第878話 「特別閑話 シルフの悪戯」
本日『4月22日』は書籍発売日です。
今回は書籍発売記念の特別閑話です。
ルウがフランと初めて出会って、助けた直後のエピソードです。
ぜひお楽しみ下さい!
風の精霊は面白くない。
大好きなルウが昨日、見知らぬ女の子を拾ったからだ。
風の精霊と同じ金髪で碧眼を持つ人間の女の子である。
気持ち悪い奴らに追われて、逃げ込んで来た。
変な女の子だ。
性格は暗いし、精霊魔法も使えない。
加えて生意気である。
命を助けて貰った癖に、ルウの行き先まで変えるよう命令したのだから。
ルウもルウであった。
あんな得体の知れない化け物共は風の魔法でちょちょいと倒せるのに、火蜥蜴に倒させた。
折角呼ばれるのを期待してワクワクだったのに、風の精霊である自分を召喚してはくれなかったのだ。
そういえば最近ちょっと火蜥蜴を贔屓にし過ぎるのも癪である。
この人間の街へ来る時も私のお陰で飛んでいるのに、女の子を抱っこなんかしてあげていた。
その上、昨夜この女の子のウチに泊まった。
凄くがっかりした。
でも良い事もあった。
あの子を別の部屋で寝かせてからは、ずっと自分と一緒に居てくれたから。
水の精霊も一緒だったのがちょっと悔しいけど……
今朝、ルウはあの変な女の子と出掛けるようだ。
またあの子、やたらにはしゃいでいる。
子供のようにはしゃいでいる。
馬鹿みたい!
そして何?
生意気!!!
ルウの隣にぴったり並んでる。
私のベストポジションを取ろうとしているの?
プンだ。
あ、そうだ!
風の精霊は少しだけ生意気な女の子へ仕返しをする事にした。
今の季節は冬の冷たい風を吹かせるのをやめて、温かい春の風を吹かせるようにと、空気界王様から命じられているけれど……
ほんのちょっとだけ悪戯してやろう。
そうしよう。
ぴゅう!
風の精霊は、ルウがフランと呼ぶ変な女の子へ冷たい風を「ふう」と吹き込んでやった。
「きゃっ、冷たい」
何か反応が大袈裟だ。
ちょっと冬の風を息に乗せて、ひやっとさせただけなのに。
身体をぶるぶるっと震わせている。
ルウがフランへ声を掛けている。
優しそうに微笑んでいる。
いつもは自分に向けてくれる笑顔なのに。
ああ、またふたりが仲良くなってしまう。
これでは逆効果よ。
風の精霊は悔しそうに口を尖らせた。
仕方なくふたりについて行く風の精霊はとんでもない光景を目撃する。
にぎやかな街を歩くふたりの前を、変な奴らが塞いだのだ。
柄の悪い下品な男達だ。
生意気そうな少年が一歩前に出てフランをからかっている。
何?
あの子ったら言い返さないの?
頬でも思いっきり張れば良いのに!
何、怯えているの?
風の精霊がそう思っていたら、ルウが前に出た。
ああ、そう、そうよ。
こんな時、ルウは黙っていない。
私達女子を守ってくれるのよ。
でもあの子ったらまだ怖がっている。
う~ん、仕方がない。
少し助けてやるか!
気配を感じてルウが振り返ると、怯えるフランを守るように見覚えのある精霊の少女が両手を広げて立っている。
腰までの長い金髪に碧眼、目鼻立ちの整った顔、細身の身体に透明な光沢のある布の衣を纏っており、この世のものとも思えぬ美しい少女。
風の精霊はちょっと拗ねたように、ルウを見つめていたのであった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
※書籍化を記念して4月21日から5日間、4月25日まで連続で更新させて頂きます。
4月26日以降は今迄通りの更新ペースに戻る予定です。
※3月6日、10、17、24、31、4月7、11、14、21日付活動報告にて、書籍化に関して情報をお知らせしています。
4月21日付けの書籍化情報⑧では、特定店舗様の数量限定の購入特典情報や実施中の出版社様企画も合わせて告知していますのでぜひご覧下さい!




