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第901話 「アドリーヌの帰郷㊵」

 コレット家の事を一番に考えているのは家長たる自分だ。

 アドリーヌの父、辺境伯デュドネ・コレットは固くそう信じている。

 しかし忠実な息子マクシミリアンが、アドリーヌの肩を持ち味方してくれないのがもどかしい。

 

 自分ひとりだけが散々へこまされて機嫌が悪いデュドネは、ぷいっと横を向いてしまった。

 兄のマクシミリアンが苦笑してそっと目で促してくれたので、アドリーヌは話を始める事にした。


「では早速私の提案をお話しします。個別にフェルナンの提案と比較して下さい、多分全てにおいて私の方が上です」


「ふん、アドリーヌめ、小娘の癖に、偉そうに!」


 デュドネは明後日の方向を向いたまま、鼻を鳴らした。

 マクシミリアンが首を横に振る。


「父上、アドリーヌはもう大人ですよ」


「はん! こいつ、王都で暮らすうちに要らぬ知恵をつけおって」


 世間一般の親もそうだが、父デュドネにとって娘のアドリーヌはいつまでたっても世間知らずな子供なのだ。

 離れて暮らし、ずっと会ってはいないから仕方がない事かもしれない。


 苦笑したアドリーヌはコホンと咳払いして話を再開する。


「……まず必要なのは現金ですね。私とルウさんはいろいろ相談しました。まずはコレット、ダロンド両家に資金融資させて頂きます」


 資金融資?

 金を貸す?


 アドリーヌとが今度こそとんでもない発言をしたとでも言うように、デュドネが激しくいきり立つ。


「し、資金融資だと! アドリーヌ! 貴族の娘であるお前はよりによって金貸しの真似をするのか!」


 諫めても止まらない父からの度々の突っ込み。

 苛立ちを抑えきれないマクシミリアンは眉間に皺を寄せた。

 これでは肝心の話が進まないからだ。


「父上、少しお静かに……アドリーヌ、話を続けてくれ」


 マクシミリアンは、アドリーヌへ軽く顎をしゃくって見せた。

 やたらに口を挟む父を無視して話を続けるようにという合図だ。

 頷いたアドリーヌは引き続き説明する。


「はい! とりあえずそこそこの金額を用意しました。返済期限は敢えて決めずに無期限、利息も無利息という破格の条件でご融資します。実はもうこちらに運んでありますからすぐにお渡し出来ます」


 今朝届いた手紙に書いてあったので、アドリーヌがある程度の資金援助をしてくれるとマクシミリアンは認識していた。

 だが、手紙には記載されていなかった意外な条件を聞いて表情が変わる。


「おお! それは!」


「な! 何だと」


 デュドネも同様らしく目を丸くしている。

 アドリーヌはふたりの驚きの視線を受け止めながら言う。


「今、コレット家に一番必要なのは現金だと思います。当座の運転資金にして下さい」


 マクシミリアンは同意して頷き、更に説明を求める。


「まさにアドリーヌの言う通りだ、何かにつけていろいろ金がかかる。だから現金が一番助かる……しかし当家は助かるが、無期限無利息とは? そちらにも何か条件か、メリットが無いのはとても不自然だ。それを説明してくれ」


 やはりマクシミリアンは冷静だ。

 実の妹とはいえ、融資の話がうますぎると疑ったのだろう。


 しかしルウと話して、この質問は想定済である。

 アドリーヌは打合せ通りに条件を話す。


「はい! お兄様の仰る通り条件はあります。その条件ですが、遺跡から出土した古代人工遺物《アーティファクト》の独占販売契約を結ぶ事、そして私達以外からの資金援助を全て断って頂く事です」


「何だと! え、偉そうに!」


 アデリーヌの話を聞いたデュドネが憤るが、マクシミリアンは父の発言を止めた上で考え込む。


「父上! お願いですから黙っていて下さい。ふむ……独占販売権か、それは検討可能だが、他からの資金援助断わりはどうかな……もし受け入れると、そちらから資金を止められてしまえば、こちらは他から一切借金が出来なくなる。……それは困るぞ」


 マクシミリアンの言う事は尤もだ。

 運転資金を借りる事が出来なくなれば……コレット家は破綻するからである。


 しかしルウ&アドリーヌに抜かりはない。


「仰る通りです。ちゃんと理由はあります、怪しい高利貸しなど危ないところからの借金を防止する為です。そしてこちらから資金を止めるなど絶対にしません。但しこれは信じて頂くしかありませんし、万が一こちらがそのような契約違反をしたら約束を反故にしてして頂いて結構です」


 マクシミリアンはアドリーヌの説明を聞いて納得した。

 全てにおいて、しっかりした契約を結ぶなら、問題はないと理解したのである。


「成る程! ならば構わない。肝心の金額はどれくらいだ?」


「はい、とりあえず金貨1万枚……足りなければ更に1万枚※、都合2万枚を即現金でご融資します。お金の出所も問題ありません。モーラルさんとバルバさんから資金提供して頂きますから」

※金貨1万枚=約1億円


「1万枚!? 足りなければ2万枚だと! むむむ!」


 デュドネは吃驚した。

 アドリーヌが想像もつかない大金を提示したからである。


 一方、マクシミリアンは満足していた。

 金額も条件も含めて、妹の堂々とした説明ぶりに。


「おお、素晴らしい! 金額が結構大きくて少し怖いが、無期限無利息なら素晴らしいな!」


「はい! そしてこちらが考えたご融資金の返済方法ですが、利益の出る出土品を私がお願いした魔法鑑定士の方にしっかりと鑑定して見極めて頂いた上で王都か、バートランドで売却し、その売り上げからコレット家の利益を引いた金額をこちらへコストとしてお返し頂きます」


「成る程!」


 マクシミリアンは納得しながら、嬉しくなる。

 アドリーヌは先々の事まで考えている。

 それもコレット家に出来るだけリスクを負わせない方法で。

 しかしデュドネは話が良く見えない。


「???」


 父の怪訝な表情を見たアドリーヌは口を開く。


「ええっと、補足します。こちらで大まかに魔法で鑑定して売却に見合う出土品だと判断したものだけ線引きし、取り纏めて送るのです。理由は二束三文のものを少し送るだけでは大赤字になりますから……すなわち無駄な配送費等コストを掛けない為ですね」


「確かにそうだ」


 マクシミリアンは大きく頷いた。

 自分がいろいろ考えていた事を妹が話しているのが嬉しい。


「例えば、もしある出土品が卸値金貨1,000枚の価値で売れるとします。この場合は充分利益が出せますから王都やバートランドへ送って売却します。また少額の価値と鑑定されたものでも取り纏める事が出来れば見合う利益が出せるから送ります」


「うん、理解したぞ」


 マクシミリアンは何と……破顔していた。

 アドリーヌはこのような兄の顔を見るのは生まれて初めてである。

 だから嬉しくなって説明もノリノリになる。


「お兄様、ご融資金の返済方法も補足しますね。先程の金貨1,000枚の商品を例にしますと、金貨800枚を融資金返済分、そしてこちらの取り分と輸送護衛等の経費として頂き、残りの金額200枚を純利益としてコレット家にお渡しします。800枚の中の返済分がご融資した金額から引かれます。こうして融資金の返済をして頂くのです」


 アドリーヌの説明はまさに立て板に水……であった。

 マクシミリアンは思わずポンと手を叩く。


「うん! 素晴らしい。それなら借金はどんどん減らせる。出土品の量次第だが、いずれは無借金になる。無借金になれば当家の利益は更に増えるな」


「むむむ」


 漸くデュドネも理解したらしい。

 アドリーヌの提案の隙の無さにさすがに反論出来ない。

 

 ただ不満そうに唸るだけであったのだ。

ここまでお読み頂きありがとうございます。



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