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第906話 「アドリーヌの帰郷㊺」

 結局……


 デュドネ・コレット辺境伯は、『条件付き』でアドリーヌの提案を受け入れた。

 『条件』と言うのは、ダロンド家次男フェルナンの『幸せ』である。

 フェルナンに意中の女性が居て、結ばれるのならその方が幸せだと納得したのである。

 またルウとアドリーヌの結婚も、フェルナンが幸せになれば認めるというニュアンスで承諾してくれた。


 アドリーヌによる『提案』の話は長くなった。

 時間は、もう午後半ばである。

 明日午後に訪問するという打診を魔法鳩便でダロンド邸へ入れた後に、ルウと従士を入れてコレット家全員で遅い昼食を摂った。


 ルウとアドリーヌも興奮したデュドネの疲労度を考えて、昼食の際は結婚の話には敢えて触れなかった。

 やはりデュドネは、今迄の疲れが一気に出たらしい。

 肉体的な疲れのみでなく、心労も相当あったようだ。


 食事後、午睡すると言い出して自室へ引っ込んでしまったのである。

 アドリーヌはルウに一旦断った上で、母オドレイと相談した。

 久々に父の世話と実家の手伝いをする事にしたのである。

 アドリーヌの気持ちを理解したルウがOKして、勧めたのは言うまでもなかった。


 そんなルウ達の様子を見ていたマクシミリアンは、丁度良いタイミングだと考えたらしい。

 ルウに対して、ふたりきりで話したいと申し入れしたのである。

 こうして……マクシミリアンは再び自分の書斎へとルウを招き入れた。


 ふたりはまた、書斎で向かい合っている。


「ルウ君、今日はいろいろとありがとう」


「とんでもありません、こちらこそです」


「まだ父がOKを出していないが、私はアドリーヌの結婚に対して反対する気持ちはない。但し、もう少しルウ君の事を知りたい」


 マクシミリアンは普段、超が付く慎重派だ。

 ルウのような初対面の人間に対して、心の内を見せるなどありえない。

 しかしもう、マクシミリアンは警戒などしていなかった。

 

 寧ろルウという人間に対して大いに関心がある。

 それは単純に『弟』となるからではない。


 一方ルウもマクシミリアンの気持ちは分かるし、これから家族となる相手だ。

 渡りに船といえる機会である。


「当然でしょうね。お互いに初めて会ったばかりですし」


「ははは、全くだ。だが君の人となりは何となく分かる。嫌かもしれないが……君は私に似ている」


 マクシミリアンは自分でそう言ってから、大いに納得した。

 先程の会話中、ずっとルウに共感を覚えていたのだから。

 そして事前に、妹からという形で手紙をくれて頼ってくれたのも嬉しかった。


 笑顔のルウは、簡潔な表現で同意する。


「光栄です」


「ははははは! 妹が私の事を冷たいとか、いろいろ言っていただろう?」


 マクシミリアンは思い出す。

 妹とは、お互いに変わっていると言い合っていた事を。


 ルウは実感を込めて言う。


「はい! だけど人間同士が理解し合うというのは難解で奥深いものです。他人でも瞬時に分かり合える場合もあれば、肉親でも相当な時間がかかる場合もある」


「確かに! ……その通りだ。私とアドリーヌだけでなく、私と父でさえそうだ。今日改めて実感したよ、生まれた時からずっと一緒なのにな」


「でも今は……家族として気持ちが重なりつつある」


 ルウの告げた言葉……『家族』

 いつ聞いても温かい言葉だとマクシミリアンは思う。


「そうだな……私は素直に君と家族になりたいと思うよ」


「こちらこそ!」


「兄の私が言っても説得力が全く無いが……アドリーヌは良い子だ。少し性格が面倒な部分はあるがね。多分、妹も私の事をそう言っていただろう」


「ノーコメントです」


「ははははは!」


 言葉を濁すルウは、堅物の自分と違ってユーモアもあるらしい。

 上手くかわされて、マクシミリアンは大笑いしてしまう。

 今日は10年分くらい笑った気がするのだ。


 しかし、やられっ放しではつまらない。

 兄として気が済まない


「うむ! そして私には分かる……君の態度、物腰を見て」


「何でしょう?」


「今更怒らないから答えて欲しい。君には……既に妻が居る……それも何人も。……アドリーヌは了解しているのだろう?」


 これは突っ込みと同時に、マクシミリアンから、念の為といって良い質問である。

 自分に近い性格の、この『義理の弟』がつまらない行き違いを起こしたり、手抜かりをする筈がないからだ。


「はい! こちらへ帰る前に、王都でアドリーヌは他の妻達とは一緒に暮らしました」


「うむ、それで?」


 やっぱりと思うマクシミリアン。

 だが兄として、実の妹の幸せは念入りに確認したい。


 兄の期待に沿い、ルウの答えは……予想通りであった。


「彼女達からは、絶対に帰って来て欲しいと言われていました」


「おお、それは良かった。アドリーヌの幸せそうな顔を見て分かってはいたが……ちなみに他には何人奥様が居るのかね?」


「10人です。アドリーヌは11人目です」


「アドリーヌを入れて11人! 君という男は! 王都の貴族でさえそんなに妻は居ない」


 マクシミリアンはさすがに呆れてしまった。

 目の前の青年はまだ20歳そこそこなのだろうに。


 しかしルウは堂々と言い放つ。


「ええ、でも人数は関係なく俺は全員を愛しています」


「凄いな、君は。きっぱりと言い切るか……まあアドリーヌも幸せになるのだから良しとするよ」


「マクシミリアンさん……いや兄上は?」


「ははは、私は見ての通り独身さ。こんな辺境の地まで嫁に来てくれる女性は中々居ない。私は身分に拘らないから、地元の従士の娘でも構わないのだが……父がね」


「成る程」


 それから、ルウとマクシミリアンはいろいろと話をした。

 差し障りのある事はさすがに話せなかったが、ルウは仕事、王都での暮らし等を話したのである。

 

 マクシミリアンが特に驚いたのはルウの妻達の身元であった。

 ドゥメール、カルパンティエ、ギャロワ、シャルロワなど名だたる名家の令嬢達であったからだ。

 一番驚いたのは隣国ロドニアのアレフィエフ家王女リーリャまで妻になっている事である。


「凄すぎる! 君は規格外だ! 君の妻となるアドリーヌが何故エドモン様に可愛がって貰えたか……分かるよ。まあ君は不思議と相手を和ませる……私だって今日初めて会ったとは思えないからな」


「ありがとうございます。今日、俺とアドリーヌでご提案したのは全てが人の絆により創られた力です」


「確かにそうだ。人間個々の力などたかが知れている」


「はい! 俺は素晴らしい出会いをさせて貰い、いろいろな人の助けを貰っています。とても感謝していますし、俺も困っている人がいたら助けたい」


「うむ! 出会いと絆か……そして情けは人の為ならず……だな」


「仰る通りです」


「うむ! では今後とも宜しく頼むぞ」


「こちらこそ」


 ルウとマクシミリアンが握手をした。

 その瞬間!


 どんどんどん!


 マクシミリアンの書斎の扉が、乱暴に叩かれる。

 叩き方からして、尋常でない用件だろう。


「どうした? 騒々しい!」


「大変です! 今、連絡が! フェルナン様が! ダロンド家のフェルナン様がお屋敷で突如行方不明となったそうです」


 マクシミリアンの問いに対して、従士の答えた事実はとても衝撃的であったのだ。

ここまでお読み頂きありがとうございます。


旧作の大幅加筆リメイク版ですが。

『帰る故郷は異世界! レベル99のふるさと勇者と新米女神』

http://ncode.syosetu.com/n4411ea/

故郷に帰れなかった青年が少年に転生し、美少女と異世界の田舎村で暮らす話です……

何卒宜しくお願い致します。

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