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第865話 「アドリーヌの帰郷⑥」

【書籍化決定のお知らせ】皆様のご愛読、応援のお力により『ホビージャパン様』のレーベル『HJノベルス様』から『4月22日』発売予定となりました。ありがとうございます。

※詳細は活動報告にて!


 結局、ジゼルの『雑魚寝風』提案は採用された。

 妻達の間で議論は多少交わされたが、最終的に決めたのは、やはりルウであった。


 結果、アドリーヌも含めて大広間で一緒に寝る事になり、ルウとアルフレッドが家族全員のベッドをせっせと運んでいる。

 何故か『力仕事は男の甲斐性だ!』という事らしい。


 当然ながらジゼルは得意満面だ。

 勝ち誇ったその言葉は、フランはともかくとしてナディアへと向けられている。


「そうら見ろ。人の事をオーガとか散々言っておいてナディアめ、私の素晴らしさが良く分かるだろう?」


 自分の勝利を確信したジゼルから話を振られたナディア。

 しかし……

 ナディアは参ったという表情を見せるかと思いきや、余裕綽々で切り返す。


「うん、分かった。ジゼルはオーガよりはほんのちょ~っぴりマシだよ。これで良い?」


「な!? ほんのちょ~っぴりとはなんだ!?」


 ほんのちょ~っぴりオーガよりマシ?

 ナディアの奴、何という言い草だろう?


 驚いたジゼルではあったがまともには怒らず、少し捻って反撃する。


「ナディア、聞け! もし、もしもだぞ。百歩譲って私がそうだったらお前だってオーガと同列と言う事になる。何故なら私とお前の学園の成績は最近殆ど変わらないからな」


 ジゼルの言う通り、最近のナディアの学業成績は著しく伸びていた。

 3年生トップのジゼルとほぼ同列で変わらない。

 ジゼルはそれを今の話において強烈に皮肉ったのである。 


 しかしオーガと同列とは。

 聞き捨てならない事を言われたナディアも負けてはいない。


「ええ!? 何でボクが? この体型のどこが? すっごく細身じゃないか? オーガとは似ても似つかないよ」


 ジゼルが「はぁ?」という怪訝な表情でと言う。

 ナディアの反論の論点が見事にずれているからだ。


「バカモノ! 体型の事など言っておらんわ。私は知恵の事を言っているのだ」


「へぇ! でもさ、うはうは言って鼻息が荒いジゼルって、怒ったオーガそっくりだよ、体型が」


 ここがナディアの上手いところである。

 筋肉を誇示するオーガのポージングまでして、とても確信犯的でもある。

 

 いつの間にか、ナディアは巧みに論点をすり替えてしまったのだ。

 ジゼルは自分でも気付かないうちに、ナディアと同じ土俵に上がってしまっている。

 

「だから! 体型の事は言ってないとさっきから、と、いうか、違う! 私はオーガみたいな筋肉ダルマではないっ! 均整がとれた身体だぁ!」


「へぇ? どこが均整がとれているって? ボクと違ってガチムチだよぉ」


「ななな! こ、このぉ!」


 むきになって反論するジゼルだが、所詮口ではナディアに敵わない。


 やりとりが更にエスカレートしそうになった瞬間。

 止め役のフランが手を挙げる。

 これもお約束だ。


「ほら、ジゼル、ナディア……早く寝る準備をして。念の為に言っておくけど、今夜は大広間だからあまり露出度の高い肌着は駄目よ」


 フランの指示にまたもや反応したのはジゼルである。


「むむむ、では肌着無しは駄目か?」


 肌着無し?

 とんでもない!

 

 呆れた表情のフランが手を横に振る。


「もう、そんなのダメ、却下です」


「むうん」


 不満そうに鼻を鳴らすジゼルに、またナディアが突っ込みを入れる。


「あはは、ジゼルって、気持ち良いからたまにすっぽんぽんの全裸で寝るんだって、ホントにしょうがないね~」


「ああっ、ナディア、お前、この裏切者! おととい試してみて凄く気持ち良かったよって、言ったではないか」


 ナディアも実は全裸での就寝を試していた。

 当然「てへぺろ」で誤魔化す。


「あ、あれ? ボクそんな事……い、言ったっけ?」


「ああ、昨日確かに言った! この嘘つき女狐めぇ」


 ジゼルとナディアのやりとりがまた再燃しそうになったので、再びフランが釘を刺す。


「ほら、ふたりとも! ベッドの設置が済んだわ、寝るわよ」


「りょ、了解!」


「フラン姉、分かった」


 ジゼルもナディアも分かっている。

 こういった口論がもはや友情の証なのだ。

 その証拠にフランから注意されたらピタッとやめた。


 アドリーヌはさっきから笑顔が絶えない。

 家族間でこういった楽しいやりとりが、あちこちで飛び交っているのだ。


 アドリーヌは笑顔のまま指定された自分のベッドへ入る。

 やがて大きな魔導灯が消され、大広間は小さな魔導灯のみになりほのかな明かりが照らすという趣きになった。


 さあ……

 いよいよ明日朝早く、この屋敷を出発だ。

 それもルウが教えてくれたが、王都の正門を出ると言う正式な手続きを踏まず、いきなり転移魔法で出発するという。

 更に道中は飛翔魔法も使うと言うのだ。


 転移魔法!?

 飛翔魔法!?


 両方とも……

 いにしえの大王や大賢者が行使したと伝えられ、あるいは魔法に長けた異民族のアールヴでも限られた者しか使えないと噂される伝説の大魔法である。

 

 人が不可思議な異界を超え、地上よりはるかに高い大空を飛ぶ。

 そのような力を目の前のルウが使う?

 衝撃の事実にアドリーヌは目を大きく見開き、口をあんぐりと開けてしまった。


 「あまり出発直前に教えるとアドリーヌが吃驚するわ」とフランが提言して、ルウから秘密を教えて貰ったのである。

 

 そして魂と魂の会話である念話も凄い。

 言葉を発さず黙っていてもお互いに意思の疎通が出来るとは……


 アドリーヌの今迄の常識が、がらがらと音を立てて崩れて行くくらい、大きなショックは確かにあった。

 だけどそれ以上の未知の体験と学習への期待感がアドリーヌを満たしている。

 

 気が付けば最初にあった不安はすっかり消えていた。

 実家における複雑にねじれてしまった人間関係の修復。

 そして愛するルウとの深い絆の構築…… 


 これからするのはとても大変な旅だというのに、アドリーヌはまるで遠足前の子供のようにわくわくしながら眠りに就いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

※3月10日付活動報告にて、書籍化に関して新情報をお知らせしています。

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