表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
928/1391

第928話 「アドリーヌの帰郷《63》」

今回は特別SSではなく、本編をお送りします。


 ダロンド家にて行われた打合せが無事終わり、一同は遅い昼食を摂った。

 両家を苦しめていた懸案事項の数々が解決に向かっている事もあり、今迄にない良い雰囲気で話が弾んだ。

 

 一同の中で最も盛り上がっていたのは、当然デュドネとユーグの当主コンビである。

 紆余曲折あったが、双方とも吉事になりそうだからである。

 アドリーヌの件如きで揺らぐ友情ではなかったが、今回の件では一層仲が深まった。

 岩どころか、鋼鉄の固さとも言える絆を結べたから。

 

 不思議な事にマクシミリアンは、あれだけ嫌っていた仇敵フェルナンとも打ち解けて話す事が出来た。

 もはや何のわだかまりもないし、王都で再出発を目指す『弟』の応援をしたいと考えている。


 アドリーヌも、すっかり上機嫌になった姉のペラジーと完全に和解していた。

 実はペラジーには、今迄一抹の不安があった。

 あまりにも義父ユーグが末っ子のフェルナンを可愛がるので、自分の夫である長兄が冷遇されるのではという心配だ。

 

 しかしそれも杞憂に終わった。

 

 フェルナンは恋人タチアナと結婚する為に、王都在住のカントルーヴ子爵家へ婿入りを希望。

 これでダロンド家の跡継ぎは、完全に長兄となったからだ。

 懸案だった財政問題も不安がなくなり、次期当主の妻としては満足この上ない。


 全てを解決してくれたのが妹アドリーヌであり、彼女の夫のルウであったから。

 我儘な妹、勝手な妹という思いは完全に消え去ったのである。


 昼食後、早速契約書が交わされた。

 

 内容が確認され、金貨1万枚にあたる王金貨100枚が渡されるとユーグの表情はほころぶ。

 これで当座の金は確保したと実感した。

 ルウの対応は素早かった。

 ダロンド家の倉庫に山積みとなっていた遺跡からの出土品に対して仮鑑定を行うと提案したのである。

 コレット家の仮鑑定も至急行うと。


 結局ルウとアドリーヌは急ぎコレット家へ戻り、残ったモーラルとバルバトスが鑑定作業を行う。

 

 モーラル達の作業は手際が良い。

 

 ユーグ達が見守る中、約2時間……たったそれだけの時間で……

 大量にあった出土品を価値によるいくつかに仕分けしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕方……


 デュドネとマクシミリアンが帰宅した。

 護衛役の従士達、そして仮鑑定を終えたモーラル、バルバトスも一緒である。


 先に戻っていたルウとアドリーヌが出迎える。

 驚いた事に、ダロンド家同様にコレット家の出土品も仕分けが終わっていた。


 マクシミリアンはルウとアドリーヌの才能に驚くと同時に、結果がとても気になった。

 背負った借金がある。

 無利子無期限とはいえ、マクシミリアンはルウに甘える気はさらさら無い。

 貴族としての意地があるから、借金はきちんと返済するつもりだ。

 その為には出土品の価値が大きく左右する。


「ど、どうだった?」


 少し噛んで聞くマクシミリアン。

 ルウは変わらない笑顔で返す。


「ええ、結構良いものがありました」


「今回ルウとアドリーヌがしてくれたのは仮鑑定だな? ……時間を掛けて詳しく鑑定しないと価値は明確にならないだろうが……その……」


「ああ、兄さん、大丈夫ですよ。今ある出土品で返済の目途はついたと思います」


「そ、そうか! 実はダロンド家もそういう結果だったから」


 マクシミリアンは、一挙に気持ちが軽くなった。

 傍らに居て『朗報』を聞いたデュドネも笑顔を見せる。


「ははは、そうか! ご苦労だったな、早速夕飯にしよう」


 こうして数時間後……

 コレット家では明るい雰囲気の中で夕食を兼ねた宴が行われた。

 当然ながら、ダロンド家の時以上に話が弾んだ。


 そして……


「なな、何!?」

「ええっ?」


 事前に聞いていたマクシミリアンは笑顔だったが……

 ルウの家族構成を聞いたデュドネとオドレイのコレット夫妻は驚いた。

 アドリーヌの他に妻が大勢居る事、それも殆どが名だたる貴族の娘だったからだ。


「ロ、ロドニアの王女までもか!」


「はい、良い子です。俺にとっても尽くしてくれますよ」


「…………」


 デュドネは絶句した後、アドリーヌを見た。

 満面の笑みを浮かべている。

 不可解になり、つい聞いてしまう。


「ア、アドリーヌ! お、お前、大丈夫なのか?」


「大丈夫って?」


「う、うまくやっていけるのか? そんな凄い人達と一緒で?」


「そうよ、アドリーヌ!」


 両親の心配は嬉しかったが、アドリーヌには自信がある。

 故郷へ帰る前に分かっていた。


「大丈夫ですよ、お父様、お母様、他のお嫁さん達とはすっかり仲良しです。暫くあちらの屋敷で一緒に暮らしていましたから」


「そ、そうか……」


「なら……良いけれど……」


 ホッと胸をなでおろすアドリーヌの両親。


「大丈夫です、俺が守りますし、アドリーヌは上手くやれる子です」


 ここでルウがフォローした。

 自信に満ち溢れたルウの言葉を聞いて、安心したデュドネ。

 だが、疑問に思う。


「ルウ、お前はそんなに人脈がありながら何故出世を望まない?」


「出世……ですか?」


「そう、出世だ。名家の妻だけでなく、エドモン様とそれだけ懇意にしているなら、貴族になるなど容易い。それどころか地位と名誉も思うがままだろう?」


「確かにそうかもしれません。ただ俺はひょんな事から始めた魔法の教師という仕事が大好きです」


「…………」


「家族を助ける為にとか、人脈はこのような時には役に立ちますけど、それ以上使おうとは思いません……今のままで俺は満足だから」


 ルウの答えを聞いた、デュドネは目を丸くする。

 口もぽかんと開けてしまう。


「ふ~む、お前は……変わった奴だ、本当に……」


 唸るデュドネを見て、マクシミリアンが悪戯っぽく笑う。


「私には分かりますよ、父上。そんな変人だから、同じ変人のアドリーヌが妻になるのです」


 とんでもないマクシミリアンの毒舌。

 久々に聞く兄の『口撃』にアドリーヌは叫ぶ。


「はぁ!? 変人って! お兄様ったら、酷いわ!」


「ははははは」

「あはは」

「ほほほ」


 ジト目で睨むアドリーヌを見て、全員が大笑いしてしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝……


 ルウ達一行は出発する。

 これからの対応は勿論、王都で教師をしているルウとアドリーヌはゆっくりしている時間がないからだ。


 既にルウ達は馬上の人である。

 見送るデュドネ達へルウ達も手を振った。

 両親と兄へ別れを告げるアドリーヌ。


 そして、


「では、また親父さん」


「むう……」


 ルウから別れを告げられて言葉に詰まったデュドネであった。

 だが!


「おう! また遊びに来るが良い、我が息子よ!」


「了解!」


 そんなやりとりの後、ルウ達は出発し、姿はすぐ見えなくなった。


 デュドネが……初めてルウを『息子』と呼んだ。

 さっきのルウとのやりとりに驚いたマクシミリアンがちらっと見れば、デュドネは晴れ晴れとした表情をしていた。

 耳をすませば、何か独り言を呟いている。


「うむ、父と呼ばれてばかりだったが、たまには親父と呼ばれるのも良いかもしれん」


「父上……」


 思わずしんみりした、マクシミリアンであったが、ふと思いつく。


「では私も……親父!」


 試しに呼んでみたら……いつもの雷のような声が響く。


「馬鹿者! 気色悪いわ、マクシミリアン。お前は今迄通り父上と呼べ」


 厳しい教育的指導をされて苦笑するマクシミリアンであったが、気持ちはほっこりしている。

 

 いつになく素晴らしい予感がするのだ。

 

 コレット家はこれから変わる。

 大きく変わって行くと……


「ははは、分かりました」


「さあ、オドレイ行こう。たまにはふたりで紅茶でも飲まないか?」


「あなた! ……は、はいっ!」


 今迄に無い、母をいたわる父の姿……

 さっきの予感……これは間違いなく確信だ。


 笑顔のマクシミリアンは、自分の未来に明るい希望を感じていたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

長かった『アドリーヌの帰郷』編も今回で終了です。

次回からは新パートに変わります。



本作第2巻好評発売中です。

まだ未読の方はぜひ!

大幅加筆修正して、新エピソードを加えていますので新たに楽しめますよ!

活動報告に情報を入れていますので、ぜひご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ