表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
844/1391

第844話 「フランソワーズの思惑①」

 8月15日、ヴァレンタイン王立魔法大学オープンキャンパス当日……


 ルウは魔法女子学園OGで魔法大学1年生フランソワーズ・グリモールと共に、大学の構内を歩いている。

 本来はジゼル達の付き添いとして大学へ赴いたのに、フランソワーズが強引にルウを連れ出したのだ。

 悪魔グレモリーの転生者であるフランソワーズには何か意図があるらしい。


 ルウ達がゆっくり歩く傍らを、多くの入学希望者達が急ぎ足で通り過ぎて行く。

 先程のジゼルではないが、限られた時間内でより多くの学部に関して知りたいと考えているに違いなかった。

 輝かしい未来を夢見て、期待に胸を膨らませているのだろう。

 未来を夢見るような表情を浮かべていて、ルウ達など見向きもしない。


 先頭に立って歩いていたフランソワーズがいきなり足を止めた。

 振り返ってルウに向き直ると、嫣然と微笑を投げ掛ける。


『私の創った異界に来て頂いても宜しいかしら?』


 ルウの魂にフランソワーズの念話が響く。


『まさか、大学構内では貴方と内々の話が出来ないでしょう? 異界でゆっくりお話ししましょう』


 フランソワーズのいう事には明らかな矛盾があった。

 ルウと内々で話すのなら、このように念話を使えば済む。

 上級の術者同士の念話なら他人には一切聞かれないからだ。


 ルウが矛盾を見抜いている事もフランソワーズは承知しているであろう。

 間違い無い。

 フランソワーズは確実に『何か』をたくらんでいる。

 しかしルウは敢えて『話に乗る』事にした。


『ああ、構わない』


『あははははははっ!』


 ルウが答えた瞬間、フランソワーズが大声で笑い出す。


『精霊や妖精が噂していた通りね……さすがに肝が座っているわ』


 フランソワーズは悪戯っぽい笑みを浮かべ、ルウをおだてた。

 そんなフランソワーズのノリにルウも調子を合わせてやる。


『今更褒めても何も出ないぜ』


『うふふ、じゃあ……こっちよ』


 大学構内は多くの人々でごった返していたが、フランソワーズは気にせず人ごみを縫うようにずんずんと歩いて行く。


 やがてふたりはいくつかある別棟の外れに立っていた。

 何故かここはひと気がない。

 この棟は本日使われないのであろう。

 更にフランソワーズは構内で人々の死角になる場所を知っていたようだ。


『じゃあ異界へ送るわ、ここまで来たら下手な抵抗なんてしないでね』


 フランソワーズが微笑みながら、何か呟いた。

 その瞬間であった。

 ルウの足元の感覚がいきなり消え失せたのである。

 フランソワーズが異界への転移魔法を発動させたのだ。


 ルウが消えたと同時にフランソワーズも消え失せる。

 ふたりが煙のように消えた事に気付いたのは誰も居なかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一瞬ではあるが、眩暈を感じたルウは軽く首を振った。

 だんだん意識がはっきりして来る。

 ルウが立っているのは、真っ白な世界……何もない空間だ。


 今、ここに居るのはルウだけ。

 フランソワーズはいつの間にか姿を消していた。


 一見、囚われの男という趣であるが、ルウの表情は全く変わらない。

 ずっと穏やかなままである。


『おお、殺風景だな』


 ルウが平然として言うと……


 うふふふふ!


 誰も居ない空間にフランソワーズの笑い声が響いた。

 「高みの見物をするわ」という、まるで面白がるような声である。


『成る程……俺に誰かをけしかけるつもりか』


 フランソワーズの笑い声を聞いたルウは、彼女の意図を瞬時に理解したようだ。

 しかし、そんなルウの言葉を否定するように落ち着いた男の声が響く。


『けしかけるなんてとんでもない。ルシフェル様の使徒である貴方の力量を測らせて頂くだけです』


『ははっ、やはりそういう事か』


 ルウが頷くと、いきなり異界の空間が割れてひとりの男が姿を現した。

 白花冠を被り、背中に弓を背負った壮年の男である。

 面長で頬骨が出ている。

 眉はやや下がっており、目と目の間隔は広く、目自体は優しそうな垂れ目。

 鼻は大きく唇との間が大きかった。

 どこか動物に似ている……


 ルウと同じように穏やかな表情の男はにっこりと頷く。


『はい! お嬢様がお望みになれば、それはすなわち従者たる私の望み……』


『成る程! しかし、ウヴァル……お前が単にフランソワーズの従者であるというだけでなく、ここで俺と相見あいまみえる事になったのは大いに意味があると思うぞ』


 ルウは男をウヴァルと呼んだ。

 

 彼は悪魔ウヴァル……

 ルイ・サロモン72柱と呼ばれる悪魔のひとりである。

 悪魔グレモリーの忠実な従者であり、冥界での爵位は公爵。

 狩猟の名手と言われ、37の悪魔軍団を率いると言われる。


『だが……』


 ルウは苦笑して肩を竦めた。

 ウヴァルはルウの様子を見て軽く首を傾げる。


『だが?』


『やはり少々強引だよ、やり方がな』


 ルウの言葉を聞いたウヴァルは、ゆっくりと首を振った。

 否定の意思表示である。

 言われた事には同意出来ないという意味だろう。


『お嬢様は先程、仰られたでしょう? 普段、大変お忙しいのですよ……だから貴方の出す答えを今すぐに欲しいとお求めになっていらっしゃるのです』


『……俺の出す答えか……では試してみるが良い』 


『はい! 貴方のお力は存じ上げております、だから遠慮なく行かせて頂きますよ』


 ウヴァルの身体がふわりと宙に浮き上がる。

 今迄発していたウヴァルの放つ波動の圧力が一気に上がった。

 すぐにでも強力な魔法を放てる態勢である。


 しかしルウは腕組みをしてウヴァルを見詰めたままだ。

 魔法を防ぐような、そして放つような構えも一切見せていない。


『ふむ……私の力を見切ったとでも言いたそうな雰囲気ですね』


 穏やかであったウヴァルの表情が曇る。

 僅かに眉間に皺が寄った。


『あまり舐めないで頂きたい!』


 ウヴァルの怒りが魔力波オーラとなって放出され、いきなり異界の空間に凄まじい砂嵐が発生した。


 真っ白な空間が噴き上がる砂で錆び色に染まって行く。

 宙に浮かんだウヴァルは僅かに笑みを浮かべ、無造作に腕を振る。

 

 すると!

 

 砂嵐は意思を持つ生き物のように轟音をたてて、ルウを襲ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ