第842話 「魔法大学へようこそ②」
王立ヴァレンタイン魔法大学のオープンキャンパスとは入学希望者へ構内を開放し、まず大学の雰囲気に直接触れさせる。
次に教授や先輩の学生達と交流させ、専門的な魔法学への関心を深めて貰う。
最終的には来訪した優秀な人材を大学へ入学させる事が目的である。
この魔法大学でも魔法女子学園でもオープンキャンパスの趣旨は基本的にどこも同じだ。
学内イベントも含めて魔法女子学園で行ったのと同じ光景が展開されており、大学とはまったく縁のないルウにとっては既視感を覚えるものである。
一昨日行われた魔法女子学園のオープンキャンパスで理事長のアデライドが冒頭で挨拶をしたように、魔法大学でも最初は学長の挨拶から始まるからだ。
学長が挨拶を行う大講堂前では既に3年A組担任のケルトゥリ、B組担任のルネ、そして3年C組担当のベルナールが来訪する魔法女子学園の生徒と父兄のサポートを行っていた。
サポートとはオープンキャンパスの案内と簡単なアドバイスであるが、本来は魔法女子学園の職員が行う仕事ではない。
しかし魔法女子学園が生徒に対して面倒見の良い学校だという印象を与える為に理事長アデライドの指示で毎年3年生の学級担任が出張っているのだ。
ケルトゥリ達は次々と来る魔法女子学園の生徒と父兄へ向かって大声で叫んでいる。
「は~い、まもなく学長の挨拶が始まるから、早く大講堂へ入って下さい!」と、ケルトゥリ。
「魔法女子学園の皆さん、入り口はこっちで~す」と、ルネ。
「挨拶や説明が始まると離席出来ませんので注意して下さい」と、ベルナール。
大講堂前は大変な混雑振りである。
魔法男子学園の生徒らしい者は勿論、様々な年齢の入学希望者も続々と構内へ入場していた。
あまりの人混みにジゼル達は吃驚している。
「ああ、予想以上の凄い数だ! 何か急いだ方が良いみたいだな」
目を丸くしたジゼルが言うと、ナディアも強く同意する。
「確かに! まだ時間はあるけど、席順の関係があるのだろうね」
「成程! 良い席から先着順で埋まる――ということですね」
ジゼルとナディアの言葉を聞いて、ラウラも納得して頷いた。
ふいにジゼルが手を伸ばして、ルウの手を摑む。
先程ラウラが優しく勇気付けて貰っていたのを見て対抗したくなったらしい。
「じゃあ、だんなさ……い、いやルウ先生、行きましょう」
いつもの呼び方を慌てて訂正したジゼルは、ぐいっとルウを引っ張った。
先を越されたと、苦笑するナディアとラウラが続く。
そしてフランとアドリーヌも同じ表情だ。
ルウ達に気付いたケルトゥリ達も手を大きく振っている。
「あら、今来たの? 遅いわよ」
「ルウ様じゃなかった! ルウ先生に皆さん、お疲れ様」
「おお、校長代理、ルウ君、アドリーヌ君」
「おお、3人共お疲れ様」
「おはようございます!」
「朝早くからお疲れ様です!」
ジゼル達の父兄役として大講堂へ入るルウへ、ケルトゥリは悪戯っぽく笑う。
「ルウ先生、この通りよ。来年も今年同様、絶対に大変だから覚悟しておいた方が良いわ」
順当に行けば来年はルウが3年B組の副担任になるだろう。
そうなれば今ケルトゥリ達がやっている仕事をルウもやる事になる。
「ああ、了解だ」
ルウは親指を立ててケルトゥリに返したが……
「もう! 早く! 席が埋まってしまう!」
焦れたジゼルに思い切り引っ張られ、あっと言う間に構内へ連れて行かれてしまった。
フラン達も後に続き、残されたケルトゥリは大袈裟に肩を竦めていたのである。
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一方、別行動となったオレリー達も講堂前で更に気合が増していた。
今年度の入学希望者達の熱気に火をつけられた恰好だ。
「来年も多分同じ状況ね」
「絶対にそうですわ」
「良い心構えが出来ました」
「あら! やはりいらしていたのですね、オレリーさん達」
聞き慣れた声が響き、揃って腕組みをした少女が3人立っていた。
「あ、マノンさん、ステファニーさん、ポレットさん」
「ごきげんよう、皆様」
「おはようございます!」
オレリー達が挨拶すると、ステファニーとポレットも一礼した。
マノンも改めて挨拶する。
「うふふ……皆様、おはようございます! オレリーさん達がここにいらっしゃるという事は私の最優秀特待生奪取宣言に刺激されたという事でしょう。やはり私達をライバルと認めているのですね」
「素直に認めるわ、マノンさん……私達は今、燃えているんです」
「うふふ、まるで火属性の魔法使いみたいな言葉ですね! でも私だけじゃなくてエステルさんも居ましたよ。他にも私達と同学年の子達を大勢見掛けました。入学は再来年だというのに皆さん、今から凄い気合ですわ」
マノンの言葉にステファニーも頷く。
「従来の魔法女子学園にはなかったというか、私達の学年は飛び抜けてやる気充分なのですよ」
ポレットも納得したように言う。
「こうなった理由は……明確ですね」
マノン達の言う通り魔法女子学園の現2年生は明らかに変化していた。
2年C組におけるルウの指導が技術的なものだけでなく、魔法に対する前向きな姿勢をつくり、それが他クラスにも伝わって行ったのである。
「それでルウ先生は? もう講堂の中へ入ったのですか?」
「ええ、もうジゼル先輩達と中へ入りました」
「確か、本日はジゼル先輩達の父兄としての付き添いですわね?」
マノンが確かめるように聞くと、オレリー達は肯定する。
「ええ」
「そうですわ」
「羨ましいです!」
羨ましい!
……最後にリーリャが本音を漏らすとマノンはにっこり笑う。
「ふふふ、リーリャさんの仰る通りです。では皆さん、約束ですよ! 来年は絶対に私達が付き添って貰いましょう!」
「燃えて来ました! 私も負けません、ブレヴァル家の名誉にかけて最優秀特待生を目指します」
「そして……競争です! 誰が最優秀特待生を獲るかを……相手が誰であれ私が勝ちます!」
ステファニーが拳を握り締め、ポレットが勝つと言い切ると全員が大きく頷く。
先程のマノンの言葉ではないが、全員が火属性魔法使いとなったようだ。
ここでマノンが提案する。
「丁度良いですわ。今からこのメンバーで発進会をやりましょう! 大学のカフェで美味しい紅茶を飲みながら!」
「「「「「賛成!」」」」」
改めて気合を入れ直したオレリー達は、仲良く連れ立って歩き出したのであった。
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