第820話 「幕間 2年生委員長会②」
ステファニーはマノンとエステルの言葉尻を捉えて激高する。
自分が最低の女の子だと言われた!
そう感じているからだろう。
「な、何がゲスいのですか! もしですよ、親が勝手に決めた結婚で、おらおらみたいな俺様タイプの男が結婚相手になったら、マノンさん! エステルさん! 貴女方はどうします?」
おらおらみたいな俺様タイプ……
マノンの脳裏には今迄に何人か会った事のある上流貴族の子息の顔が浮かぶ。
彼等は大抵……おらおらタイプだ。
「おらおらなんて! わ、私は御免蒙ります! というか、断固拒否したいですわ」
マノンはいかにも嫌そうに、眉間に皺を寄せて首を振った。
一方、エステルはホッとして笑顔を見せる。
おらおらなんて、ぞっとします。
ああ、私は良かった!
あんな人と別れる事が出来て……
だが、これは不味かった。
マノンとステファニーの気に障ってしまったらしい。
どうやらエステルには既に恋人が居て相思相愛だと勘違いしたらしいのだ。
「ちょっと、エステルさん! 自分だけ幸せで良いなんて許しませんからね」
「そうですよ!」
案の定、非難するマノンとステファニーの目付きは怖ろしく真剣である。
鬼気迫ると言っても過言では無い。
あまりの迫力にエステルは、たじろいだ。
「ででで、でも、わ、私の場合は今は付き合っているどころか、好きな人も居ませんから」
好きな人も付き合っている人も居ない?
エステルの言葉を聞いた途端、マノンとステファニーの表情が変わった。
身を乗り出して一気にエステルの顔を覗き込んだのだ。
「ひいいっ!」
驚いて、後ずさるエステルを尻目にマノンとステファニーは勝ち誇る。
「まあ! 素晴らしい殿方を愛している私達と違って、何て何て不幸な方なのでしょう!」
「そうですよ! 付き合っている人どころか、好きな人も居ないなんて!」
エステルは唇を噛み締めながら、反論する。
学生は……勉学が本分の筈だ。
「恋愛より……わ、私は今は勉強ひと筋ですから……」
しかしマノンとステファニーは全くその考えを受け付けない。
「駄目です! 女とは恋に生きなければなりません。ピュアな恋が励みとなり、人生が充実し全う出来るのですから! 現に私がそうですから間違いありませんわ」
「そうですよ! 私も今充実一途ですわ!」
「えええっ!? そ、そんなぁ……」
エステルはさすがに、もう話題を変えたかった。
そこで話を元に戻そうとしたのである。
「そ、それより先程のステファニーさんの件ですよ! 大変な妹さんだけど……自分の幸せの為に妹さんを利用するのはやり過ぎですって」
「まあ確かにそれではステファニーさんがゲスっ子となりますわ」
マノンが少し考えて答えた。
いきなりの指摘に慌てたのはステファニーである。
「な!? 私がゲ、ゲスっ子!? 何を言うのですか! 私はゲスっ子じゃあありません! 必要に迫られた上での防衛対策ですわ」
自分の行動を正当化しようとするステファニー。
しかしエステルは少し違和感を覚えたようだ。
「でも……自分の幸せの為には形振り構わないというのは、ちょっと……」
エステルの言葉を聞いたステファニーは反撃した。
絶対に譲れないという気持ちが、ばりばり出ている。
「じゃあマノンさんも、エステルさんも胸に手をあててようく考えてみて下さい」
「え?」
「胸に手をあてて?」
「そうです! 今迄生きて来て自分の幸せを第一に考えた事が無いと、言い切れますか?」
「…………」
「…………」
確かにそう考えた事が無いとは言えない。
マノンもエステルも黙り込んでしまった。
「さあ、さあ、さあ! どうぞ絶対無いと仰ってみて下さい。今迄にそう考えた事は一度も無いって! ふふん、言えないでしょう?」
「…………」
「…………」
ステファニーは腕を組んで仁王立ちしている。
「そんな人間なんて存在しませんわ! もし、そんな事仰ったら、嘘をついた罪で当然冥界行きですものね」
「…………」
「…………」
鬼のような形相のステファニーが言う事に2人は反論出来なかった。
勝ち誇ったステファニーはここで仕上げに入る。
表情が一変し、何と笑顔に変わったのだ。
「では同じ穴のなんとやらで……協力して貰いますからね。マノンさん、エステルさん」
「えええっ!?」
「そんな!」
協力!?
一体、ステファニーは何をさせるつもりなのだろう。
マノンとエステルには悪い予感しかしなかった。
首を左右に振って断りを入れるマノンとエステルを、ステファニーは力任せに踏み躙った。
「えええっ!? とか、そんな! なんて言葉は私の耳には一切聞えませんわ。さあ、さあ、さあ!」
容赦なく攻め立てるステファニーを見てから、エステルとマノンは顔を見合わせた。
そしてステファニーに聞こえないようにぼそぼそと囁き合ったのである。
「マノンさん、実はステファニーさんってこんなキャラだったのですね?」
「気持ちは分からないでもないですが……枢機卿の孫娘がこんな悪女だったとは……私も驚きですわ」
溜息を吐くマノンとエステルの傍らで言質を取ろうとするステファニーの声が大きく響いていたのであった。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
読者の皆様にはいつもお世話になっております。
「魔法女子学園の助っ人教師」を始めとして、拙作の日頃のご愛読、誠にありがとうございます。
下記ご連絡です。
基本的には毎日更新して来た「魔法女子学園の助っ人教師」を10月3日以降、諸般の事情により週2回~3回程度の不定期更新とさせて頂きます。
但し、作者の中ではストーリーの流れがある程度出来ていますので完結に向けて頑張りたいと思います。
誠に申し訳ありませんが、引き続きご愛顧下さい。
何卒宜しくお願い致します。




