表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
851/1391

第851話 「ジゼルの叫び」

 自分は挑戦者で人生はこれからだと言い切ったベルナール。

 力強い先輩の言葉を聞いて、ルウは笑顔を見せる。


「ええ、ベルナール先生からは凄い魔力波オーラを感じますよ。気合充分ですね」


 ルウの言葉を聞いたベルナールはにっこり笑って頷く。

 自分でも力がみなぎるのが分かるのだ。


「ああ、もしかしたら大学を受ける時よりもワクワクしているかもしれないよ。何せ未知の部分が多い。そしてあの頃の若さの代わりに今の私には分別と経験がある」


「若さの代わりに分別と経験……確かにそうかもしれません」


 人間とは経験を積み、成長する。

 若さ故の荒々しさと無鉄砲さが徐々に影を潜め、年相応に落ち着いて分別と経験を得るのだ。

 今のベルナールはそれを強く実感しているのであろう。


「分別と経験とは時間をかけてゆっくりと得るものだ。そして経験とは知識の吸収も伴う」


「そうですね。時間を掛けてしか得られない経験と知識を文字で読み取り学びたいという欲求故に人は書物を読むのでしょう」


「確かに書物は素晴らしい。先人の経験と知識が詰まっている。だが所詮実践に勝るものはない。若さと経験はお互い同時には得られないのだ」


「全く同感です」


「だから人は皆、人生を……過去を振り返る時、若き頃の自分に今迄の経験が在れば良いのにと願う。しかしそれは一部の例外を除いて不可能な願いなのだろう」


「一部の例外?」


「ああ滅多に居ないが、ごくたまにそのような存在が居る。経験に裏打ちされた実力を得る為の時間が極端に短い者達だ。人はそれを天才と呼ぶ」


「成る程」


 天才とは生まれついて並外れた素質を持つ者達である。

 ベルナールは大学に入ってから、自分がいかに凡才かを痛感したという。


「過去を振り返れば私も井の中の蛙だった。世の中は広いとつくづく感じたよ! 自分を含めて殆どが凡才と思った方が良い。まあ稀に凡才と思っていたのが、急に眠れる素質が目覚める場合もあるがね」


「仰る通りですが、眠れる素質を本当に目覚めさせるのには絶え間無い努力が必要だと思います。真の天才とは奢り高ぶらず自分の素質を究極まで磨く者、それを成し遂げた者です。そこで差が生まれるとしたらベルナール先生の仰る時間の差なのでしょう」


「全く同感だ。私は天才とは幅広い意味で捉えている。いわばピンキリだ。自分を究極まで磨き上げた数少ない最高の天才と、原石のままで終わる普通の天才達といっても良い」


 同じ天才でも差がある事を宝石に例えたベルナールの言葉は言い得て妙である。

 万人誰もが認める、真の天才とはあまり出ないものなのだろう。


 ルウは同感して頷く。


「はい! 全てにおいて何もしないで真の実力を得る事など俺はないと思います」


「ああ、天才でさえそうなのだ。だから私のような凡才が何の努力もしないで天才の力を望むなど無い物ねだり、そして天才への羨みなど無為な時間の過ごし方さ。それより自分の今出来る事を考え、前を向いて行動した方が良い」


 大学で過ごした時間。

 そしてこれから踏み出そうとする人生。

 ベルナールの考え方に、ぶれはない。


「そうですね。悩み考える事は大事ですが、考え過ぎて何もやらなかったら悔いが残る。自分自身で決断し、一歩踏み出して前に進んだから結果が生まれ、何らかの答えを知る。決して正解ではないかもしれませんが、その答えから新たな課題と決意が生まれるという事もある」


 確かに思考しているだけでは何も生まれない。

 今、自分がここに居るのは自分自身で決めて行動した結果である。

 それが正解だと言い切れる事は少ないかもしれないが、何もやらずに後悔するよりは良い。


「その通り! まあ、どこまで考え悩んだら一歩を踏み出すのか? その見極めが難しいのが辛いところだが……だから凡才たる人間は悩むんだろうね」


 ベルナールも考え方は一貫していても、得られた結果に迷い悩み、一喜一憂した事はあるのだろう。

 だが決して後悔だけはしないようにと前を向いて来たのである。


「はい、でも悩まなければ人間の進歩はないでしょう。俺もいつも悩んでいます。たまに悩まない事は幸せだという人もいますがね」


「ああ、私は悩むよ! 悩みという茨を切り拓いた先に道はあると信じる、自分で決めて自分の意思で進む。まずはロドニアへの道を切り拓く」


「頑張って下さい。俺は理事長達へ、ベルナール先生の事を話しておきますから」


「ああ、頑張るさ。これからやる事がやまほどある。私は受験生だからね」


 時間が経ち、学生食堂にも少しずつ人が増えて来た。

 そろそろ昼食時なのだ。


 頃合と見たのだろう。

 ベルナールが辞去を切り出す。


「では私はこれで失礼するよ、戻ってやる事が山積みだ。ルウ先生、いろいろとありがとう」


 ベルナールは一礼した。

 晴々した表情である。

 ルウも同様に頭を下げる。


「はい! 俺は食堂に残ります。では、いずれ学園で」


「ははは、たくさんの待ち人ありという事だね」


 笑顔のベルナールは立ち上がり、手を振りながら去って行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ベルナールが去り、昼間近になって学生食堂はどんどん人が増えていた。

 ルウは追加オーダーした紅茶を飲みながら、魔導書を読んでいる。


「ははっ、来たか……」


 ルウがぽつりと呟いた。

 フラン達が学生食堂へやって来るのが分かったようだ。

 元々、昼食を皆で摂る約束をしている。


 ルウの言葉から間を置かず、学生食堂の入り口にフラン達が現れた。

 先程のルウ同様、魔法で事前に位置確認をしていたのであろう。


 ルウの姿を認めて皆、笑顔が溢れている。

 そしてつい!


「あああっ! だんな! あ! さ、さまぁ……」


 誰かの大声が響き渡る。

 声を出したのは……ジゼルであった。

 『だんな』と呼ぶ声がとても大きく、すぐ自分でもしまったと思ったのか『あ』を挟んで続く『さま』は小さい。


 しかし大声のせいでジゼルに対して一斉に視線が集中する。

 食堂にいた殆どの人間がジゼルを見て、中には顔をしかめる者も居た。


「あ、あううう……」


 注目されてうろたえるジゼルに、ルウがフォローする。


「おう! ここだ、早く来いよ!」


 本来、学生食堂で大声を出す事は禁じられている。

 ルウは声を出して、自分に注目が移ったと見るや無言で手を大きく打ち振った。

 フラン達はささっとルウが座っている席へ参集したのである。


「うふふ、お疲れ様」

「あううう……」

「ルウ先生」


 フラン、ジゼル、ナディア、ラウラ、そしてアドリーヌ。

 ルウの周囲に華やかな笑顔が満ちた。

 全員一緒に食事を摂るという願いが天に通じたのか、幸いルウの席の周囲はまだ空いている。


「とりあえず皆、座ろう。座ったらメニューを決めて取りに行こう。ここはセルフサービスなんだ」


 ルウの説明を聞いて反応したのが、フランである。

 学生食堂のシステムをルウが既に知っているからだ。


「セルフサービスって、もしかしてベルナール先生ともう食事をしたのですか?」


「ああ、もう食べた、美味かったからついお代わりもした。結構量があったぞ」


「えええっ!」


 ルウの肯定の返事に、またも大声をあげたのはジゼルであった。

 さすがにナディアが注意する。


「し~っ、ジゼル」


「だってナディア。だんな……いや、ルウ先生がもう食事は済んだって。お代わりまでしたというし、私とは一緒に食べないって事じゃないのか」


 涙目になったジゼルの嘆きを聞いて、微笑んだのがフランである。


「大丈夫! ルウ先生はいつでもどこでも元気にい~っぱい飲んで食べられるから」


「フラン姉! い、いやフランシスカ先生、そうなのですか? ルウ先生は確かに家でもお代わりするけど」


 これまたいつものようにルウを呼ぼうとして、慌てて言い換えるジゼル。

 しかし良く聞けば、無理して事実を隠そうとしているのは明白だ。

 動揺するジゼルへ、フランは余裕たっぷりな様子で確約する。


「ええ、この前バートランドへ行った時なんか居酒屋ビストロで10人前くらいぺろりと食べていましたもの、こんな学生食堂のランチなんか軽い、軽い」


「ええええええええっ!!!」


 フランの衝撃発言を聞いて、大騒ぎ禁止の魔法大学学生食堂にまたジゼルの大声が鳴り響いていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ