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第823話 「魔法女子学園オープンキャンパス①」

 8月13日午前9時少し前……


 本日はヴァレンタイン魔法女子学園が来年の入学希望者に対して行う学校説明会、オープンキャンパスの日である。

 更に詳しく言うならばオープンキャンパスとは魔法女子学園のキャンパス内の施設・設備を開放しての学校の紹介を行うのは勿論、関係者の講演や説明会など様々な手法で入学希望者に理解を促すものだ。


 魔法女子学園が毎年1クラス約30人を3クラス、都合90人を募集するのに対し、父兄(と言っても主に母親だが)を伴った入学希望者は1,000人を楽に超えていた。

 闘技場の観客席に案内された入学希望者達はオープンキャンパスの式典が開始されるのを今か今かと待っている。

 闘技場のフィールドにはアデライド以下教師達がスタンバイしていた。


 暫し時が経ち……丁度午前9時となった。

 オープンキャンパス式典の開始である。

 

「皆様、宜しいでしょうか? ヴァレンタイン王国伯爵であり、当学園理事長でもあるアデライド・ドゥメールからご挨拶があります」


 拡声の効果を持つ魔道具を持ったケルトゥリがアデライドを紹介した。

 魔法の力で闘技場に声が木霊する。


 足取り軽く壇上に登ったアデライドは観衆に向かって深く一礼した。


「皆様、私が今、ご紹介にあずかりました当学園理事長アデライド・ドゥメールでございます」


 入学希望者、そして父兄達から拍手が湧き起こる。

 このヴァレンタイン王国で最も有名な魔法使い……

 アデライド・ドゥメールの名はそう捉えられていた。

 

 おもむろに片手を挙げて観衆の拍手に応えたアデライドは、軽く息を吸い込む。


「本日はお暑い中、ヴァレンタイン王立魔法女子学園のオープンキャンパスに足をお運び頂き、まことにありがとうございます。 限られた短い時間ではありますが、この機会に当学園の魔法の教育及び研究、学生への支援、淑女教育等について、より良く深く理解していただければ幸いです。そもそも我が魔法女子学園は、ヴァレンタイン王国初の女性の為に行われる魔法教育の機関として創立されました」


 アデライドは僅かに微笑んでいる。

 伯父であるエドモンの口癖を思い出したからだ。


『ははは、アデライド。挨拶はな。簡潔にするのに越した事はない。変に長い話をして自己満足に浸っているのは馬鹿者のする事だ』


 確かに……そうね。

 伯父様の仰る通りだわ。

 私も嫌だったから、学生時代。

 壇上で挨拶をする自分に酔いしれる校長先生が。

 そういう人に限って、くだらない話をやたら長くするのよね。


「当学園は創立された役目を果たしているとはっきり言い切れます。まだまだ男性中心の社会であるヴァレンタイン王国の様々な場において今や数多くの本学園出身者が活躍しているからです。何を申し上げたいかと言いますと、魔法は男女の差がないと言い切れる数少ない才能のひとつだという事です。入学希望の皆様、どうぞ当学園で素晴らしい才能を開花させ、有意義な人生を送る武器として下さい。本学園は教職員、そして設備共々、学生の才能開花の為に必要な環境をしっかりと整え、皆様の入学をお待ちしております。ご静聴ありがとうございました」


 アデライドは15分の持ち時間をものの数分で終わらせてしまった。

 お辞儀をしてアデライドは壇上から降りた。

 挨拶が終わったアデライドを慰労し、ケルトゥリが次のイベントを案内する。


「理事長、ありがとうございました! 続いて当学園教職員による魔法発動の実演を行います」


 またもや拍手が湧き起こる。

 娘が魔法使いの素養を持っていても、親もそうであるとは限らない。

 拍手をしたのは期待だけではなく、魔法に対する畏怖もあるのだ。


「まず最初はフランシスカ・ドゥメール校長代理! 火属性防御魔法、火の壁(ファイアウォール)を発動させます。では! フランシスカ校長代理、お願い致します」


「はいっ!」


 フランは大きな声で返事をするとルウ直伝の呼吸法で魔力をあっと言う間に高め、朗々と魔法式を詠唱する。


「天に御座します偉大なる使徒よ! その聖なる炎の護りを我に与えたまえ! マルクト・ビナー・ゲプラー・ウーリエル・ケト! ……火の壁(ファイアウォール)!」


 強大な魔力波オーラが放出され、異界から呼び出された巨大な炎の壁が噴き上がった。

 詠唱の正確さ、速さ……見事な発動を、入学希望者とその父兄達は目を丸くして見詰めていた。


 異界から呼び出された灼熱の炎の反射により、身体を赤く染めながら、ケルトゥリは淡々と説明する。


火の壁(ファイアウォール)は基本的な防御魔法の一種です。但し通常の術者ですと壁の高さは5mから良くて10mといったところでしょう。しかしフランシスカ教諭の場合は皆様もご覧の通りですが、ゆうにその倍はあります」


 魔法発動を無事終えたフランは除去の魔法により魔力を断ち、火の壁を消し去った。

 そして一礼すると、微笑みながら場を去って行く。


 観客席に居た枢機卿アンドレ・ブレヴァルは「ほう」と息を吐く。

 そして傍らの孫娘に同意を求める。


「彼女がアデライド理事長の娘、フランシスカ殿か。あのアールヴの言う通り素晴らしい防御魔法の腕前だ、なあ、アニエス」


「は、は、はい! おおお、お祖父様! さ、さすが私が教授して頂く先生だけの事はありますわ。私の才能を磨いて頂くには、ま、まあまあといったところでしょうか」


 アンドレの言葉に答えたのは、アニエス・ブレヴァル。

 あのステファニーの妹であった。


 盛大に噛みながらも、強気な姿勢を崩さないアニエスを見て、アンドレは目を細めた。


「おうおう……良く言った。爺じは頼もしいぞ」


「は、はいっ! 私はブレヴァル家の家訓を破った愚かな姉様とは違います。必ずやお祖父様の期待に応えてみせますよ」


「ははは、そうか! おお、次も防御魔法の実演らしいぞ」


「は、はいっ! お祖父様!」


 祖父が指差した先には華奢な身体のアールヴがひとり立ち尽くしていた。


 アニエスは「ごくり」と唾を飲み込んだ。

 身体が小刻みに震えている。

 アニエスは吃驚してしまったのだ。

 自分が思い描いていた魔法より遥かに上のレベルであった事に。


 しかし敬愛する祖父にそのような動揺は絶対に見せられない。

 アニエスは祖父に気付かれぬよう自分の膝を思い切りつねった。

 激しい痛みが伝わってくるが、何とか落ち着く事が出来た。


 そうこうしているうちにケルトゥリの発動準備は整ったらしい。


「では次に私ケルトゥリ・エイルトヴァーラが地属性の防御魔法、岩の壁(ロックウォール)を発動させて頂きます」


 ケルトゥリはふうと息を吐くと、アールヴで使われる独特な呼吸法で魔力をあげて行く。

 魔力が満ちた頃合と見たケルトゥリ。

 鈴のように美しいが、良く通る張りのある声で詠唱する。


「我は知る! 大地を司る天使よ! 我等へ加護を! 邪悪な敵を寄せつけぬ大いなる大地の守り手を遣わせ給え! ビナー・ゲブラー・ケト・ウーリエル!」


 魔法式を唱え終わったケルトゥリは、一瞬の溜めを持って決めの言霊ことだまにより土の壁を発動させる。


岩の壁(ロックウォール)!」


 大地が軋むような音が鳴り、地響きが起こる。

 闘技場の地面が盛り上がったかのように見えると、異界から呼び出された堅固な岩の壁が出現した。

 地属性の防御魔法、岩壁(ロックウォール)が発動したのだ。


 横幅3m程の岩の壁はどんどん空へ向かって伸びて行く。

 そして遂には20m近い高さになったのである。

 高さがほぼ同じなのは、先程のフランに対抗しての事だろう。


 おおおおおお!


 観客達が歓声をあげている。

 ケルトゥリを見詰めるフランは苦笑いしていた。

 完全にケルトゥリの引き立て役を演じてしまったからだ。


「いかがでしょうか、皆様。これが岩壁(ロックウォール)の魔法です。これだけ高ければ王都の城壁工事もあっと言う間に終わりますね」


 軽く冗句を飛ばしたケルトゥリは、フラン同様に除去の魔法で岩壁(ロックウォール)を消し去った。

 してやったりという、笑顔のケルトゥリが引き下がると遂にルウの出番である。


「むう! 彼が……ルウ・ブランデルか……」


 今迄孫娘を可愛がっていた好々爺は既に居ない。


 鋭い視線でルウを射抜くように見詰めるのは、この国でナンバーワンと言われる防御魔法の遣い手であったのだ。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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