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第893話 「アドリーヌの帰郷㉜」

本日まで連続更新を目標としてやり遂げました。

お楽しみ下さい。

 大悪魔シトリーがルウへ呪詛の言葉を吐いた時……


 ルウとアドリーヌは身体は冒険者の街バートランドのホテルに置きながら、魂は楽園エデンを模した世界に居る。

 アドリーヌの見ている夢にルウの魔法を発動させ、創り出した不思議な異界であった。


 敵の追尾を退けたモーラルとバルバトスも当初の予定通り、合流していた。

 悪魔シトリーの放った夢魔共にあとをつけられアドリーヌは心配したが、容易く一蹴し全く問題にしなかったのである。


 現世と変わらぬ何の変哲もない異界の空間から、いきなり現れたモーラル達に吃驚したアドリーヌ。

 だが彼女の故郷で情報収集をしたモーラルとバルバトスの報告により、更に驚愕する事実を知る事になったのである。


「フェルナンが……あ、悪魔と契約を!?」


 アドリーヌは大きく目を見開いていた。

 口をパクパクしている。

 全身に力が入らない。


 呆然とするアドリーヌへ、モーラルは告げる。

 平然とした表情で。


「はい、フェルナンの魂には恐るべき悪魔、シトリーの名と紋章が間違いなく刻まれています」


「ああ! 何て事を! フェルナン!」


 アドリーヌは嘆いた。

 いくら疎遠になったとはいえ、子供の頃良く遊んだ幼馴染なのだ。

 悲しい!

 涙が溢れて来る。


 そんなアドリーヌを見守りながら、モーラルは淡々と話を続ける。


「フェルナンは狡猾な悪魔の囁きから得た偽りの言葉により、コレット家とダロンド家を更なる窮地へ陥れようとしています」


「悪魔の囁きから得た偽りの言葉?」


「アドリーヌ姉、偽りの言葉とは……フェルナンが提示したありもしない約束です」


 モーラルの口から語られて行ったのはフェルナンがアドリーヌと結婚して分家を立ち上げる事、そして出土したお宝を収入として計上する為の手立てについてである。


「私がフェルナンの妻に?」


「はい、正確に言えば妻などではなく奴隷です。先程襲って来た小賢しい夢魔共に旦那様を殺させ、アドリーヌ姉を拉致して、自分の下へ連れて来させる。邪悪な魔法により意思の自由を奪った上で無理やりフェルナンの『もの』とする。そのように目論んでいたのです」


「ええっ」


「精神も身体も思いのままにしたアドリーヌ姉を暫く異界へ隠し、タイミングを見て家族に引き合わせる。偽りの相思相愛な間柄を見せて両家から結婚を文句なく了解して貰った上で、託されたお宝を持ってアドリーヌ姉と共に王都へ戻るのです」


「…………」


 アドリーヌにはショックだった。

 乱暴でがさつだが、本来のフェルナンは正直で悪人ではない筈である。

 やはり彼の魂は悪魔により醜く穢されてしまったのだ。


 それにしてもモーラルとバルバトスの情報収集は確かであった。

 多分推測もあるだろうが、悪魔シトリーの描いた絵を詳細に調べ上げているのである。


 モーラルは更に詳しく説明する。


「ほとぼりがさめた頃に分家の立ち上げについては王都騎士隊の懸命な引き留めにあって断念すると言えば良い。この理由なら両家は文句を言えません、下手をすればフェルナンが、あの両家は王家に盾突くとか言い出して反逆罪になってしまいますから」


「…………」


「それにアドリーヌ姉のお父様はともかく、王家に絶対的な忠誠を誓うフェルナンの父ダロンド辺境伯は逆に喜び、騎士隊への復帰を賛成してしまうでしょう」


 やはりシトリーの計画は抜け目がない。

 両家の事情、家族の思考や弱点も把握した上で、策定しているのだ。


 アドリーヌは首を振った。

 恐怖で身体も震える。

 もしルウと一緒ではなかったら、今頃自分は……


「…………」


 無言になったアドリーヌへ、モーラルは残りの陰謀を告げて行く。


「商業ルートの約束については交渉の難航を理由に反故とする。フェルナンは預かったお宝を現金化して自分のみ莫大な財産を得た上で、何食わぬ顔をして王都騎士隊に復帰、両家はそのまま……放置されるでしょう」


「そんな!」


 結局……コレット、ダロンド両家の苦境は変わらない。

 責任の一端は自分にあると思うとアドリーヌは辛かった。

 しかし両家は、果たしてフェルナンの言うがままになるのだろうか?


 そんなアドリーヌの心の中を見抜いたように、モーラルは言う。


「状況が改善されない両家は当然フェルナンへ抗議はすると思います」


「当然だわ! お父様やお兄様が黙っていない」


「ですが……フェルナンはしっかり対策を練っているでしょう。例えばお宝は途中で賊に奪われたとか、無価値に近く二束三文で叩き売って金にはならなかったとか、交渉に関しては努力はした、手は尽くしたが及ばずというのらりくらりとした曖昧な態度で返せば、王都から遠く離れた僻地故に、なし崩しになると考えているのです」


 もし、そんな事が行われたら!

 悪魔に魂を奪われたフェルナンは全く気にしないであろうが、確実に両家は険悪になる。

 アドリーヌの時以上に被害は甚大になるからだ。

 それに肉親だからと信じたフェルナンに裏切られ、経済的に行き詰まり両家は滅びるかもしれない。

 下手をすれば、恨みから殺し合いになるかもしれない。

 それこそが悪魔シトリーの狙いであり、フェルナンはそんな事に気付かないほど心が『麻痺』しているのである。


 アドリーヌは心底恐ろしくなる。


「それって、人間のやる事じゃない、恐ろしい」


 青ざめたアドリーヌへ、モーラルの衝撃的な発言が飛び出す。


「……アドリーヌ姉、私は王都でフェルナンの魂からそのたくらみを感じ取りました」


「モーラルさん! な、何故!? それが事前に分かっていたのに何故放っておくのですか?」


 モーラルなら!

 いやルウなら事態がここまで悪化する前に手を打てた筈なのだ。


 アドリーヌは思わず腕組みをして、抗議のポーズを取ってしまったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。


明日5月8日からまた通常の不定期更新ペースに戻ります。

大体、週2回くらいの予定となります。


申し訳ありませんが、ご了解下されば嬉しいです。

今後も頑張って連載を続けますので、他作品共々ご愛読と応援何卒宜しくお願い致します。

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