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第843話 「魔法大学へようこそ③」

 ルウ達が大講堂へ入ってから、オレリー達はマノン達と合流して別行動を取り、モーラル、アリス、ミンミは多忙で他にも用事がある為、ひと通り構内を見学すると既に大学を後にしていた。

 

 1時間後……


 漸く大講堂内でのイベントが終わった。

 出口から多くの人々が続々と吐き出される。

 その中にルウ達の姿もあった。

 付き添いのルウ達はともかく、ジゼル達入学志願者の表情は何故か冴えなかった。


「ナディア、アデライドかあさ……いや、アデライド理事長よりもずっと真面目というか、平凡で四角四面なスピーチだったな」


 ジゼルが不満そうに顔をしかめた。

 話す内容が内容なので声のトーンをだいぶ落としている。


 魔法大学学長の挨拶はアデライドの話した内容と良く似ていたが、語り口は硬く面白みにかけたらしい。

 自由な校風に反して大学全般の説明は、役所的で真面目過ぎる内容だったのだ。


 ナディアの表情も同様だが、仕方無いという雰囲気である。


「う~ん……講堂には王家の人間もいらっしゃったからね。立場上、どうしても儀礼的な挨拶をしなくてはならないし、盛り沢山な大学の概要を限られた短時間でざっと説明しただけだからね」


 ラウラも同意して、小さく頷く。


「確かに学長の挨拶は……例えれば淡々と話すお役人の報告みたいでしたね」


 ジゼルは少し考え込んでいたが、首を軽く振る。


「ああ、はっきり言えば少々がっかりした。だが……切り替えよう! この後は各学部ごとに担当教授と専攻した現役学生がプレゼンをしてくれる。私は出来れば全学部回りたいと考えている」


「ジゼルは相変わらず欲張りだな。だけど学部の数まで考えたら、それは現実的に無理だろう? 希望の学部に絞った方が良い。時間切れになって行きたかった学部へ行けなかったと泣かない為に」


「にゃにおう! と、反論したいが、冷静に考えればナディアの言う通りだな……仕方が無い、事前に決めた優先順位通りに回るか……ところでラウラ姉はどうするのだ?」


「私はもう決めていますから……ピンポイントで行きますよ」


 ラウラは一見大人しい雰囲気の女性だ。

 だが内面に凜とした意志の強さを秘めている。

 ルウと結婚してから、以前あったように迷いを見せる仕草はない。


「おお、もう決めているのか? ラウラ姉は見かけによらず案外はっきりしているのだな……決断力がある」


「確かに! 大人しそうに見えて本当は違うんだね」


「ふ~ん、ジゼル、ナディア、その言い方って……私が猫を被っているとでもいうのですか?」


 静かな物言いでやんわりと抗議するラウラに、ジゼルとナディアは慌てて手を横に振った。

 ラウラはブランデル家では最も新参の妻ではあるが、妻同士仲が良い分、遠慮する事はない。


「違うぞ! 私はラウラ姉を称えているのだ!」


「い、いや! ボクだって、猫とかそんな事全然言っていないよ」


 そのような会話をしながら出て来たルウ達を、濃紺のブリオーを纏ったひとりの少女が待ち受けていた。

 

 たっぷりとした金髪は背中の半ばまであり、真っ直ぐでさらさら。

 ぴしりと鼻筋の通った美しい顔立ちで、切れ長の碧眼。

 身長は170cmを楽に超えていて、身体は全体的にしなやかで細身。

 顔も小さくて当然ながらスタイルは抜群だ。


 言わずと知れたジゼル達の先輩、魔法女子学園OGのフランソワーズ・グリモールである。

 フランソワーズは嫣然と微笑む。


「うふふ、ヴァレンタイン魔法大学へようこそ」


 フランソワーズを崇拝するジゼルは思わず直立不動で挨拶する。


「フ、フランソワーズ先輩! お久し振りです」


 しかしフランソワーズから返された言葉はジゼルにとって意外であった。


「ジゼル……私、時間を作ってあげる……たった今から、ルウ先生の為にね」


「え?」


 自分ではなくルウに用事? 

 驚くジゼルに代わってナディアが言う。


「フランソワーズ先輩、今日はですね。 ……だ、じゃなかったルウ先生はボク達の付き添いで来てくれているのです」


 ナディアの精一杯の抗議もフランソワーズには通じない。


「うふふ、知っているわ。でもね、ナディア……大人になれば物事には優先順位というものがあると分かるのよ」


「優先順位?」


「そう、優先順位。ルウ先生は今日貴女達の付き添いをするより、この私と話す方が大切なの」


「ルウ先生とフランソワーズ先輩が話す方が!?」


「そうよ、話をちゃんと聞いてから理解しないと大学では学べないわ。私がではなく、ルウ先生が私に用がある筈なの」


 何という言い方だろうか?

 そしてルウがフランソワーズにどのような用事があるというのだろうか?


「ルウ先生が……先輩に用がある?」


 ナディアはそう言うと、驚きのあまり大きく目を見開いた。

 驚いたのはナディアだけではない。

 全員がフランソワーズをまじまじと見詰めたのである。


「そう! ルウ先生は私へ、大切な話があると仰るわ、必ずね」


 今度は全員の視線がルウへ向けられる。

 ルウの表情はいつもの通り穏やかで変わらない。

 だが、フランソワーズの言葉を否定もしなかった。


「フランソワーズ、確かにお前と話したい気持ちはなくはないが……今、すぐここでか?」


「はい! 私は普段とても忙しいのです、そうそう時間は取れませんわ。ルウ先生がぜひにとご希望されているので何とか今日、時間を作って差し上げたのです」


 何と人を喰ったようなフランソワーズの台詞であろうか。

 しかし必ず意味があるに違いない。


「……分かった」


 ルウは苦笑して頷いた。


「ルウ先生!」

「どうして!?」


 フラン達はルウがOKした意味が分からない。


「大丈夫だ、俺はフランソワーズと話して来る、皆は予定通りオープンキャンパスへ臨んでくれないか」


「うふふ……大丈夫ですよ、ほんの1時間程度でお返ししますから」


 ここで冷静さを取り戻したのがフランである。


「皆、ルウ先生は何かお考えがあるわ。予定をこなしましょう」


 フランが落ち着いたのを見たジゼル達も平静さを取り戻して行く。

 ジゼルも一生懸命気持ちを立て直す。


「フラン姉、わ、分かった! ラウラ姉、ナディア……行こう! だん……いや、ルウ先生! お昼は大学の学生食堂で一緒に食べられそうか?」 


「ああ、大丈夫だ」


 ルウがにっこり笑うと、安心したのだろう。

 ジゼルは皆を促すと、無理矢理先頭を切って歩いて行ってしまう。

 フラン達もルウへ手を振って去って行く。


 去って行くジゼル達の後姿を見て、フランソワーズがぽつりと呟いた。


「うふふ! 全員、貴方が心配で堪らないらしいわね、可愛いわ……さあ、行きましょうか、ルウ」


 完全にフランソワーズのペースに乗せられてルウも少々呆れ顔である。


「強引……だな」


「私の事は『あの方』から聞いているでしょう? 分かっている筈よ」


 フランソワーズはそう言い捨てると、ルウに着いて来るように促し歩き出したのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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