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第909話 「アドリーヌの帰郷㊼」

 ダロンド家末子フェルナンが、失踪した日……


 隣接する管理地を治めるコレット家では、次期当主マクシミリアンが最終的に断を下した。

 翌朝、一番でダロンド家へ訪問すると。

 いつもは他人の意見を殆ど受け入れないデュドネも、初めて見せた跡取り息子の気迫に気圧され、渋々了解したのである。

 

 同行する従士の選抜、武器防具他身支度など、やがて……翌日の出発準備が整った。

 時間はまだ宵の口であったが、マクシミリアンの指示通り、全員が早い床へ就く事になる。


 ルウ達にもそれぞれ部屋が割り当てられたが、ここでアドリーヌからお願いがあった。

 恥ずかしそうに話すアドリーヌのお願いとは……

 何と、久々に母オドレイと一緒に寝たいという。

 

 20歳を過ぎ、良い年齢をした大人のアドリーヌではある。

 だが、少女の頃に故郷を出て、10年近く母と離れていた彼女の中では時間が止まっていたのであろう。

 唯一の味方であった懐かしい母。

 アドリーヌの気持ちは、優しい母に甘えたい幼い子供へと戻ってしまったのである。


 そんなこんなで屋敷の全員が就寝し、まもなく日付けが変わるであろうという深夜……


 幸せに満ちたアドリーヌはいろいろ話し込んだ後に、愛する母と共にぐっすり眠っている。

 そのアドリーヌを屋敷に残し、ルウ達一行は行動を起こそうとしていた。

 ルウは最強と謳われる真竜王の鎧、モーラルも強力な防御魔法が付呪された愛用の革鎧を着込んでいる。

 すぐにでも出撃出来る態勢だ。


 元々、悪魔シトリーが言葉巧みに近付き、『契約』したのは決してフェルナンの為ではない。

 自己の欲望を満たす……それ以外のナニモノでもないのだ。

 

 ルウはシトリーの企みが何を目的にしているのか、ほぼ目星は付いている。

 

 しかし、シトリーの立てた計画は大幅に狂っていた。

 打つ手、打つ手に対するルウ達の『妨害』が原因であった。


 まず最初の躓きは、アドリーヌ拉致の失敗である。

 

 魂を虜にしたフェルナンの『餌』として、アドリーヌを攫う作戦である。

 配下の夢魔を使って、アドリーヌを連れて来させシトリーの秘技で彼女の魂と身体の自由を奪い、フェルナンへと与える。

 普通の人間ならば、非道な行為だと認識出来るが、人間の誇りを完全に捨てたフェルナンは益々、シトリーへ忠誠を誓う筈……であった。

 だが、夢魔共の襲撃を事前に察知したモーラルとバルバトスの反撃により、アドリーヌの拉致は見事に失敗したのだ。

 

 次の失敗は、ルウの介入である。

 経済的に困っていたコレット、ダロンド両家に入り込み、フェルナンンを使って裏から支配しようとしたが、アドリーヌの『提案』によりこれも失敗。


 こうなると、己の野望を果たす為にシトリーは様々な手を打って来る。

 フェルナンと共に『消えた!』のも、そのひとつだ。


 次には王都において、新たな『餌』への魔手を伸ばす。

 ルウの予想は当たった。

 その上、現れる場所まで特定したのだ。


 モーラルは王都の様子が気になっているようだ。

 会話は当然、念話である。


『旦那様、やはりシトリー配下の魔族が王都に現れたそうですね』


『ああ、予想通り動いたよ』


『それで……アスモデウスからは、報告がありましたか?』


『うん、カントルーヴ子爵邸を襲った敵は簡単に排除したそうだ』


『……まあ当然でしょうね』


 モーラルは納得して頷いた。

 精霊から入ったルウへの報告では、シトリーの配下に強敵は居ない。

 ルウによれば、王都へ現れたのは下級悪魔アビーラバーと夢魔数十。

 であれば、悪魔王と称されるアスモデウスの強大な力には到底敵わないからだ。


 ルウの表情は、穏やかなまま変わらない。


『アスモデウスからは特別な武器など使わず、簡単な魔法の新技で瞬殺したと言って来た。特にバルバトスにはしっかりそう伝えてくれとな』


 悪魔には自らの力を誇る癖がある。

 ルウに仕えている従士達も例外ではない。

 お互いを煽ったり、優劣の対比になる時もある。

 あるじのルウに良く思われたいが為に、ついエスカレートしがちになる。

 

 そんな時の『止め役』がバルバトスでなのである。

 今回のアスモデウスの言葉はそんなバルバトスへの挑発と皮肉だ。

 

『あ奴……相変わらずですな。それよりルウ様、お留守の間、この屋敷の守護役はお任せを』


 苦笑したバルバトスは、ルウから命じられた任務を復唱した。


『悪いな、バルバトス』


 ルウがバルバトスを労わったのは、命じた役目——コレット家の守護がいかにも地味なものだからだ。

 しかし、バルバトスは笑顔で返す。

 ルウの気遣いが感じられて嬉しいのだ。


『いえ、功を焦って華々しい戦いに赴くより、従士たるものまずは命じられた役目を全うするのが重要です』


『その通りだな』


『はい! ルウ様は我々の悪魔の適性を一番良く理解されております。各自が与えられた役目をしっかり果たす、目標とした結果を出す事が全てですから』


 常に沈着冷静なバルバトスらしい答えであった。

 ルウが、バルバトスを数多あまた居る従士の中心と見ているのもこの性格からだ。


『頼むぞ、多分大丈夫だとは思うが、出払った隙にこちらを襲われたらまずい』


『はい! ルウ様、お任せを。強力な魔法結界も作って頂きましたし、私はここで守りに徹します。アドリーヌ奥様とご家族の命はこの身に代えてもお守り致します』


『分かった、ありがとう! では、出撃だ。行くぞ、モーラル』


『はい! 旦那様』


『お気をつけて! では後程……』


 バルバトスの呼びかけに頷いたルウは、ピンと指を鳴らす。

 その瞬間、ルウとモーラルの姿は一瞬で消え失せたのである。

ここまでお読み頂きありがとうございます。


旧作の大幅加筆リメイク版ですが。

『帰る故郷は異世界! レベル99のふるさと勇者と新米女神』

http://ncode.syosetu.com/n4411ea/

故郷に帰れなかった青年が少年に転生し、美少女と異世界の田舎村で暮らす話です……

何卒宜しくお願い致します。

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