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第858話 「冒険者ギルドの嵐⑤」

 やがて応接室へミンミが入って来た。

 悪魔達は一斉に立ち上がって礼をする。

 主ルウの妻であると共に、自分達の雇い主であるギルドマスターのミンミに敬意を表したのである。

 ミンミはアモン達を見るとわずかに微笑む。


「今日は忙しい中、参集して頂き感謝する。早速だが、雇用契約を双方ではっきりさせたうえで、仕事に取り掛かって貰いたい」


「了解だ」


 悪魔達を代表してアモンが返事をする。

 続いて他の悪魔達も一礼した。

 ミンミは淡々と話を続ける。


「給金は各自に契約金が金貨100枚、更に別途月額で金貨100枚を支払う。仕事内容はこのギルドの実績作りと綱紀粛正だ……質問はあるか?」


 ミンミの質問に対して、まずアモンが手を挙げる。


「待遇はその条件で全員文句なしだ。というか、俺達は報酬など幾らでも構わない。そして実績作りとは……基本的に魔物討伐で構わないのか?」


 アモン達は王都の近辺に出没する魔物の討伐依頼を主に受けていた。

 簡単には解消出来ない悪魔の戦闘本能を爆発させる事の役にも立っている。


 ミンミも当然知っているのだろう。

 だから快諾する。


「構わない、今迄通りガンガン魔物を狩ってくれ。ギルドとしては王都近辺の脅威解消や治安維持が一番助かるから。但し何か他にあなた方へ妥当な依頼が出た時は相談させて貰う」


「分かった……あともうひとつだけ聞いておく。もしルウ様から指示があった場合はそちらの案件を優先して構わないか?」


「当然だ! それにもし判断が微妙な場合、旦那様が命令の際にどちらを優先すべきかも指示してくれるだろう」


 ミンミの答えを聞いてアモンが納得して引き下がると、今度はオセが手を挙げた。


「うは、ミンミ奥様。アーモンはそう言うが、俺としてはそんなに頂けるとは助かるぜ、何せこちとら貧乏役者なんでね」


 苦笑したミンミが頷くと、オセは矢継ぎ早に次の問いかけをする。


「依頼をこなして受け取った報酬も今迄通り貰って良いんだよな」


「ああ、この報酬とは別に遂行した分は全額受け取ってくれ」


「うはは、仕事を世話して貰ったルウ様へ、仲介料の上納金を払わなくて良いとはラッキーだ」


 オセの軽口を聞いて、今度はマルコシアスが苦笑した。

 ルウやミンミはそんなにみみっちい人間ではない。

 真面目なマルコシアスにしてみれば冗談でも愚問である。


「ミンミ様、今度は私から質問だ」


「マルガ、何だ?」


「ああ、職員の勤務態度だが……早速目の当たりにした。……酷いな」


 先程のやりとりを思い出したのであろう。

 マルコシアスの眉間に深いしわが寄った。


 ミンミも同様に顔をしかめている。


「そんなに酷いか?」


「ああ、酷い、酷過ぎる。挨拶も碌に出来ない、注意されたら逆切れ……最低だ」


 マルコシアスは吐き捨てるように言うと、金色の瞳でキッとミンミを睨む。

 決してミンミ個人に悪意を持ってはいないが、大変な迫力であった。


 しかしミンミは平然としている。

 何事もないように聞き返す。


「そうか、済まない。で、どうする?」


「思い切りナタを振るいたい。先ほどアーモンとも話していたが……それも大ナタを、な」


「大ナタか……構わないぞ」


ミンミから了解を得たマルコシアスの顔がぱあっと輝く。


「そうか、じゃあ私達へ人事権も与えてくれ。悪即斬! 私なら先程のようなぐうたら職員は即解雇だ」


 マルコシアスらしいやり方である。

 白は白。黒は黒。

 というはっきりした対応が大好きなのである。


 しかし、アモンが手をさっと挙げた。


「まあ、待て」


 自分の主張を止められると分かって、マルコシアスは不満顔である。


「アーモン! 先程は私に同意したのに、いざとなったら臆したか」


「そうではない。お前は俺と違って人間と共に暮らし始めて日が浅い。ここは俺に提案させてくれ」


 マルコシアスは、先日アモンとじっくり話し込んだ。


 王都セントヘレナでの生活に慣れる為、勝手やしきたり等を確認した際にアモンがルウの指示で鉄刃団という人間の愚連隊と暮らし、鋼商会という真っ当な集団に変えるまでの経験を聞いたのである。


 経験を積んだアモンから、人間への理解が足りていないと言われたマルコシアスは、不本意ながらも引き下がるしかなかった。


「むうう……」


 反論出来ず、唸るマルコシアスにアモンは言う。


「ははは……俺達悪魔と違って人間とは魂が弱くて未熟だ。成功と失敗を繰り返しながら徐々に成長して行く。失敗をしても挽回のチャンスを与える事が必要なのだ」


 分かっている。

 マルコシアスにだって人間と言う生き物の業は理解している。

 だが、悔しい。

 極端な負けず嫌いのマルコシアスは少しでも一矢報いたかった。


 なので敢えて意見を言う。


「で、では! 先程のような男を罰することもしないのか?」


「いや、俺もそこまで甘くはない」


「なら! は、早く、その提案とやらを言え!」


 マルコシアスの性急さが出たが、アモンはこれからの事を考えていた。


「焦るな、マルガ。ミンミ様の提示した契約条件と仕事の内容の折り合いはついた。実務に関してはミンミ様の腹心のサブマスターも交えた方がよかろう」


「俺もそう思う」

「俺もだ」


「ううう」


 これまた確かに正論。


 ヴィネとオセもアモンに賛成したので、マルコシアスは先程同様に黙るしかなかったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ピエレットを加えて、また話し合いが再開された。

 契約と仕事内容の再確認、そして通常のやりとりはピエレットから指示を貰うということも確認される。

 案件の優先順位お決定や調整など一部を除いてはピエレットが仕切る事になったのだ。


 これはミンミに続く冒険者ギルドの生え抜きを育てるという意味もあった。

 ピエレットにサブマスターとしての実務をどんどん積ませるのだ。


 さていよいよアモンの提案内容が明かされる。


「俺の提案だが、主に職員対策だ。まずは飴と鞭を使い分ける事さ」


「飴と鞭?」


「ああ、飴とは報償金だ。いくら働いても同じ給金だと人間はやる気が出ない。この支部の名誉と共に業績を上げる意識を身につけさせるのだ」


「業績を上げるというと……」


「簡単だ、ギルドの売り上げと利益を共有する。そして半期ごとに業績が上がれば賞与以外に割増金を出してやるのだ」


 ギルドは王国がかかわっており、純粋な営利団体ではない。


 しかし支部ごとに売り上げは毎月計上されていて、本部と支部を運営する為の重要なデータとなっている。

 アモンが言うには、王都支部の売り上げと利益をアップさせる事を職員に徹底的に認識させるべきだというのだ。


 アモンの提案にはかつて人間と共に鋼商会を共同運営した事が活きている。

 マルコシアスはそう思った。

 しかし『鞭』はどうするのだ?

 

 そんなマルコシアスの疑問に対して、即座に答えるが如くアモンは言う。


「そして鞭だが、マルコシアスの言う通り職員の挨拶をしっかりやらせると共に、言葉遣いや勤務態度も徹底的に改めさせる。守らない者は訓戒、懲罰、減俸、それでも改めない場合は解雇だな」


「おう! さすがアーモンだ、良く分かっている」


 やっと自分の意に沿う提案が出てマルコシアスは満面の笑みを浮かべた。

 しかしアモンの話はまだ続くようである。


「更にもうひとつ。限られた職場の中で同じような仕事を毎日しているから腐る! だから職員をどんどん出向させる」


「出向?」


「ああ、出向させてよその飯を食わせる。そうすれば自分達がいかに恵まれた環境で働いているのかが分かる。相手に気配りする事も覚えるだろう」


「それは良い!」

「確かに!」


 ミンミとピエレットが叫ぶ。

 そして顔を見合わせて頷いた。


「ふふふ、鋼商会のツテで俺は様々な仕事先を知っている。職員を派遣すれば育てる為の良い研修になる」


「たまにはボランティアも良いと思うぜ!」


 アモンの意見を聞いたオセも声を張り上げる。


「俺は劇団の慰問で修道院や孤児院に行くが、とても感謝して貰っている」


「ほう! オーセィもたまには良いことを言う」


「何だよ、ヴィーネン、失礼な!」


 突っ込みをしたヴィネへ、オセが拳を突き出すが当然冗談である。

 ふたりは拳同士を軽くぶっつけていた。


 マルコシアスもさすがに納得している。

 やはり経験は糧となるのだ。


 私も……頑張るぞ、人間をもっともっと理解する。

 アモン達に負けないように……


 マルコシアスは、強くそう決意していたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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