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第892話 「アドリーヌの帰郷㉛」

連続更新、16日目です。

明日の目標まで王手です。

頑張ります。

 悪魔の名を魂に刻まれたフェルナンは、恐ろしい力だけではなく汚い策略も授けられた。

 怖ろしい悪魔から与えられたのは人間離れした能力だけではない。

 無地慈な性格も植え付けられていたのである。


 貴族育ちのフェルナンは上から目線で粗暴ではあったが、元々は正直な性格だった。

 嘘をつくのは心底嫌いだった。

 しかしシトリーにより穢され歪にされた魂は、実の肉親でさえ欺き貶めることも、全く躊躇わないものとなっていた。


 今回フェルナンが提案したものは、シトリーが策定したもので殆どが偽りである。


 まず分家を持ちたいというのは嘘だ。

 最初は結構本気であったが、シトリーから「本音で生きろ」と一笑に付されると尤もだと感じてしまったのだ。

  

 改めて考えると、僅か15歳で故郷を出たフェルナンは長く暮らしたせいで王都の華やかな暮らしに慣れている。

 今更、実家のような辺境の地で不便に暮らすなど御免こうむりたいと思っていた。


 貴族という身分でありながら、面倒なしきたりや煩わしい人間関係に縛られない王都での『次男』の暮らしが気に入っている。

 もし分家など起こし、本家の近くに屋敷を構えるとしたらとんでもない事になるだろう。


 日々の暮らしは元より、古代遺跡から出土するお宝を売却する事業との兼ね合いで父や兄——本家から何かにつけて命令が来るし、分家の長であるフェルナンとしては絶対忠実に従わなければならない。


 嫁としたアドリーヌの実家コレット家からも同様に指示があるに違いない。

 そもそもフェルナンはアドリーヌの兄マクシミリアンが子供の頃から嫌いだった。

 全てに効率を求め、情のない性格が大が付くくらい嫌いであった。

 今の自分が悪魔に染められ、同じような性格になった癖にである。

 実の肉親でさえ嫌なのに、マクシミリアンの下風に立つなど死んでも嫌なのだ。


 こうしてフェルナンは分家を立てるという気持ちを完全に失くしてしまった。

 表向き『フェルナン夫婦』が分家となり今後協力すると言えば、両家から結婚に反対されることが絶対にないだろうから便宜上使うだけとしたのである。


 王都との商業ルートを作るというのも嘘だ。

 ヴァレンタイン王国の誉れ高き王都騎士隊に勤めるフェルナンであったが、才覚もコネもない。

 王都にある大手商会の名を思いつくまま適当に挙げただけだ。


 悪魔シトリーは大量の黄金を所持していた。

 フェルナンはそれを大手商会からお宝への仮払いとして預かったと『見せ金』にして、両家の信用を勝ち得たのである。


 護衛に関してもシトリーと配下の力が役に立った。

 金目の荷を積んだ商隊は山賊や追剥からすれば格好の獲物である。

 人間を捕食する凶悪な魔物の襲撃も考えられる。

 それ故王都やバートランドへの運搬には強力な護衛が欠かせない。


 シトリーとふたりの配下はその強さを十分にアピールして見せた。

 彼等は襲って来た熊や狼などの肉食獣は勿論、ゴブリン、オーク、オーガなどの恐ろしい魔物も容易く屠っていたのである。


 フェルナンはぺろりと舌で唇を舐めた。

 好色な笑みを浮かべる。

 シトリーの話通りなら、近いうちにアドリーヌがフェルナンの下へ連れて来られる筈なのだ。

 当然、邪魔なルウは容赦なく殺す算段である。

 アドリーヌも好きな男が死ねば、相手への未練もなくなると、シトリーは笑った。

 当然そのように単純な話ではないが、フェルナンはそのような事も判断がつかないくらい狂わされていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時間は戻り、夢魔共がルウ達を襲おうとした夜……

 ここは、ダロンド辺境伯家管理地、ダロンド邸フェルナンの私室。


 魔法で施錠され、内部の音も漏れないようにされた中で、フェルナンは椅子に座って待っていた。

 何も身に着けず、全裸である。

 まもなく夢にまで見たアドリーヌを抱けるのだ。

 そう思うとふつふつと情欲がたぎって来る。


 傍らには人化したシトリーが革鎧姿で立っていた。


「ふふふ、感じる、感じるぞ。我が配下が戻りつつある」


「そ、そうか! いよいよだな!」


 悪魔から魂に名を刻まれ変貌しつつあるフェルナン。

 冷静な男と化した彼もいよいよ思いを馳せた相手を組み敷き、思い切り抱けるとあっては興奮を隠せない。


「ははは、落ち着け! といっても無理だろうな。お前の情欲を思い切り女の中に吐き出してやれ」


「ははは、言われなくともやってやる!」


 邪悪な笑みを浮かべるフェルナンとシトリー。

 突然!

 何もない空間が割れる。

 悪魔シトリーが異界を、フェルナンの部屋へ繋げたのだ。


 フェルナンとシトリーはにやりと笑った。

 邪悪な笑みである。

 予定通り『事』は運んだらしい。


 やがて……

 割れた空間の中から、俯いたひとりの女が醜い夢魔インキュバスに抱えられて現れた。

 女は全裸であった。

 フェルナン同様、何も身につけていない。


「女、顔をあげよ」


 シトリーが重々しく命じる。

 ゆっくりと顔をあげた女の顔にフェルナンは見覚えがあった。

 間違いなく……アドリーヌだ。


「どうだ、フェルナン、我の力は?」


「す、素晴らしい!」


 アドリーヌの瞳の焦点は合っていなかった。

 どうやら自分の意思がないようである。

 シトリーの魔力を受けた夢魔が……アドリーヌの意思を奪ったのだ。

 

 夢魔はアドリーヌの身体を無理やり開かせた。

 アドリーヌの真っ白な肌がフェルナンの目に突き刺さる。


 シトリーがフェルナンの情欲を最高に燃やそうとする為の『演出』であった。

 フェルナンは我慢出来ず、汚くよだれを垂らしていた。


 勝利に酔うシトリーは、思い切り笑う。

 口が耳まで裂け、人間離れした笑い顔となる。


「ははははは! さあ、女を……喰らえ!」


「うひゃひゃひゃひゃ!」


 フェルナンは奇声を発し、アドリーヌにかぶりついた。

 強く抱きしめられたアドリーヌの眉間に、苦痛からか醜く皺が寄った。

 今のフェルナンには相手の苦痛さえも快感なのだ。


 しかし!

 その瞬間。


「ぎゃああああっ!」


 アドリーヌを押さえていた夢魔が絶叫をあげる


「ど、どうした!?」


 驚くシトリーの前で苦痛に顔を歪めた夢魔インキュバスの身体が……何と塵になって行く。


「ばばば、馬鹿な!? こ、これはっ!?」


 どうやら夢魔は何か魔法をかけられていたようである。

 一切の自由を奪われ、主たるシトリーの下へ無理やり返されたのだ。


 すると!

 まさか!


 シトリーはフェルナンが抱きしめているアドリーヌを凝視した。

 愛撫を続けるフェルナンは全く気付かないが、アドリーヌの顔がいつに間にか醜く変貌している。

 フェルナンがかき抱き、執拗に愛撫している相手は何と!

 ……シトリーが送った配下の夢魔サキュバスであった。


「ぐぐぐ、こ、これは!? だ、誰の仕業だぁ? もしや、あの土くれめぇ! 我を舐めおってぇ! こ、殺してやる!」


 呪詛の言葉を吐くシトリーの前で、フェルナンに抱かれた夢魔はあっという間に塵と化したのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。


小説家になろう様で連載の別作品も宜しくお願いします。

『隠れ勇者と押しかけエルフ』

人間の魔法使い男&ダークエルフ姫の異色カップルが繰り広げる恋愛ファンタジー。魔法女子学園の助っ人教師共々宜しくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n2876dv/

※他にもいくつか連載中の作品がありますので、宜しくお願い致します。

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