第881話 「アドリーヌの帰郷⑳」
やはりルウは優しい。
実家との問題解決の為に、自分には及びもつかない事をいっぱい考えてくれている。
聞いていれば大変手間のかかる事もありそうだ。
それは全て自分の為にしてくれている。
ホッとしたアドリーヌは大きく息を吐く。
アドリーヌの問題解決にあたって、まだ何も始まっていないのにもう未来は明るく見える。
そんな中、ルウとエドモンの話は進んで行く。
「コレット家との取引話をキングスレー商会にだけ持って行くと後で発覚した時に揉めるとか、バートランドの取引では他の商会との兼ね合いもあるだろう。悪いが、調整は爺ちゃんに任せる」
「ふむ、分かった」
考えた政策を実施する為の根回しと調整は政治家の得意とする分野だ。
老獪なエドモンには容易い事である。
「だから王都ではキングスレー商会の支店に、ブシェ商会他いくつかの店も噛ませたい。基本的には入札にするつもりだ。もし揉めそうならフィルに相談する」
「ほう! 色々と考えているようだな」
「ああ、冒険者ギルドへも結構な仕事の発注が出来ると思う。このような時はどこかだけ特別扱いしたり、対価を払わず頼み事だけしたいとか、何かをくれという一方的なお願いは良くない」
ルウの考え方は大事だ。
今回の提案は完全にスケールの大きな『仕事』という事になる。
となると、血縁や情によるコネだけで通そうとしたら破綻しかねない。
脇を甘くせず公正にして、利害関係をはっきりさせておくことが大切なのだ。
エドモンはそんな事を言ったらまたフランに怒られるとは思いながら、ルウに政治家の修業をさせるか、大きな商会も任せてみたいという欲求にかられる。
「ははは、ギブ&テイクという事だな。ところでギルドの王都支部に関してはもう報告が来ておる。お前の嫁へ大層な手を打ってやったそうだな」
エドモンの下へもう冒険者ギルド王都支部の『改革』の報告が来ているらしい。
多分本部に来訪していた総ギルドマスターのクライヴ・バルバーニーとミンミからすぐ話が行ったのだろう。
『大成功』だという、ふたりからの賛辞付きで……
しかしルウの表情は変わらない。
いつもと同じく穏やかなままだ。
「大した事はしていない、俺はアイディアを出しただけさ。後はミンミとサブマスター、そして従士達が頑張ってくれたよ」
「相変わらず奥ゆかしいな……お前のやった方法はギルド総本部でも取り入れる事に決定した。実施すればこちらの接客も著しく改善されるだろう。その件でお前と少し相談はしたいものだ」
エドモンは報告を聞いてすぐこの街にある『本部』へも採用を決定したらしい。
このような臨機応変さがエドモンの長所なのだ。
ルウはというと、またエドモンの役に立てたと嬉しそうである。
「ははっ、よかった! とりあえず俺の相談は以上だが、改めて爺ちゃんには別の相談にも乗って欲しい」
「成る程! その様子だと策はいくつもあるのだな? では儂はお前の言う最後の手段とやらの根回しはしておこう。よいか、アドリーヌ!」
「は、はい!?」
またいきなり話を振られて、アドリーヌは吃驚した。
例によっておかまいなしに、エドモンは話し続ける。
「確率は低いだろうが、不幸にもルウの作戦が全部失敗した場合は儂の出番だ」
「エドモン様の?」
「そう、儂の出番だ! まず儂はデュドネへお前の勘当を解けと命じる」
「は、はい! あ、ありがとうございます」
「問題は……儂の指示に対してもデュドネが駄々をこねた場合だ」
「父が……エドモン様に逆らうのですか?」
父がエドモンの指示を聞かない。
それは下手をすると……ヴァレンタイン王国への反逆にあたる?
アドリーヌはそんな心配をした。
実際はこのような件ではそこまで大袈裟にならないだろうが、王家とは気まずくなるだろう。
そうなれば実家はアドリーヌとは完全に『縁切り』するに違いない。
コレット家から完全に縁切りされれば、アドリーヌは貴族ではなくなる。
それどころか家族も居なくなる。
そうなってもアドリーヌ自身は構わない。
気にしない。
愛するルウが居る!
新しい家族も居るのだから。
しかしエドモンは『天涯孤独』になるアドリーヌが可哀そうだと考えたようだ。
「うむ! 世の中に絶対という事はない。万が一の場合、お前は儂の娘、すなわち養女となるのだよ」
「よ!? 養女?」
「そうだ! お前は一旦、アドリーヌ・ドゥメール、つまり儂の娘となり、しがらみを捨ててから晴れてルウと結婚すれば良い」
アドリーヌは今度こそ本当に驚いてしまった。
エドモンは万が一、父が命令拒否したその先まで考えてくれたのである。
「儂の娘になるのは……嫌か?」
しかめっ面で聞くエドモンに、アドリーヌは緊張して思い切り噛んでしまう。
「ととと、とんでもありません! 感謝致します! あ、ありがとうございます!」
初めて会ったこの私の為に……
アドリーヌはしかめっ面から一転して微笑むエドモンに対して、深々と頭を下げていたのであった。
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