第925話 「特別閑話 内緒でチェック」
いよいよ明日23日は第2巻の発売日です。
そこで本日から特別閑話をアップ致します。
WEB版でいえば第59話の中での話です。
ジゼルはルウの手を引っ張って、魔導昇降機へ乗り込んだ。
行き先は2階の生徒会室である。
そこで、ナディアが今か今かと待っているのだ。
何も知らないルウは、訝し気に首を傾げた。
「どうした? 急用って?」
用件をルウが尋ねても、ジゼルは口を濁している。
「な、何でもない。私と一緒に来て貰えれば分かる」
「了解!」
答えを貰えずとも、ルウは敢えて逆らわなかった。
ここでジゼルは、まだルウと手を繋いだままだと気が付いた。
「あっ」
小さく叫んだジゼルは慌てて手を離し、ぷいっと横を向く。
はっきり分かるほど、顔が赤くなっていた。
ジゼルがここまでするのは、生徒会室へルウを連れて行くというナディアの作戦である。
とはいえ、どうしてあのような大胆な行動が取れたのか分からない。
職員室で他の教師と話し込むルウに無理矢理割って入り、手を掴んで連れ出したのだ。
ルウと話していたのは、確か新人教師のアドリーヌ・コレットだった。
ジゼルを見て、とても驚いた顔をしていた。
ヴァレンタイン魔法女子学園は魔法使いとしての育成だけではない。
淑女としての規律も教える学校である。
あの新人の教師には、絶対に「はしたない」と思われただろう。
ジゼルは、ちょっと気になった。
でも『作戦遂行』の為にはリスクを冒すのも仕方がない。
魔導昇降機の定員は10名。
今乗っているのはジゼルとルウのふたり。
だから、まだ余裕がある筈だ。
しかし、この魔導昇降機は密室ともいえる。
ジゼルは普段このように男性と至近距離に居る事はない。
少なくとも肉親以外は。
まだ2階へ着くのは少しだけ時間がかかる。
ジゼルは、こっそりとルウを見た。
背は高い。
髪は黒く、瞳も黒い。
でも手を握って分かった。
この人は……鍛えている。
身体をいじめ抜いたといって良いほど。
魔法使いというより、戦士のようなごつい手をしていた。
ジゼルは父や兄に連れられて、闘技場で騎士や戦士の試合を見る。
勝者はたまに肉体を誇示する為に、鎧を脱ぎ捨てる時がある。
殆どが凄い身体をしている。
筋肉の鎧と言って良い。
騎士である父や兄と全く同じだ。
この人は……脱いだらどんな身体をしているのだろう?
ついそんな事を考えてしまった。
いかん!
ジゼルは「こん」と自分の頭を叩く。
最近、つい妄想する癖がついてしまった。
それも……この人のせいだ。
それなのに……
「ジゼル、あれから体調はどうだ」
「も、問題ない!」
この人は……お気楽だ。
多分、あまり物事を深く考えないタイプなのだろう。
今、顔を見ても優しく笑っている。
いつも穏やかに。
でも堂々としている。
何だか一緒に居ると落ち着く。
何故だろう?
昇降機が2階で止まる。
扉が開いた。
生徒会室のある階だ。
また勇気を振り絞らないといけない。
ルウの手を掴んで、生徒会室へと連れて行くのだ。
覚悟を決め大きく深呼吸したジゼルは、手を伸ばす。
すると、ルウはにっこり笑って手を差し出してくれたのであった。
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次回はまた特別閑話のSSをお送りします。
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