表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
903/1391

第903話 「アドリーヌの帰郷㊷」

 アドリーヌがエドモンの助力を得た事を示しても、父デュドネ・コレットは全く納得しなかった。

 自分の娘が主君から直接励ましの言葉を賜ったという衝撃の事実には驚いたが、考え直すとやはり信じる事は出来なかったのだ。


「嘘だ、嘘だ、嘘だ! 私は絶対に信じぬ、あの気難しいエドモン様がお前の為にお骨折りなどするものか、絶対にするものか」


 興奮するデュドネを諫めたのは息子マクシミリアンである。


「父上! このような嘘など、もしついていてもすぐに分かる事ではないですか。今日なり明日なり緊急の鳩便をバートランドへ出して確認すれば済む事です」


 確かにマクシミリアンの言う通りであった。

 コレット家から魔法鳩でエドモン宛に便りを出し、アドリーヌの言った事が事実なのかすぐに確認すれば良い事なのだから。


 しかしデュドネはマクシミリアンの正論が耳へ入っていない。

 いや、聞こうとさえしていないのだ。


「うるさい! むむむ、はっきりとした証拠を出せ、この父の前に出して見せよ、アドリーヌ」


「はい!」


「むう……」


 アドリーヌは『このような場面』も当然、想定していたのだろう。

 大きな声で返事をし、笑顔で傍らのルウを振り向く。

 すかさずルウから封書が2通、アドリーヌへ手渡された。


「お父様、これが証拠です。エドモン様からキングスレー商会本店のチャールズ・キングスレー会頭宛の紹介状ですよ。もう一通は同じくキングスレー商会王都支店の支店長宛です」


 誇らしげなアドリーヌは、ルウから受け取った封書を自分の胸の前で分かるように掲げて見せた。


「くっ!」


「これから先方へ提出するものなので、絶対に封は切らないで頂きたいのですが、エドモン様のご筆跡と封蝋ふうろうをお確かめ下さい」


「むうう」


 デジュネはアドリーヌから恐る恐る封書を受け取った。

 彼にとって大公エドモンは恐れ多いと言っていいくらい上に居る人物である。

 折ったり汚したりしないようにして、慎重に封書を見てみると、確かに見た事のあるエドモンの筆跡であり、封蝋にはしっかりと印璽いんじが捺印されていた。


 主に仕えて長いデュドネには分かる。

 筆跡は紛れもなくエドモンのモノだし、印璽は間違いなく名門ドゥメール公爵家の紋章である。


 落胆したデュドネは思わず首を横に振り、天井を向いて大きく息を吐いた。

 もう、はっきりと認識した。

 やはり娘アドリーヌはエドモンから助けて貰う事を約束されたのだ、と。


「父上、私にも見せて下さい」


 放心したようなデュドネの手から、マクシミリアンがそっと取り上げて確認するとやはりエドモンの筆跡と印璽が捺印された封蝋が確認出来た。


 コレット家には年に2回ほど主君であるエドモンから公文書が届く。

 父と共に、次期当主としてマクシミリアンも届く度に確認している。

 なので、エドモンのサインと印璽の形状は認識していた。


 そのマクシミリアンが見ても紹介状のサインはエドモンの直筆だと思うし、印璽が捺印された封蝋も全く同じように感じる。

 万全を期す為にマクシミリアンはデュドネに断って、父親の書斎からコレット家へ来た公文書の封筒と中身の書面も持ち込んで念入りに照合した。

 その結果、アドリーヌが提示した封書が寸分違わず全く同じものであるという結果になったのである。

 疑問に思うのなら、直接エドモンに問い合わせても構わないというやりとりが双方で為され、漸くデュドネは納得したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 エドモンの封書が『本物』だと確認された後、アドリーヌは話を続けた。

 書斎での話は王都での取引先商会の提示となり、ブシェ商会の名をマクシミリアンが知っていた為、話は早かったのである。


 最後に補足説明があり、いくつかの質疑応答がありアドリーヌの『提案』は終わった。

 アドリーヌと結婚するという前提が崩れ、既に破綻したフェルナンの提案と比べても、全てが現実的でコレット家にはメリットのある話ばかりだ。


 こうなったら誰がどう見てもアドリーヌの話を受け入れると思われた。

 だが、アドリーヌへ「まだ質問がある」と手を挙げたのは、意外にもマクシミリアンであった。


「何でしょう? お兄様」


「お前の提案が素晴らしい事は認める。示された既成事実だけ見れば当家の為には採用するのが得策だろう。但し……」


「但し?」


「あとはお前自身の事を聞きたい、アドリーヌ」


「わ、私自身の事?」


 自分の事を聞きたいと言われ、アドリーヌはきょとんとした。

 コレット家を救う!

 その考えしか頭になかったせいだ。


 何故かマクシミリアンはにっこり笑う。

 この兄に、やはり笑顔なんか珍しい、似合わないとアドリーヌは思う。


「そうだ。念の為に聞こう……先程言ったお前が好きな、これから結婚したいという相手は何のしがらみもなく心から愛する者なのだな?」


 マクシミリアンの問いを聞いて、アドリーヌにはピンと来た。

 ここで兄が、ルウとアドリーヌの結婚について話をさせて父の了解を取るのだと。


 アドリーヌは大きく頷き、きっぱりと言い放つ。


「はい! 愛しています。私が社会へ出て辛い時に励まし慰めてくれました。私が現在も教師を続け、天職だと思えるのは彼のお陰です。今だって何かあれば支えてくれますし、愛してくれています。私も少しでも彼の事を支えたいと思います」


「ほう! それは素晴らしい人に巡り会ったな」


 マクシミリアンは笑顔のまま褒めてくれた。

 祝福してくれていた。

 我が意を得たアドリーヌは、今回の提案がルウの尽力だという事を特に伝えたかった。


「はい! そして今回の提案も私の為にいろいろと尽力してくれました」


「そうか……そうだろうな」


 マクシミリアンは納得するように頷いていた。

 莫大な資金を始めとして、エドモンとの会見、折衝、OK、もろもろの手配までこの妹に全て出来るわけがない。


 だがマクシミリアンが良く見ても妹に悲壮感はない。

 アドリーヌは心からルウが好きなのだと感じる。

 兄マクシミリアンが少しだけ心配した、金などに縛られた『人身御供』のような雰囲気も妹アドリーヌには皆無であったからだ。


「はいっ!」


 笑顔で元気に返事をする妹を見て、マクシミリアンは再び尋ねる。


「念の為にもう一回聞こう……お前はその人の妻になりたいのだな?」


「はいっ! 私はここに居る、大好きなルウさんのお嫁さんになります」 


「な!? アドリーヌの結婚相手が? ル、ルウだと! この若造か!?」


 肘掛け付き長椅子(ソファ)で、もたれるようにして座っていたデュドネが吃驚して身体を起こした。

 エドモンの件で今迄放心していたが、アドリーヌの人生における重大な言葉に反応して大きく目を見開いたのであった。 

ここまでお読み頂きありがとうございます。


旧作の大幅加筆リメイク版ですが。

『帰る故郷は異世界! レベル99のふるさと勇者と新米女神』

http://ncode.syosetu.com/n4411ea/

故郷に帰れなかった青年が少年に転生し、美少女と異世界の田舎村で暮らす話です……

何卒宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ