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第866話 「アドリーヌの帰郷⑦」

 翌8月16日早朝、ブランデル邸……


 昨夜大広間に置かれていたベッドはとっくに片づけられていた。

 そして既に朝食も済んでいる。


 いよいよルウとアドリーヌが出発する。

 ふたりを見送る為に、全員が大広間に集合していた。


 結局……

 ジゼルの提案した、大広間で家族が一緒に寝るアイディアは大成功であった。

 朝食の際には今迄以上に家族間の会話が弾んでいたからである。

 当然、ジゼルは鼻高々であった。


「どうだ、アドリーヌ姉。ナディアなんかに比べれば私の方がずっと家族への貢献度が高いと分かっただろう」


「うふふ、そうね」


 アドリーヌが答えると、ただでさえ高くなっていたジゼルの鼻は天に向けてぐんぐん伸びた。


「ははははは! ナディア、聞いたか。アドリーヌ姉は私の理解者だ。お前みたいにいちいち難癖をつけたりしない」


 何かにつけてナディアに勝ち誇りたいジゼル。

 機会があればジゼルをいじりたいナディア。

 これはもう宿命ともいえる因果関係である。


 だからナディアはひと言、告げたいようである。


「へぇ! でもさ」


「な、何だ? 何が言いたい?」


「ボク、アドリーヌ姉が帰って来たら、妻としては勿論だけど風の魔法使い同士で団結しなくちゃと思って」


 風の……魔法使い同士?

 ジゼルは思わず呆れてしまう。

 何を小さい事をナディアは言っているのだと……


「はぁ!? 何だ? その派閥のような狭量な言い方は」


 じと目でナディアを見詰めるジゼル。

 そんなジゼルの冷たい視線を跳ね退けるように、ナディアはきっぱりと言い放つ。


「派閥とかじゃあないよ、同じ属性同士の絆だ」


「絆?」


「ジゼル、君も水の魔法使いとして同じ属性の魔法使いであるオレリー……そして水の妖精(グウレイグ)であるアリスとは特別に通じ合うものがあるだろう?」


 ナディアに言われて、ジゼルには思い当たる部分がある。

 今迄単なる後輩だったオレリー、そして人外である筈のアリスが好きで堪らない事がある。

 凄く近しい存在に感じる事がしょっちゅうなのだ。

 その特別な感情が、ナディアのいう同じ属性同士の絆だとしたら……


「う! た、確かに……」


 同意して思わず頷いたジゼルに、ナディアは笑顔を向けた。

 分かるだろうと言うように……


「だから、ボクは待つ。帰って来たアドリーヌ姉と新たな強い絆を結べると確信しているもの」


 ナディア同様、アドリーヌも昨夜からひと際大きく胸が高鳴りっ放しだ。

 ルウの妻達が……家族としてとても愛おしい。

 この感情が新たな絆なのだろう。


「ありがとう、ナディア」


「いいえっ、アドリーヌ姉、気を付けて。実家の家族と上手く和解出来ると良いよね、ボク祈っているよ」


「ナディア……」


 自分を労わるナディアの言葉に感動して、上手く喋れないアドリーヌ。

 片や、ジゼルは悔しそうである。


「むむむ、やはり口だけはナディアに敵わないか……」


 耳聡く、ジゼルの言葉を聞きつけたナディアが眉間に皺を寄せた。

 当然ながら反論する。


「何だよ、口だけって……一杯あるじゃないか、ボクがジゼルに勝っているところ」


「ど、どこがだぁ! い、言ってみろ」


 またまた始まりそうな新たな口論に、アドリーヌは苦笑した。

 他愛がないと思ってしまう。


 だが、ふたりの口論がエスカレートするとルウとアドリーヌの出発予定がずれ込んでしまう。

 フランが「めっ」という感じでストップをかける。


「こらこら、ジゼルもナディアもいい加減にしなさい。そろそろ旦那様達が出発するわ」


「「はぁい」」


 素直に返事をしたジゼルとナディア。

 フランは「うんうん」と頷いた。

 そしてアドリーヌへ向き直る。


「アドリーヌ……昨夜の私のアドバイス……忘れないでね」


「ええ、分かったわ……フラン」


 フランの昨夜のアドバイス……それはごく簡単な事であった。

 ルウと話す時……アドリーヌの方からお願いして極力念話で話すようにという事だ。


 念話……それは魂と魂との会話。

 心と心の直接の会話と言って良い。


 アドリーヌはルウを信じている。

 心から愛している。

 もしアドリーヌが念話によりルウと心と心を直接通い合わせたら……

 一気にルウとアドリーヌの『距離』は縮まるだろう。


 フランは敢えて念話に関して詳しい話はしていない。


 ただ自分の経験を踏まえて、アドリーヌの目の前の扉を開けただけである。

 その扉の先にある、答えの見えない道をどのように進むのか……それはアドリーヌ自身で判断して歩まねばならない。


「うふふ、何かあれば私も力を貸すわ。旦那様から指示があれば私もすぐ駆けつけるから」


「ありがとう、フラン」


 アドリーヌはもうフランと呼ぶ事に躊躇してはいなかった。

 魔法女子学園では上司と部下だが、このブランデルの屋敷でふたりはもう同志なのである。


 そして……

 フランの音頭で、アドリーヌへ激励のエールが送られる。


「せ~のっ、はいっ!」


「「「「「「「「フレー、フレー、アドリーヌ!」」」」」」」」


 大広間に響く応援の声。

 アドリームは瞼の裏が熱くなって来る。


「み、みんな……」


「「「「「「「「頑張れ、頑張れ、アドリーヌ!」」」」」」」」


「あ、あ、ありがとう! みんな、い、行って来ます。そ、そして必ずこの屋敷へ帰って来ますっ!」


 アドリーヌは盛大に噛みながら、大きな声で宣言した。

 

 また!

 また、緊張して噛んでしまった。

 穏やかで堂々としていたいのに……

 

 アドリーヌは思う。

 『家族』の前ではつい素の自分が出てしまうと。


 でも構わない。

 家族の前で飾る必要なんかない。


 妻達は次々とアドリーヌへ声を掛ける。


「待っているよ」

「信じてる」

「気をつけて」


 アドリーヌは感じている。

 妻達の声援が自分の力になると。


 そろそろ頃合いと見たのだろう。

 手を挙げたルウが、出発の宣言をする。


「じゃあな、行って来る。また連絡は入れるぞ」


「「「「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」」」」


 妻達の送迎の声が掛かった瞬間、ルウとアドリーヌの姿は煙のように消え失せていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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