の記憶がないと言っていた。
そんな子供のルウが、実はとんでもない才能の持ち主だった。
彼が見せた魔法のレベルは、間違いなく傑出していたから。
その事実は、認めざるをえない。
アールヴではなく全くの他種族なのに……当時のソウェル、シュルヴェステルから後継者に指名されるくらい素晴らしいものだ。
だけど……何故そこまでリューディアが拘るのかが分からない。
魔法使いとしては優れているが、所詮、出自がはっきりしない人間族の孤児ではないか。
それが……「本当の秘密がある」と聞いて、ケルトゥリは吃驚してしまった。
「シュルヴェステル様の箝口令があった為……お前には詳しく言っていなかったな……ルウ様との出会いを」
リューディアはルウとの出会いを簡単に説明した。
古の魔法使いルイ・サレオンの遺言ともいえるシュルヴェステルが語った話。
出会った不思議な少年ルウが魔獣ケルベロスを連れていた事。
あの強気なシュルヴェステルが、ルウを連れて行くのを一瞬でも躊躇った事……
※第351、352話参照。
ケルトゥリは姉の話を驚愕しながら、聞いていた。
初めて知ったのだ。
あのルウがそんなに謎めいた存在だったとは……
そこから起こった事実はケルトゥリも知っている。
ルウは全属性魔法使用者として目覚めると、師シュルヴェステルさえも凌駕する才能を発揮しだした。
ルウの才能に惚れ込み、朴訥な性格を実の子のように気に入ったシュルヴェステル。
だがルウの正体に関して、無関心だった筈はない。
シュルヴェステルは今迄自分が得た経験や知識、アールヴだけではなく様々な種族の文献等々、調べに調べ、考えに考え抜いた。
そしてとうとう……ある結論に行きついたのだ。
「シュルヴェステル様は随分悩まれたと思う。自分だけの胸にしまっておいて良いかを……だが遂に決断し私に告げた……その為に、自らの寿命を縮めたのだ」
「え?」
「……と言ったらお前はどう思う?」
次々に明かされる衝撃の事実……
そして、ケルトゥリにはピンと来た。
「え? えええっ? と、という事は!?」
「うむ……私はな……シュルヴェステル様から告げられて……ルウ様の秘密を知っているのだ」
ルウの秘密!?
ぜひ、それを……知りたい。
教えて欲しい!
ケルトゥリは自然にそう思う。
「な、ならば、わ、私にも!」
しかし妹の嘆願を、姉は即座に却下する。
「いや! ここまで言っておいて悪いが、お前に教える事は出来ぬ」
「な、何故!?」
身を乗り出して迫るケルトゥリ。
しかしリューディアはゆっくりと首を振った。
「私にはやる事が山積みだ、まだまだ死ねん」
「…………」
「お前に教えたら……私もシュルヴェステル様と同じ事になるだろうから」
「あ!?」
さすがに、リューディアの言う意味が分かる。
もしルウの秘密を洩らせば、シュルヴェステル同様、今度はリューディアが死ぬ事になるからだ。
「あ、あああ……」
「分かったか! ルウ様の秘密とは公に出来ない禁忌に属するモノ……但し、それはルウ様本人のせいではない。創世神様が定めた理なのだ」
「こ、理……」
「ケリー、これだけは言っておこう……今から心構えしておくが良い」
「…………」
「アールヴに伝わる大破滅の話は知っているな?」
「え? だ、大破滅?」
「お前も知っているだろう? 大破滅とは……かつて天界をふたつに分けた争いに匹敵する……今迄に何度か起こった大破壊などを遥かに凌ぐ災厄と言って良い」
「…………」
「下手をすれば、この世界全てが滅ぶ……そして、厄介な事にいつ起こるのか誰にも分からない……多分今すぐという事はないだろうがな」
「そ、そんな!」
「だがルウ様を、ソウェルに迎えて備えれば……少なくとも我がアールヴ族だけは生き残る事は出来る……シュルヴェステル様と私はそう話した」
「そ、それって?」
ルウを守護者として、アールヴ族だけを守って貰う。
ケルトゥリには分かる。
現在一族を束ねるリューディアの立場を考えれば、確かにそうだろう。
「シュルヴェステル様は未来を見通しておられた。ルウ様はシュルヴェステル様からの命令といえども、ソウェルの地位継承を固辞される。そして旅立つだろうとな……」
「…………」
「そして……結果はお前も知っている通りとなった」
「…………」
「現在、この世界は何とか平和に保たれている。何故か? ルウ様が高位悪魔共を従え彼等の野望、欲望を人の革新の為……いや世界を均衡に保つ為に向けているからだ」
ケルトゥリは悪魔ヴィネの事を思い出した。
ナディアを乗っ取り、そして自分やアデライドもその配下に置かれていたら……
今頃ヴァレンタイン王国は死の国になっていたに違いない。
「私の使命ははっきりしていた」
「使命? リューの使命?」
「そうだ! 使命とはシュルヴェステル様の遺志でもある」
「…………」
「私はルウ様の片腕となり、すなわち人間だからソウェル継承不可などという愚かな長老共を排除し、アールヴ内での地位を固める。そしてルウ様がアールヴから決して離れないようゆるぎない絆を作りあげるのだ」
「絆? で、では! それでミンミも!」
「密かに命令は下していた。あの娘は元々ルウ様に惚れ込んでいた。渡りに船とばかりに快諾したよ……」
「…………」
「お前には分かる筈だ。あの方は家族をとても大切にされる……ミンミは思いを遂げ、現在はあの方の妻となり絆を結んでいる。……ちなみにアマンダやケイトにも同じ事を命じてある」
「…………」
「アールヴとの絆が固くなればなるほど、あの方は私達をしっかり守ってくださる」
「…………」
「ルウ様の妻となれば、いずれ子も生まれよう。そうなれば……あの方とアールヴの絆はもう絶対に切り離せまい」
ケルトゥリは一瞬、引っかかる。
アールヴ族は他種族を受け入れない。
公的な結婚も認めない。
ソウェル代行である姉が、人間と子を成す事を推奨するなど以ての外なのだ。
それなのに!
「でもリュー、アールヴと人間の子は忌み嫌われるのでは?」
「そんな些細な事など構わない! お前の言う通りアールヴは基本的には純血主義であるが……大破滅で全てのアールヴ族が滅びる事に比べれば、人間の血がほんの少し混ざるくらいどうという事はないのだ」
「…………」
「ケルトゥリよ、お前はミンミ同様、ルウ様を慕っている」
リューディアは、ずばり直球を投げ込んだ。
血がつながった妹だからこそ……はっきりと見抜いていた。
「…………」
「では! ……ソウェル代行として、改めて命じよう」
「…………」
「あの方に精一杯尽くせ! そして妻になれ」
「…………」
姉の言葉が何故か遥か遠くで聞こえていた。
果たさねばいけない使命と、純粋な感情が交錯する。
「寧ろお前には好都合ではないか……素直になれ」
「…………」
「心配するな、お前だけではない。私もいずれ……妻になるつもりだ」
「え? そ、それは?」
「誤解するなよ、ケリー……私がルウ様と結ばれたいのは決して一族の利害だけではない!」
「…………」
「あの方が幼き日々より一緒に過ごして……シュルヴェステル様同様、素晴らしい才能と大らかな人柄に惚れ込み、且つ女としても……愛しているからな……そしてあの方の妻になるという事は……かつて神の眷属であったアールヴとしての誇りでもあるのだよ」
「神の眷属であった……アールヴとしての……誇り」
ケルトゥリは、力なく姉の言葉を繰り返した。
リューディアは呆然とする妹を、厳しい目で見つめていたのであった。
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